10 Youは何の罪でここにいる?

 

「歩けるかい? 僕たちの集落に案内するよ」


 二人に手を引かれながら、二人にこんなことを聞かれた。


「君、もう名前があるんだね。ディストピランド民には珍しいタイプだ」


 人民に番号はあっても名前はない。名前が与えられるのは、無謬むびゅうの存在だけであり、それはシジディアやシジノードのような特別な存在だけなのである。だけど、僕は名前があった。


「一緒にいた女の子につけてもらったんです」


 だから、僕は正直に答えた。すると、二人はさらに目を丸くした。


「女の子が一緒にいたの。どうして?」


 ディストピランドは完全孤独の理想郷ユートピア。全員がボッチならさみしくない! 世界の闇、社会の闇、他人の闇。あらゆる闇から鋼鉄のコンテナが守ってくれる。だけど、僕はその内側にハルちゃんというとても大切な人がやってきたことを話す。


「僕の名前はハルちゃんにつけてもらったんです」


「そっか、好きなの?」


 興味深々きょうみしんしんの美香さん。僕の話をたくさんうなずきながら聞いてくれるから僕は一所懸命に話した。途中から八尋が飽きてきてあくびをしていたけれど、美香さんはぐいぐい質問をしてくれた。


「二人が結婚したら完璧になろうって…」


「きゃー!」


 なぜか美香さんのテンションが上がる。しかし、八尋は首を傾げながらボソッとつぶやく。


「でも、ハルって子は早く探したほうがよさそうですね」


「どういう意味ですか?」


「その子、シジノードのところに行ったら…」


「今は、黙っときましょう」


 意味深な言葉を残す二人。その後二人は無言で歩き続ける。そして、ある扉の前で立ち止まる。


「着いた。ここが僕たちの集落だよ」


 扉を開くと、八尋はいろいろ説明してくれる。このディストピランドはテーマパークだったこと。その中にショッピングモールがあって、今の彼らは閉鎖された旧ショッピングモールで生活しているのだという。


「広い場所ですね」


「集落の中では小さいほうだけどね」


 八尋は町の雑貨屋さんや、食品屋さんを紹介してくれる。みんな普通に名前があって、何年くらい生きていて、それに、結婚している人もいた。みんな、仕事をしているけれどここの人たちはディストピランドほどきっちり仕事しているわけではなさそうだった。道具を修理する鍛冶屋さんなんて、僕たちが近づいてもぐっすり眠っていたし。


 そして、みんな自己紹介がてらこんなことを言う。


「俺は『シジノードのあほ野郎』って言ったから罪が二つ付いたな。一つは国家こっか冒涜ぼうとくざい


「もう一つは?」


国家こっか機密きみつ漏洩ろうえいざいだ!」


「はははは!」


 それに、八尋はとてもいろんな人の罪やこのディストピランドのことを知っている。みんなからも物知りだって言われて褒められていた。


「救護士のエリカさんはね、国家反逆罪だってさ。なんでだと思う?」


「うーん。わからない」


「幸せかってシジノードに聞かれて『別に』って答えたからなんだって」


 ここのみんなは背負わされた罪をなんとも思っていないようだった。受けた罪を認めない。だからこそここで専制国家の呪縛じゅばくから解き放たれ、新しい秩序の構築を試みているのだという。


「ところで、レイの罪は何なんだい?」


「僕の罪は、反革命はんかくめい扇動せんどうざい。僕たちの行動が煽情的せんじょうてきだったから扇動せんどう罪なんだって」


「はははは。それも面白い罪だね!」


 僕はなんだか、気分が楽になった。罪人でも受け入れてくれるこの場所がとっても暖かく感じた。


「ところで、美香の罪は聞いたか? ディストピランド史上最悪の犯罪者だからな」


「そうなんですか?」


「あぁ、普通ディストピポイントなんて懲役20年もつけばすごいじゃん?」


 僕は初犯なのであまり知らないが、どうやら20年の懲役に処されることはなかなかないらしい。


「美香はね…。ディストピポイントでいうと懲役600年相当の罪だったんだ!」


 僕は素直に驚いた。さらに詳しく聞くと初犯で600年。一体、美香さん何をしたというのか…。


「君たち、一通り挨拶は終わったかい?」


 そんな話の最中に美香さんに声をかけられた。僕は自然と背筋がピンと伸びるのであった。この人やべー人なんだって、本能で感じ取ってしまった。

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