7.現実と非現実の実際 2/2

 ジンバがスクリーンの前に立つと、画面の中央に緑の光点、緑点の脇にレモン型の小惑星の映像が添付されている。


 緑点からやや左下方に赤い光点、これには猛禽類の紋章が添付されている。


 レモン型の小惑星の右、緑点と赤点の距離の二倍ほどの距離にある青い光点、ここには見慣れた家紋が添付されている。 あれは確か丸に剣片喰という呼び名だったと記憶している。

 そして、レモン型の小惑星から右上方に緑点と一つ目の青点との距離のさらに二倍ほどの位置にもう一つの青点、そこにも丸に剣片喰の家紋がある。


「さてさて、中央の緑の点がタカの現在地だ。 手ごろな小惑星の中身をくり抜いて作ってある。くり抜いた中身はスタッフがおいしく利用させていただきましたっと」


 ジンバの話に合わせて中央の緑点が白い円に囲まれて拡大される。


「続きまして、赤い点が最寄りのゲート——まあ、ワープポイントだな。 現在は渡水わたみず家の変態狒々オヤジの軍が絶賛接収中だ。 理由は冴澄さえずみ家に拉致されて、実験に使われている民間人の救出だそうだ。 笑っちゃうね。 ちなみに晶ちゃんを送り込んできたのはコイツね。 さらに、今回の俺の依頼主でもある。」


 話が赤い光点に移ると、緑点周辺が元の状態に戻り、赤い光点周辺が強調された。


「んで、青い点が我が盟友の冴澄家。 タカに近い方の青点が冴澄家が確保したゲート。 遠い方が本星だ。 防衛戦のための建前を作るのに手間取ったみたいでな、渡水家に先手を打たれてるんだわ。 不穏分子ドモに情けをかけるからこうなる。 ちなみにこちらも今回の俺の依頼主になりまっす。 もう分かってると思うけど、タカの遠い子孫だよ。十世紀くらいの歳の差かな?」


 ——ツッコまないよ? ツッコミどころは満載だけど……。

 ジンバがあれ?と首を傾げた。両手でカモンカモンってジェスチャーをしてるが、鷹揚は応じるつもりはないらしい。


「もう一つ、謎の勢力があるんですよね?」

「もう! ノリが悪いゾ☆ あ~あと、ため口でいいぞ? 俺はそんなに大した人間じゃない。 だから、ツッコミの方、モチョットナントカ……」

「分かったから、先行こう。 時間が無いから、ここに割り込んできたんでしょ?」

「お、解ってんじゃん! でも、ここは時間の流れが一千倍だから大丈夫。 俺が来たのは……?……問題です。 なぜ、俺はここにいるのでしょう?」

「知るか! 僕が分かるわけないだろう?」

「序破離の窓って知ってる?」

「態々スクリーンに文字を載せてまでのボケ、ありがとうございますね! それ、序破急と守破離が混ざってるから、しかも、ジョセフさんもハリントンさんも漢字圏の方じゃないから!」

「よっしゃ! では、続き行ってみよう!」


 ジンバは大変満足したご様子。 適度に調子に載せないとダメなタイプのようだ


「さて、謎の勢力だが、このマップ上にはいません! 遠すぎて入りきらないって感じかな? その名も、ジンバとゆかいな仲間たちこと、ザウバー武装商船団だ!」

「遠すぎてって、大丈夫なんですか?」

「問題ない。 移動には秘密の方法を使うから」

「秘密って?」

「それは秘密です」


 ジンバが自分の口の前で人差し指を立てた。


「で、どうするよ? 今回の戦力だが、どの陣営も戦艦は千隻がせいぜいだ。 数的戦力は拮抗してるから、どこに行っても死ぬこたぁないだろうよ。 好きな陣営に俺が送り届けてやるサ。 どこに届けても依頼達成だし、宅配業務は得意なんでね」

「アカ姉はここを出るのは勧めないって言ってたけど——」

「ああ、絶対に負けねーからな。 安全性を優先するならここ一択だろうよ。 でも、そんな気はないんだろ? 男の子だもんな!」


 鷹揚が外の世界に興味があるのは間違いない。 


「外の世界って——」

「ああ、縁日の出来事っていうか、夢でタカができるようになったことは全部できるぞ?  夢はそのためのトレーニングだからな。 やったね☆」

「いちいち、かぶせ気味に来ないでよ。 晶さんが、まっすぐ冴澄家に行けって言ってたけど——」


 ジンバが纏う空気が変わった。 目が鋭くなり、獰猛な笑みを浮かべている。


「へえぇ、アイツ、そんなこと言ったんだぁ?」

「? 善意の忠告でしょう? 何か問題でも?」

「いんや、今回の件でアイツがどんな行動をとっても問題はないし、それで対応を変える気もない。 チョイと嬉しくなっただけサ」

「その顔で?」

「で、どうするよ? 冴澄家行きなら、二か所のうちどっちに行っても結果は変わらないぞ」

「うーん。ジンバさんって、本体は地図にないところにいるんだよね?」

「ヘイヘイ! お届けするって言ったろ? 俺だけ商船団から先行して、ここのすぐ近くにいるよ! 地図外に待機してるのは、カッツェって俺んトコの副船長だ。 今度紹介するわ。 あ、間違い。 近くにいるのは俺だけじゃないわ。 ナン、チャパティ、クルチャ、バトゥラ、プーリ、パラタ、きなこ、あずき、ずんだ、だな」

「……犬だよね?」

「きなこと、あずきと、ずんだは猫な。 みんなスペシャルだから大丈夫だ。 泥船に乗ったつもりで任せとけ!」

「泥船は沈むから! とにかく、ジンバさんの戦力っていうか、ジンバさんって強いの?」

「お、それ聞いちゃう? 現状、この施設以外が相手なら楽勝よ。 これでも身内の中では、オヤジと姉ちゃんたちとカッツェを抜かせば最強だからな!」

「……それ、強いの? この際、ジンバさんの身内の中でのランキングはいいとして、戦力的に負けないなら、渡水の連中に一当てして行けない?」

「……なぜだ?」

「このまま冴澄へ行くとして、その場合に渡水がそれを知るのはいつだろう? もし、知らずにここへ来た場合、間違いなく戦闘になるよね? ここは《僕がいる限り》無敵なんだろう?」

「態々、知らせてから逃亡すると……。 いいんじゃん? 面白そうだ! オプションはサービスってことで請け負ったるよ!」



「んじゃ、俺、行くわ! 後でな!」


 来たときと同じように、飲み屋にでも行くような気楽な様子でジンバが去っていった。


 鷹揚が目覚めを希望すると、眠りに落ちるように意識が暗転した。

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