第15話 エルフの里
「ここがエルフの里ね」
私は竜殺し包丁をかつぎ、馬車の外に出る。エルフの里の入り口に向かって歩いていると、守衛兼案内役をしていると思われる男に声をかけられる。
「タニアです。エル・ファミルから来ました」
「長旅お疲れ様でした。歓迎します。さあ、タニア様なかへお進み下さい」
案内役のエルフの後ろをついてエルフの里の門を潜る。里に訪れるよそ者は珍しくないのだろうか、案内も手慣れている。
エルフは組合などで目にすることはあるが、ほとんどのエルフは機能性の高い一般的な服を着ている。
それに対しこの案内役は明らかに『THE・エルフでござい』というようなかなり一般的に思い描かれているようなエルフっぽい格好をしている。
(やっぱり交易都市と距離も近いから観光目的で訪れる人も多いんだろうな)
事実、エルフの里のなかを歩いているなかでいかにも観光目的と思われる人たちともすれ違った。街からもそう遠くないので、羽根を伸ばして休むには最適な場所なのだろう。
(……へぇ。ちゃんと魔物除けの楔石も設置してるのね)
交易都市との交流も少なくないからだろう。エルフの里の中はある程度近代化されていることからも、自分たちの価値観をゴリ押しするのではなく近代文明を受け入れる懐の深さがあるようだ。
案内役が背負っている弓もよく見ると合金製。木目に見えるような塗装でぱっと見は木製の弓に見えるが、よくよくみると合金であることが分かる。景観に配慮してか、鉄や樹脂製品などには緑や木目の塗装がされている。
何というか、こういう細かな所にも気を配ることができるあたり、エルフはおもてなしの心をもった種族なのだな。そんな風にも感じた。これらの細かな配慮からも、エルフの里が閉じた里ではないことが理解できた。
「ちなみにタニアさんは観光でいらっしゃったんですか?」
「いえ、冒険者としてです。組合の依頼をこなすために来たのですが……」
組合長からは『エルフの里の樹々が枯れ始めているのでその原因を調査して欲しい』……、そう頼まれていたのだが、明らかに樹々は青々と茂っていて私が何か調査をするような必要性が感じられなかった。
やはりハゲは信用できない。…………そう、リューが思った。……けっして私が思ったのではなくリューが思ったことだ。まったく。私は、髪が薄かろうが、ズラがズレていようが評価を変えることはない。リューはしょうがない奴だ。
こほんっ。……さて。
みたところ、差し迫った問題があるようには見えない。ハゲ……組合長の語り口を聞く限りでは、もっと差し迫った危機がエルフの里に訪れているように感じたのだが。エルフの里は至って平穏。正直、今回は空振りを覚悟するしかない。
「組合に相談していた件でしたか。それは、とんだ無駄足を。申し訳ございません」
「いえいえ。何もないのは良いことです。こういったことは珍しいことでもないので」
クエストのなかには誤った情報伝達によるものも無くはない。魔物の討伐クエストに向かったら、既に現地の人たちによって倒されていたり、作物を荒らすザコを追い払って欲しいというような依頼に、強力な魔物が現れたり……。
(とはいえ、誤情報の可能性を想定したとしても、違和感がなくはないのよね……)
その疑問を解決するために、私は案内役の男に質問を投げかける。
「エルフの里の樹々が一斉に枯れかけた。その現象が起こったこと自体はデマではなく、本当の情報と考えてよろしいですか?」
「……はい。あの時は里のみんなもパニックになりました。何しろその原因がまったく不明でしたので……。組合に相談したのはそういった経緯があったからです」
組合に里から助力が求められたのが一ヶ月ほど前と聞いている。その一ヶ月の間に枯れた木が元通りに。
(……私の知る限り、そんなことを可能とする方法は思いつかない)
私も黒竜騎士になる過程で基本的な魔法は習得している。私にも適性がない魔法はあるが、知識としてはどんな系統の魔法があるか位は理解している。森全体を活性化する魔法。魔力を与えることで植物に活力を与えることは不可能ではない。
だが、里の樹々全てにそんなことをするには膨大な時間が掛かる。それができるとしたら、もはや奇跡の領域だ。
(でも……奇跡でないとしたら。……それは……)
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