犯行可能な人物

佐藤だ。


赤城くんと東條、風間の3人は一応起きたがかなり眠そうで、まだ意識がはっきりしていない。


もう1班の私たち4人は、ほぼ同時に佐藤の首の跡を発見し、一気に目覚め、絶句してしまっていた。


「すぐに場所を変えましょう。まだ目覚めきれない3人を支えながら全員で食堂へ行きましょう。残念ですが…。」


飯田の指示に従い、残された7人は食堂へと動く。


食堂に着いた後は、どうにか半分寝ている3人を起こしにかかった。


全員が起きたところで、その場にいた誰もが絶望の表情を露わにする。


「つまり、また殺人が起きてしまったんですね。」

しばらくの沈黙の後、口を開いたのは赤城くんだった。


「ごめんなさい。17時からは赤城くんと私で見張りの予定だったんです。でも私ったら、いつの間にか睡魔に負けて寝てしまっていて。」

そう話したのは風間だった。


「ごめんなさい。自分もです。」

赤城くんもそう続く。


「いいや。これではっきりしましたよ。犯人はあなたでしょう。赤城さん。」

突然の東條の発言に、その場の全員の眠気が一気に吹き飛ぶ。


「…え。俺ですか。」

赤城くんもさすがに驚いていた。



「私は2人目の犠牲者、塩見さんが殺された時からあなたのことを疑っていました。実は清野さんには話していたんですけどね。高橋さんと塩見さん、第1と2の殺人は毒殺だったため、誰でも犯行可能でしたが、三森さんと佐藤さんの殺人は違う。アリバイがある人が何人もいます。犯行可能な人は絞られるんですよ。」


「いや、たしかに俺は見張り当番でしたけど、ただ申し訳ないことに寝ちゃってて…。さすがに疲れが溜まってきていたので。」


「ちゃんと説明します。まず、第3の殺人、三森さんが殺された件ですね。みなさんすぐお分かりの通り、今回殺された佐藤さん、そして管理人の國谷さんの2人はお互いに証言していたため、犯行不可能です。また、2階に行ったのは清野さんと橘さん。彼女ら2人は他に誰も2階に来ていないと言った。この旅館の廊下は、歩けばどんなに慎重にしていても音や気配は完全には消せないでしょう。これは皆さんもわかっている通り、廊下を歩くと大分床が軋む音がするので。それに自分の命がかかっている時です。聞き逃したと言うこともかなり考えられない。2人は逃げた後合流するまで2階から動いていないと考えられます。そうすると、残る容疑者は自分と飯田さん、風間さんと赤城さんの4人です。そして次に、自分はゲームセンターに隠れていましたが、しばらく隠れている間、1回だけ、微かな音でしたが、誰かが一度廊下を移動して通り過ぎていった音を聞いています。ロビーの方から食堂側へ移動する音でした。自分はその時、侵入者だと思って、必死に息を殺したものです。私はあの音が三森さんを殺した犯人が移動する音だと思っている。今残っている容疑者は4人。皆さんから信頼してもらうのはまだ出来ていないですが、自分を除くと3人。そして飯田さんは清野さんと橘さんに見つけてもらうまで男湯の更衣室にいた。それでは一度だけ聞こえた移動の音の説明がつきません。もし飯田さんが犯人なら、ゲームセンターより食堂側のところで隠れていなければいけないのに、彼は完全に逆サイドで隠れていたのですから。そのため、彼も除外されます。残る犯人候補は赤城さんと風間さん。まあ一応、風間さんが隠れていた中庭に移動するなら、私が聞いた音とも矛盾はないので。ですが私は、3つ目の殺人が起きた時点で、赤城さんが犯人だとほとんど確信していました。」


「待ってください。私は第1と2の殺人で犯行はほぼ不可能と、唯一犯人ではない人物として認識されていたはずです。」


「いいや。今回のこれは明らかに計画殺人だ。それに高橋さんと塩見さんの殺人は、直接殺すのではなく、飲み物と薬に毒を入れただけ。それならこの旅館に来る前にどこかで接触できていればあなたにも犯行は可能だ。」


「まあたしかにそうですが。今の時点であなたの意見は風間さんと俺のどちらかが犯人というだけ。何故そこから俺に断定したんですか。それにあなたは勝手に自分自身を犯人候補から下ろして話しているだけで、他の人から見たらあなたも犯人候補の1人のはずだ。あなたがもし俺を犯人にしたいということなら、足音の証言も宛にはできない。そうするとまだ飯田さんも犯人候補に上がってくる。あなたがデタラメの足音の話をしているのならね。」


「自分はそんなことは言いません!」


「待ってください。」

私は見てられなくなり、間に入った。


「たしかに私は東條さんから、塩見さんが殺されたあと、赤城さんが犯人だと思う推理を聞きました。しかし、それは証拠も無くただの憶測でしたよね。私にもまだこの犯人が赤城さんなのかはわかりませんが、決定的な証拠がないなら、あまり責めすぎても埒が開かないと思いますよ。」


「…たしかに。すみません。取り乱しました。でも強く言わせてください。まだちゃんと証拠は掴めていませんが、自分は絶対に犯人は赤城さんだと確信しています。どうか皆さんお気をつけて。」


東條は本気だった。


「東條さんの意見は置いておくにしても、この事件の犯人は、赤城さんか東條さん、風間さんか飯田さんの4人の誰かということですよね。」


橘が声を震わせながらそう言う。

誰も反応を示さない。


「清野さん!そうですよね。管理人の國谷さんも。」


「…たしかに。矛盾はないですね。」

私はあまりこの事実を受け入れられてはいなかった。この中に犯人がいると信じられていない自分がいる。


「はい。」

國谷も大分怯えていた。


「一応私から付け加えるなら、飯田さんには申し訳ないですが、私たちのグループの3人、私と國谷さん、清野さんを起こしたのは飯田さんです。私たちが寝ている間にそちらの部屋に行って佐藤さんを、ということも一応無理ではないことを伝えておきます。飯田さんごめんなさい。あなたを疑っているわけではないのですが、事実を隠したくはなくて。」


「構いませんよ。とても大事なことです。」

飯田は何も気にしてはいなかった。


現時点では誰が犯人なのかなんとも言えない。本当は東條が犯人で、その東條が執拗に赤城くんを犯人に仕立て上げようとしているようにも見える。

ただ東條の足音の証言が本当であれば、犯人は確実に赤城くんか風間のどちらかだ。直接手を下す力の強さの面でも、男性の赤城くんが犯人である可能性は高く見えるだろう。


その場の雰囲気はいよいよ最悪になっていた。全員が疑いの目を誰かに向けている。

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