第五膳『おでかけとちらし寿司』(回答)

 天蓬テンポウさんと並んで歩きながら、『ちらし寿司』リサーチを始める。


天蓬テンポウさんはお肉とお魚、どっちが好き?」

「ん? なんだ、急に?」

「ちらし寿司の具材を何にしようかなと思って……」


 天蓬さんが後ろを歩いていた金炉キンロさん達を振り返って、三人で肩をすくめている。


「もしかして、天蓬テンポウさん、食べたことない?」

「ない。だから楽しみだ」


 自慢げに胸を張って、天蓬テンポウさんが答え、金炉キンロさん達がうんうんと頷いている。


 ―― 仕方ない。じゃあ、見栄えが良くて、天蓬テンポウさんの好きなものを使って、ちらし寿司にしてしまおう!! 


 私はそう心に誓った。


 森をぬけて、街の外壁が見えたところで立ち止まった。ここから先は、妖術具を使う手はずになっている。

 天蓬テンポウさんは、『怒られずにちょっとの間だけなんでもし放題妖具』をまとった。一番上のボタンを握りしめながら「消えろ!」と唱えると、すうっっと天蓬さんが透明になる。「おお!」としきりに天蓬さんがいたあたりをペタペタと触る金炉キンロさん達。


「おい、くすぐったいだろう!」と天蓬テンポウさん。


「見えなくなるだけなんすね。これが『怒られずにちょっとの間だけなんでもし放題妖具』の効力! 全然違和感なしです! 」

「まさに、視覚の妖術!! 」

「この効力は半刻くらいしか持たないからね。それ以上まとっていると恥ずかしいことになるってお師匠様が言っていたから気をつけてね!」

「おお」



「お肉とお魚どっちがいい? 」


 後ろにいる金炉キンロさんが、「に? え? ええっと、肉がいい」と答えた。たぶん、金炉キンロの耳元で天蓬さんが囁いているに違いない。


「お肉ね? あとは?」

「オレ、きんかん!」と銀炉ギンロさん。

「そりゃ、銀の好みだろ!! オレ、それ苦手。……ん? あとは任せるって」と金炉キンロさん。


「じゃあ、何の肉がいい? そこのお肉屋さんには、牛、豚、羊、鳥、蛙、ワニがあるわ」

「え? ぇぇ? ああ、う、牛がいいっす!!」と金炉キンロさん。


「牛かあぁ……。そーいや、あの三つ目牛、食えんのかな?」と銀炉ギンロさんが、じゅるっと口元をぬぐうふりをすると、ゴンと音がした。「いってぇ……」と頭をさすっている。


 ―― あ、天蓬テンポウさんが殴ったに違いない。


「もう! ハナさんは食べられないわよ!! まずは、薬草屋で薬草茶を売って、それから、牛のかたまり肉と野菜を買うわ」

「「了解!」」


 いろいろあったけれど(作者都合で省略)、無事に、牛のかたまり肉、乳草レタス西紅柿トマト大蒜ニンニク菜花ナノハナ竜髭菜アスパラガスを買えた。


 ―― 買い物かごがふわふわと空中を漂っていただなんてことはしーらないわ。(透明人間の天蓬テンポウさんが持ってくれたからね)



「じゃ、ご飯は私が土鍋で炊くね。だれか、お肉を焼いてもらってもいい?」

「はいはーい! オレ!オレ!」と金炉キンロさんが手を挙げた。

「じゃあ、お願いするわ」


 土鍋でご飯を炊く間に、私は、赤紫蘇のふりかけをお酢に入れておく。それから、西紅柿トマトを切ったり、菜花ナノハナ竜髭菜アスパラガスを茹でたりして準備をする。銀炉ギンロさんに近くの花畑で食べられる花と葉を摘んできてもらう。


 ご飯が炊きあがったら、作っておいた赤紫蘇のふりかけ入りのお酢をかけて混ぜる。もちろん、『雨もへっちゃら乾かしてみせ妖具』を使って風を送ってお米を冷ますことは忘れてはいない。私の隣で肉を焼いていた金炉キンロさんが興奮気味に「おお!」と叫んでいるのは無視。真っ白なご飯がほんのり赤く染まっていく。


 ―― 水蓮特製ピンク酢飯のできあがり!!


 そして、水鏡用木桶にレタスをしいて、お握りくらいの大きさに握ったものをのせる。そこへ西紅柿トマトの輪切り、菜花ナノハナ竜髭菜アスパラガス、少し大きめの一口大に切り分けたお肉を均等に並べる。こうすれば、乳草レタスごと取れば、お寿司がくずれない。そして、銀炉ギンロさんが摘んできた花と葉を水洗いしてきれいに盛り付けた。


「まさしく花畑だな。この花も食べられるのか?」


「もちろん!!」と銀炉ギンロさんが胸を張って答える。


「水蓮特製春のお花畑ちらし寿司の出来上がりよ。さあ、召し上がれ」




「うまい!! 赤い肉を噛むと甘い脂が口の中にひろがる。このこってりとした感じは牛の肉を堪能している!と思わせてくれる」

「わたしは、本当は牛の脂が苦手ですが、酢飯や野菜と合わせて食するとあっさりと食べられます。見た目も色とりどりで美しいです」

「オレが摘んできた花もシャキシャキっとしていていいだろ?」

「ああ。いい。食感が違うから、あきがこない! 銀炉ギンロもセンスあるぞ!」

あるじに褒められたぞ! 金!!」

「オレだって、肉を焼いたんだぞ。最初にあるじが肉が旨いと言ってくれたぞ!」

「ああ、二人ともいい仕事をした」


 天蓬テンポウさん達四人がお互いに感想を言いながら食べているのを見て、私はとても嬉しくなってきた。こんなに大勢の人のためにご飯を作ったのはとても久しぶり。みんなが笑顔になって、すごくすごく嬉しい。

 あまり元気のなかった天蓬テンポウさんもよくしゃべるし、時折、牙のあたりの頬をゆるめて口角をあげている。


 ほんと、よかった。


 私が作った料理で、幸せな笑顔になってくれて……、ほんと、よかった。




****

 きんかん:鳥の雌鶏からとれる内臓の一種(卵管だったっけ?)

 『怒られずにちょっとの間だけなんでもし放題妖具』のハプニングは字数の関係で省略しまーす。






 

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