第6話 ひらめき

 豊岡の件については、当然ながら一般に発表されていないことも多かった。したがって模倣犯ということは考えづらかったのだ。


 つまり豊岡と今回の犯人は同一人物とみるべきだろう。

 この手の事件の場合、捜査本部としては変質者や前科のある者を洗い出しすことになる。


 が、当時、兵庫県警も当然同じことをしているのだ。そして犯人はいまだに検挙できていない。

 兵庫県警が間抜けという考え方もあるかもしれない、でも、そんなことはたぶんありえない。徹底してローラーをかけたはずなのだ。


 つまり、その線から犯人にたどり着くことは困難と予想されるのだ。

 それでは、どうする。両方の事件とも遺体の遺棄に関して目撃者はいない、別に人通りがないわけではなかった。


 現に遺体の発見者はともに散歩を日課としている人だった。つまり犯人はその時間帯に人通りがないことを承知しているのだ。要するに土地勘があるということになる。


 豊岡と舞鶴両方に土地勘がある人物。同じ日本海側の町とは言え、経済圏も違えば文化圏も異なる。人々の移動は両方とも太平洋側に向かっている。


 豊岡からは神戸に、舞鶴からは京都に。豊岡、舞鶴の移動はまれだ。両方の人物と接点があり、かつ豊岡、舞鶴間を生活基盤にしているもの。


 意外と簡単かもというムードが捜査本部に漂い始めた。

 豊岡の事件だけではしぼり切れなかった犯人が、今回の事件でで浮き上がってくるだろう、そういう考えが大勢を占めていた。


 が、それは甘かった。凛たちがいくら被害者の周辺を当たっても、めぼしい人物が一向に現れなかったのだ。

 そもそも被害者の身元を隠そうとしなかったことを考えると、被害者とのつながりはない、要するに流しの犯行ということもあり得る、日にちが経つにつれ、そういった意見も出るようになってきた。


 一時楽勝ムードになっただけに落胆も大きい、捜査陣には一気に疲れの色が見え始めた。


 剛太郎はというと、そんな世界とは少しかけ離れた留置係としての日常をこなしている。

 殺人事件の捜査中であっても、ほかの犯罪も起こるのだ。窃盗もあれば繁華街での傷害事件、交通課所掌のひき逃げもある。


 それらの人間の受け入れと、生活の補助は止めるわけにいかない業務だ。

 今日も、ひき逃げ事件の被告人の裁判で地裁支部まで移送業務があった。


 本当は裁判が始まるころには、拘置所に身柄が移されているはずなのに、向こう側か検察官の都合で留置場に入れられたままの場合がある。


 そうなると、刑務官がやるべき仕事を剛太郎たち留置係が行うことになるのだ。

 はっきり言っていい迷惑なのだ、どうも警察官は司法関係の職員の中で一番割を食っているような気がしている。


 裁判の間中、剛太郎にはすることがない。時たま裁判所で暴れるものもいるが、普通は何も起こらない。

 剛太郎たちは被告の横で裁判を聞いているだけだ。


 その時剛太郎はふと気が付いた、豊岡の被害者も、父親は犯罪者だったはずだ。栽培の膨張に来ていたのではないだろうか、少なくとも片山杏奈は傍聴に来ていた。


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