27 美香さんにどきどき


「あのね、ハルちゃん」


 美香はハルに説教をする。女の子とはどうであるべきか。自分でもババ臭いと思いながら説教をする。少なくともほぼ裸みたいな格好で男の子の布団に入ってはいけないことは教えねばならない。


 そんな美香の気持ちに対してハルは、


「うん」


 と素直に聞いている。


 でも、美香は思う。このままハルという野生児を放置したら、レイ君は欲望に負けてこの女とくっつきそうだと思った。


 だから、対抗策としてちょっと強めにレイ君を誘惑ゆうわくしてやろうと思った。


(もう、それくらいしちゃってもいいよね…)




 そこから、何日もしないある日のこと…。


 この日は3日ぶりのシャワーの日である。ディストピランドのシャワーは先述の通り、移動式でどこにあるかわからない。普段は1~2台くらいはメンテナンスピットに置いてあるのだが、最近は全部出払っていたのである。


「それでね、僕が見つけたシャワー室はこっちだよ!」


 しかし、八尋がシャワー室を見つけたのだ。しかも、昔使われていたもので漫画に出てくるような固定式の簡素なシャワー室である。


「なんかとっても広いね」


「これが普通のシャワー室なんだよ!」


「こんな漫画に出てきたようなシャワー室。本当に存在するんだね」


 ディストピランドの鋼鉄のロッカーのような密閉式シャワー室ではなく、仕切りは頼りないパネルとカーテンが一枚である。なんと開放なことだろう。これは確かに、隣を覗き放題である。


「これが、本物の裸の付き合いってやつ?」


 しかし、今の八尋は男の子モードである。その時は精神も男なので、こんな風に裸を見た程度で恥ずかしがったりしない。だが、女装をした後だと顔を真っ赤にして恥ずかしがる。男の娘とはなんとも難儀な体質であった。


「あ、ごめんシャンプー忘れてきちゃった。僕とってくるから先に入ってなよ!」


 という、八尋に甘えて僕はシャワーを浴びることにした。


 蛇口をひねると、シャーっと暖かいお湯が流れてくる。


(ほんと、漫画のとおり…)


 ミストではなく大量のお湯がドバドバ出てくる贅沢さに感激していると…


 バタン。急に誰かが部屋に入ってきた。


(八尋? にしては早すぎるような…)


「レイ君? 私もお邪魔するね~」


 美香さんだった。


「えっ、どうしたんですか?」


「乙女はみんなシャワーが好きなのよ」


「ハルちゃんは水に浸かるの嫌がりますけど?」


「あの子は変わり者なの!」


 そんな声と共に、隣のシャワー室のカーテンがシャッと開き、すぐに閉じた。


「え?」


 正直、このシャワー室。さっきも言ったが仕切りが低く、振り向くと美香さんと目線が合うほどだった。覗こうと思えば覗けちゃうのだ。


「ええっ??」


 美香さんの瞳がいつもと違って、うるうるして、ほほも赤く火照っている。まだ、お風呂入ってないのに…。


「あんまりじろじろ見ないの。恥ずかしいんだから…」


 しかられてしまう。見てはいけないというから、僕は下を向いてシャワーを浴びることにする。足元を見ると、美香さんの綺麗な足に水が滴り落ちていた。


 このシーンはどこかで見たことが…。


 そういえば、僕の読んでいた漫画にそっくりのシチュエーションがあるのだ。主人公に気がある女の子が振り向いてもらうために、誘惑しようと考えてこんなことをしていた。


 今の状況はまさにそのままだった。


(ちょっとまって。美香さんが僕を誘惑してる?)


 だから、僕はそんなことを考えてしまうのだった。


「ふーん、ふふーん、ふーん」


 美香さんは気持ちよさそうに鼻歌を歌う。


「ねぇ、レイ君。ちょっとこっち見て」


 そう言われたから僕は顔を上げたのに。


「やっぱ見ちゃダメ」


(これ、やっぱり漫画と同じ光景だ…)


 ほかのシーンに比べてエッチ度合が薄いから割と読み飛ばしていたけど、現実にこんなことされると、とんでもなくどぎまぎする。不覚にも僕のあれがパワーアップしてしまった。


(僕は誘惑されている?! 気があるってこと?)


 よく考えてみれば、ハルちゃんは僕になついているけれど、それは単に慣れているだけである。最初に顔を合わせた人だから、懐いているだけなのだ。けど、美香さんのこの行動がもし誘惑なら、僕は人生で初めて人間に好かれている。


(いや、まて、落ち着け)


 ハルちゃんの身体は正直とっても良く眺めていて、とってもエッチなので大好きではあるのだけど、何か違うと思っていた。一方で美香さんの体なんていつもがっちり服を着ているから肌を見たことなんてない。


 上から覗いたら…。見えるのかな? と考えてすぐに冷静になる。そんなことをしたら見つかってしまう…、じゃぁ、このままそっとしゃがんで下からだったら…。


 すすっと音がしないように膝を曲げてしゃがんでみる。しかし、下の仕切りから見えるのは相変わらず足ばかり。もっと、地面に頭をつけるくらいじゃないと…。


(でも、美香さんに嫌われないかな)


 あと、もうちょっとだった。だけど僕は寸前で自重した。


(ケンジみたいな扱い方されるのはちょっと嫌だ…)


 僕は、壁一枚がもどかしく頭の中がいっぱいになったのである。


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リアル嫁ガチャ実施中☆ディストピランドの恋愛事情 遥海 策人(はるみ さくと) @harumi_sakuto

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