第43話 一騎討ち

「フハハハハハハ。あのこ汚いクソガキと一緒に踏みつぶせると思ったんだけど、君の機動力を少々過小評価していたみたいだ。だが君の速度はフラタニティフレームを採用したこの機体であれば対応可能。こちらも次は外さない」


(ちょっと頭にきちゃった。今度は、こっちも本気でいかせてもらうから……。魔力量の残量も十分。そしてこの広さなら、完全展開も使用可能! よしっ。こっちも本気だしちゃうんだからぁ!)


『「アルマトスフィア――完全展開!!」』


 全身に竜鎧装着ドラグアムドをまとった施す状態を完全展開と呼ぶ。通常の機兵とは異なり神経接続によって、私の動きを遅延なしに完全再現することができる。


 つまり、機兵でありながらまるで自身の身体の延長線上のように自由に稼働させることができるのだ。とはいえ、小型にして、高性能なアルマにも弱点はある。


 その一つが機体の小型さゆえ魔導炉が搭載されていない点。アルマの稼働時間はすなわち、竜鎧装着ドラグアムドをまとった者の魔力量に依存する。


 アルマの限界稼働時間は私とリューの魔力量の合計値。搭乗者のポテンシャルが、そのまま機体性能になる。


(本当は、ロード・シュタインが竜人とか確定するまでは、温存しておきたかったんだけど、ね……子供がを人質に取られている以上勝負は、、そうもいかなくなったわね)


「――何ですか、それは? 見たところ、強化外装……いや、機兵でしょうか。まあ、どちらでも良いでしょう。人が機兵になるとは、どんな手品かは知りませんが……。所詮は珍しいだけのガラクタ。コンセプト優先の実用性のない趣味的ワンオフ機。……汎用性のない機体など恐れるに足りませんよ」


「言ってくれるわね。でもそのセリフ、勝ってからの方がよくないかしら?」


「それもそうですね。フフフッ。良いでしょう。では、この第六世代機ソルダートにて、貴女の機兵を破壊してから、改めて同じセリフを言わせていただきましょう」


 鋼と鋼がぶつかりあい、火花が爆ぜ飛ぶ。ともに剣と剣と鍔迫り合わせるだけの対決。ただ鋼と鋼が打ち合うだけで破壊的な力の奔流が吹き荒れる。


 タニアが踏みしめる地面が、抉れる。超高速の剣戟。機動力を奪われた機兵は激突しあう二人の超高速の剣戟を見届けることしか叶わない。


 ソルダードの刺突が空を切る。アルマの背後の彫像。黄金で造られたロード・シュタインの像が、粉々に打ち砕いた。


「フフフ……。その彫像、気に入っていたのですがね。まあ、良いでしょう」


 驚嘆すべきはフラタニティフレームを採用した第6六世代機の機動性。神経接続型のアルマの挙動に追随することができる機兵は今まで存在しなかった。


 それだけではない。その第六世代機の登場者、ロード・シュタインという男の技の冴えはまるで一流の剣士の物。


「それなりにやるようですね。こんなに心躍る戦いは、初めてですよ」


「そう。よかったわね。私は、この程度は日常茶飯事だけど」


 横薙ぎに剣を振るう。が、……空を切り、当たらない。お互いの戦力を見極めながらの戦い。膠着状態が続く。


 ロード・シュタインは後ろにダッダッと跳び、距離を取る。そして、ロングソードを右手に握り、すっと前方に突き出す。恐らくは、この男の持つ最強の剣技。


「なかなか楽しい時間でした。ですが、第六世代機の性能試験としてはもう十分過ぎるほどのデータは取れました。そろそろ――獲らせて頂きます」


 ロード・シュタインは、この一撃で決着を決める心積もりのようだ。長剣をゆらりゆらりと剣を指揮棒のように振るい……。


「【帝国貴族御流刺突細剣術シームレス・ノーブル・スティング】」


 三国一流麗な剣技とも謳われる、刺突攻撃。


(――来る!)


 ゆらりゆらりとした流麗な動きから、繰り出される超高速の刺突。……視覚で捉えることが不可能な高速な直線軌道。


(ならば、避けなければ良いだけよっ!)


 王冠構えフィオーレ。竜殺し包丁の切っ先を天に向け、剣の平を相手に向ける。面の広い竜殺し包丁であれば、心臓、喉笛、脳、人体の急所を防ぐことが可能な防御の型。


 ――バリィンッ!


 最速の刺突が竜殺し包丁の平に衝突し、砕け散る。相手にとっても乾坤一擲の決め手であれば、狙いは急所。だからこそ、読むことができた。


(まあ、ちょっとした賭けだったけどねっ!)


 ロード・シュタインは剣を砕かれ、全力の刺突を繰り出すことによってさらけだされた胴は、今やがら空き。


「はあぁっ!」


 ガラ空きの胴を真っ二つに両断した。


「……なぜ。私の……ソルダートが……こんな……はずでは……」

「第六世代機も、その刺突剣も十分な脅威ではあったわ」

「なら……なぜ、私が……」


 自身が敗北した理由を理解できないようだ。それも無理もない。人の創り出した物に価値を見いだせない竜人の驕り。だから《敬意が無い》。


 第六世代機ソルダートにも、その剣技にも。この男が使った【帝国貴族御流刺突細剣術シームレス・ノーブル・スティング】、決して弱い技ではなかった。


 だが、それは刺突剣レイピアを使って放たれた場合の話だ。もし、あの奥義が然るべき使い手が放っていたのなら、あるいは異なる結果になっていたのかもしれない。



 だが、私が勝利した。その結果が全てだ。

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