第4話 考えている

例えば君が死んでしまった時

私はどんな声で何を発するんだろう

死別は初めてじゃないし

今日の空の色くらいあっけらかんとしているかもしれない

そんなこと考えているこの頃、

老いた鏡に向かって大声で叫びたくなる

「なんであんなに苦しめたのか」

「どうして今まで愛さなかったのか」

でもそれはもう どうしようもできなくて

だから考えている

もしも君が死んで、私も死にかけていたら

心が先に死ぬのか、身体が先に死ぬのか

はたまたどちらもより楽になるのか

昔読んだはずの本には

樹木と人の暮らし向きをなぞった詩が書かれ

私はこうやって生きていこうと決めていたが

枝分かれして根が腐り老いた私という樹木は

もうすぐなのかすぐそこなのかもっと未来か

わかりもしない死別にのたうちまわり

考えているだけ

ただあの日よりは空の綺麗なことに

感動しなくて済むようになったし

あの日よりは人生の薄暗い隅にうずくまり

しめしめと人を騙し目眩しするようには

ならずに済んだので

まだ考えているだけのデクの棒みたいな

余生であり未来であり成れの果てである

私の老いた鏡に向かって

叫びながら

考えて

いつか君が死んだ時になればわかる

一番初めに来る気持ちの名前を

今はまだ ただ 抱きしめていたい





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