第4話 

 

 カーテンが閉ざされた昼間のリビングに、いやらしい水音と共にすすり泣く声が響いた。


「あぁん……Tさぁん。やだ……焦らさないでぇ……っ」

「Y美ったら、そんなに気持ちいいの? まだ指だけよ?」

「あんっあんっ! やだぁ……早く……早くぅ!」


 リビングの床の上で、私とY美は全裸だった。

 Y美は腰をくねらせて、私が下腹部に装着している男性器を模した玩具に、自らの卑猥な部分を見せ付けるようにして擦り付けている。


 あれ以来、Y美は私達との行為に溺れ、呼び出せばすぐにやってくるようになっていた。


 真昼間から、夫の浮気相手を自宅に呼び出して、濃密な時間を過ごす。

 ああ、夫に……Oに見せたい。自分の浮気相手が、よりによって自分の妻の下でよがり狂っている姿を。


 夫への優越感が、私を高ぶらせた。


「ほら! 言いなさい、Y美! 誰に抱かれている時が一番気持ちいいのか!」

「あぁぁっ! Tさん! Tさんですぅ!」

「あんなに彼氏自慢してたのにっ! こんなオモチャがいいの!?」

「んぁあっ! いい! いい! 彼とするよりもTさんの方がイイですぅー! あああっ! あんっあんっあっあっ!」


 Y美に腰を打ちつけていると、玄関のドアが開く音がした。

 今日はA子も加わって3人でする予定だった。A子が来たのだと思った私は、その行為を続けた。


「キャアッ!」

 リビングに入って来た人物の姿に驚いたY美は、その場に蹲り、腕で体を隠した。

 私よりも先に、その人物が驚きの声を上げた。


「T……!? な……なんだこれは!」

 そこに立っていたのは夫だった。


「O、どうして……!? まだ仕事中じゃ……」

 夫の帰宅まで、まだ6時間はあるはずだった。今まで仕事を早退して来た事など一度も無かった。

 何故、よりによって今日、こんな時に。


 私は驚いたが、行為の相手が夫の浮気相手だという事を思い出した。

 自分の浮気相手を妻に寝取られた事を知った夫は、一体どんな姿を見せてくれるのだろう。

 私は少し、わくわくしていた。


「誰だ、その女!」

「…………………………………………えっ?」


 この期に及んで、まさかY美との浮気を隠すつもりなのだろうか。


「A子ちゃんからTが電話に出ないからおかしいって連絡を受けたんだ。心配になって仕事を抜けて来てみたら……! お、お、お前……! 道理で俺にはセックスを求めて来ないはずだ……、こんな性癖だったとはな!」

「な、何言ってるの……彼女はOの浮気相手でしょ!」


 体を隠しているY美を引き寄せ、Oにその顔を見せてやった。


「何わけのわからない事を言ってるんだ……?」

「Tさん……?」

 Y美までもが、きょとんとした表情で私を見ていた。


「だって、O……この子と広島旅行に……。Y美、あんたOと不倫してるんでしょ!?」

「不倫……? こんな人、知りません。私の彼氏、学校の講師ですし……」


「え……? 何? なんなの? どういう事……」

「それはこっちのセリフだ! T……お前とは離婚だ!!」


 怒り狂う夫を、私はただ茫然と見上げていた。



 A子はバッグから赤いスマホを取り出すと、LINEを開いた。

 画面には、S崎M美の名前が表示されている。


「LINEなんてスマホを二台契約すれば、別アカウントを作れるのに。本当、馬鹿ね」


 Oが出張だと偽り、泊まり込んでいたのはA子の部屋だった。

 万が一、LINE画面をTに見られてもA子との関係がTに知られない様に、A子はスマホを使い分けていた。

 Y美はたまたま巻き込まれただけの部外者でしかない。


「高校時代にTにO君を寝取られた怨み、やっと晴らせたわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ネトラレリルレ 栖東 蓮治 @sadahito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説