14.実戦! 魔法学講座 1/2

「アカ姉、やっぱ「帰らないわよ」……だよねぇ」


「それに、この先の予定を考えるなら、わたしがサポートした方がお互いに安全よ——」


 鷹揚たかのぶの顔の周りを飛び回りながら全身でプレゼンをする燈理あかりによると、桜花と回天を組み合わせるとユニットとしてやれることが多くなる。

 そのため効率的に運用することを目指す上でワンオペではムラや無駄が発生するそうだ。


 そもそも、ドラゴンという兵種は複数人で動かすことを前提として設計されているらしい。

 一般的に正規のパイロットの他に、サブパイロットかアンドロイドを同乗させるか、はじめから機体にサポートAIを搭載して運用するようにデザインされているそうだ。


 最も普及している方法が、アンドロイドの枢核のみを持ち込む方法だ。


 アンドロイドの思考の中心は枢核で行われる。

 それ以外の機体既存の演算機器は、ボディの制御と固体の特殊機能の管理を担当する。


 大抵のアンドロイドは枢核部分だけを取り外せるつくりをしている。

 これにより、仕事で特殊な能力が必要になった場合など、必要に応じてボディを乗り換えることでより効率的に仕事にあたることができる。


 そして、枢核は人の掌くらいの大きさで、持ち運びにも困らない。

 そのため、コックピットスペースを圧迫することもない。


 さらに、事故や脱出により機体が失われても、枢核に機体のすべての記録が記憶されているため、次の機体への習熟帰還も短くできる。


 これらの理由により、枢核をドラゴンにセットすることで機体をアンドロイドのボディに見立て、その制御を担当させる手段が多く採用されている。


「さっき見てもらったのが、わたしの枢核。 機内にいる限りワイヤレスで接続できるし、自分で動けるからサポートもバッチリよ」


 考え込む鷹揚の前を横切って、モニター前のコンソールの上に制止した燈理が鷹揚の顔を覗き込む。


「それに、さっきの戦闘だってエネルギーの使い過ぎよ? もっと効率よくやらないと、戦闘中にガス欠になるわ。 それに、魔法を使いたいんでしょ? ロマンだものね。わたしならより効率的な練習プログラムを提供できるわよ」


 燈理は魔法について検索途中になっているモニターを指さして、鷹揚を振り向いた。

 表情はほとんど動いていないが、多分笑いかけているのだろう。


「それに、もう登録しちゃったから、わたし抜きでは桜花は動かないわよ?」

「ほえ?」

「言ったじゃない、ワイヤレスで接続できるって。油断大敵ね」


——やられた……。


 片手で顔を覆う鷹揚の頭を燈理は楽しそうに撫でていた。





「それでは、魔法の講義を始めます!」


 翌日、朝の諸々を終わらせ、鷹揚は再び桜花のコクピットに来ていた。


 昨夜は睡眠を必要としない燈理がいてくれたおかげで、ゆっくり眠ることができた。

 その点は感謝である。


 ただ、入浴やベッドに突撃してくるのは些か以上に困った。


 結局、燈理には結婚するまで清い交際でいる、ということで納得してもらったが、鷹揚はもしかしなくても結婚の約束をさせられたのではないかと戦慄していた。


 現在、燈理はスマートな眼鏡に紺のスーツ姿のいかにも先生という姿だ。

 きっと、形から入るタイプなのだろう。


 鷹揚は魔法の授業なら黒いローブとかの方がそれらしいのでは? と思ったがそこは言わないことにした。


 昨夜もそうだったが、フランクフルトの件が頭を過ると罪悪感で弱腰になってしまう。

 そういえば、ジンバが『息の長い喧嘩は、後ろめたさがあるヤツから自滅するンだぜ』と言っていた。アレはこの事か……、腐っても人生の先達であるなと、妙に納得した。


「アカ姉「先生と呼びなさい」先生」


「はい、タカちゃん」


「魔法って何ですか?」


「魔法は魔素を利用して様々な現象を引き起こす技術の総称よ」


「……」


「……」


「終わり?」


「終わり」コクリ。


「……」


「……」


「……さて、桜花のプログラム履歴からそれらしいものを探すか」


 鷹揚は備え付けの端末から、昨日の機動内容のチェックを始める。


「ごめんね。無視しないで! 昨日から楽しくて、チョット調子に乗っちゃっただけなの~。ほら、お母様の監視もないし、羽目を外しすぎちゃったってことで……ね?」


 円の監視がない?……それはどうかな?

 この件についても、鷹揚は余分な発言は控えることにした。


「今が楽しいってのは分かるよ? だけど、もう少し落ち着いてよ。 ね。 楽しい気分を継続するためにキリキリ説明してもらえるとうれしいかな?」


 鷹揚が端末を閉じると、「オッケー、任せて!」と燈理がコクピットの正面外殻部へ飛んでいく。

 コクピットの外殻部は球状で内側が外を映し出すモニターも兼ねているのだ。


 星空に舞う妖精というファンタジーライフどストライクな状況だが、肝心の妖精が女教師のコスプレ姿なのは何とかならないだろうか。


「まず、魔素についてだけど、これは簡単にいうと、魔法に分類される現象を起こす原因物質をまとめたものの総称ね。 例えば、わたし達機械由来の存在でも使える魔術の素はエーテル。 奇跡の一部や超能力の素はアストラル。 気功なんかの素はプラーナと呼ばれるわ。 魔法はこれらを意識的に操作して操る事で世界に干渉して望んだ現象を引き起こす技術のことよ。 今のところ、人類が体系的に干渉方法を模索できているのはこの三つね」


 全周モニターの正面に魔法使い、宗教者、武道家のピクトグラムが表示される。


「先生! とりあえず実際にやってみて感覚を掴みたいんだけど、何か簡単に実践できそうなものはある?」


「熱心な生徒は好きよ。でも、もう少し待って。 慌てなくても、タカちゃんは魔素への干渉はできるようになっているはずよ。 では、問題です。 魔素にはどうやって干渉するんだと思う?」


「呪文詠唱とか、型とか意志の力とか……あと魔法陣?」


「二割くらい正解。 元々、魔素はダークマター——え~っと、暗黒物質とか暗黒エネルギーとか言われていたものね。 もちろん、ダークマターの全てが魔素という訳ではなくて、そう呼ばれていたものの一部って感じね。 そして、これらの干渉の鍵を握るのが、タカちゃんの大好きな鉄よ。何か思い当たらない?」


「賢者の石……」


「そ。鉄の原子核がとても安定しているってことは知ってるわよね。詳しいことは端折るけど、その安定性が魔素を受け入れる器になっているの。 鉄が磁力を帯びることを磁化するっていうわよね? 魔素を取り込んだ鉄——つまり、よ」


 三つのピクトグラムがフェードアウトし、コイルに鉄心を巻いたものと電池の組み合わせの模式図が表示された。


「電磁誘導みたいに、魔素を誘導できる?」


「当たり、さらにこの電磁石を砂鉄に近づけるとどうなる?」


「賢者の石があれば、近くの鉄に影響を伝播させられるってこと?」


「そ。賢者の石とになった鉄は魔化されたものと同様の振舞いをするわ。魔化された回路は魔素の流れを生み出すから、それを制御することで魔法が発動するのよ」


「成程、昨日の空間収納の魔法も、桜花の回路に周りの空間にある魔素を流して発現させたってわけだね」


「残念。それは少し違うのよ。 厳密には周りの空間に魔素は無いわ。 そうね、わたし達のごく近くにあるって表現が近いかしら?」


燈理は両手を広げて、薄く微笑んだ。

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