決着、病院送り

大地を踏み締める。

足に違和感があるが、走れない程じゃない。

銀乱袖薙ギラソデナ』が俺の方に触手をくねらせていた。


相手の攻撃は狂暴であり、攻撃を通す為には接近しなければならない。

けれど、攻撃方法はこの斬機壱式のみ、機動力は失われて接近するのは難しい。

散弾銃は効かない。精々、相手を怯ませる程度であり、銃撃は無傷に等しい。

手詰まりだろうか、この状況は、俺は息を吐いて狩猟奇具を強く握り締める。


『(手詰まりでも、立ち向かう、力が足りなければ知恵で補う…俺に必要なのは、そう言う事だ)』


触手が大薙でやってくる。腰を落として攻撃を回避する。

当たるか当たらないか、その寸前にやってくるので、肝を冷やしてしまう。


地面に顔を近づけて、その時俺はあるものを見つけた。

それは…もしかすれば、使えるかも知れない。


『行くぞ、『銀乱袖薙ギラソデナ』…お前の、その触手を、まずは使えなくさせてやる』


俺は地面を蹴る。散弾銃を構える。

銀乱袖薙ギラソデナ』が俺の方に触手を振るう。相変わらず大振りで回避が容易な攻撃。

俺は散弾銃を撃つ。それは『銀乱袖薙ギラソデナ』の触手に対してではない。

俺が狙ったのは、地面だ。地面をめがけて撃つ事で、あるものが飛び出してくる。

だん、と音が鳴り響き、鉄球の粒が地面を抉る。それと同時に、自らの体に受けた刺激によって獲物が攻撃してきたと認識した化物が飛び出す。

『土喰い』だ。

俺は『土喰い』の頭部を掴むと地中から引き抜く。

かなり重たい。二歳児くらいの重たさだ、だが、持ち上げられない程じゃない。


『うぉおお!!』


俺はそれを持ち上げて『銀乱袖薙ギラソデナ』の方に投げる。

けれど飛距離が足りない。だから俺は散弾銃を使って、『土喰い』に向けて弾丸を放つ。

弾丸の威力によって、『土喰い』が後方へと押し込まれる。『土喰い』が向かう先には『銀乱袖薙ギラソデナ』が居て、『銀乱袖薙ギラソデナ』に触れると同時に、『土喰い』は獲物が来たと思い込んで顎を開いて『銀乱袖薙ギラソデナ』に咬み付く。


「すぢっぢぢぢぢぢっ」


セミの様な鳴き声を洩らしながら、痛みを訴える化物。

銀乱袖薙ギラソデナ』の体には『土喰い』が咬み付いていて離さない。

人間の体をバターの様に噛み千切る『土喰い』でも、『銀乱袖薙ギラソデナ』の体は相当以上に硬いらしい。


だが、『銀乱袖薙ギラソデナ』は触手を自らの体に攻撃を加える『土喰い』を集中的に攻撃する。

ばしばし、と、若干、自らの体を叩いている様にも見える、事実、自らの攻撃で体の皮膚が裂けていた。薄い膜が破れて、真っ白な身が見えている。


銀乱袖薙ギラソデナ』が『土喰い』の方に集中している時が、絶好のチャンスだった。

俺は斬機壱式を強く握り込むと、地面を蹴って走り出す。

向かう先は『銀乱袖薙ギラソデナ』の弱点だ。『銀乱袖薙ギラソデナ』の弱点は小さな触手が生えている中心。

其処には化物が活動する核が存在する。その核を破壊してしまえば活動は不可能。

だからこそ、その部分を重点に守る必要があった。

俺はその部分を狙って刀を突き刺そうとする。

けれど、小さな触手が動いている、散弾銃を構えて触手に向けて放つ。

これで触手が千切れなくても良い、ただ、これで動きを抑える事が出来ればそれで良いのだ。


俺が散弾銃を放つと、予想通り触手が怯む。

斬機壱式の切っ先を小さな触手の中心に向けて突き刺す。

如何にゴムの様に硬くて弾力のある皮膚を持っていようとも、対化物用に開発された狩猟奇具ならば攻撃は通る。

刀を突き刺して、三分の一まで刀身を突っ込んだ瞬間。


『ぐぉッ!?』


俺の腹部に触手が巻き付かれる。

銀乱袖薙ギラソデナ』が危機を察して、触手一本だけを俺に伸ばして来たのだろう。

けれど、攻撃ではなく、俺を引き剥がすと言う行動をとったと言う事は、相当焦っている様子だ。

つまりは、後少し、あの刀身が根本まで突き刺さればそれで良い。

けれど、俺の腹部に触手が巻き付けられて、その時に斬機壱式を手放してしまった。

そのまま俺の体は、引き剥がされてしまう。

俺は、散弾銃を『銀乱袖薙ギラソデナ』の方に向ける。触手を狙えば、今度は腹部を傷つける。

何よりも、そんな危険な真似をしなくても、俺はこの散弾銃を化物の方に撃てば、それで俺の勝ちだった。

引き金を引く。小さな弾丸が散らばって、『銀乱袖薙ギラソデナ』の方へと向かう。

その攻撃は、『銀乱袖薙ギラソデナ』にとっては無傷に等しい攻撃だ。

だが違う、俺は『銀乱袖薙ギラソデナ』を攻撃したわけではない。俺が狙ったのは…『銀乱袖薙ギラソデナ』に突き刺さる、自らの狩猟奇具だ。

化物に傷はつかないが、その威力は絶大だ。

当然ながら、一キログラム程の重量を持つ狩猟奇具ならば軽く吹き飛ぶ。

柄に当たれば、衝撃によって刀身が『銀乱袖薙ギラソデナ』の奥へと突っ込ませる。

予測通り、刀身がぬるりと、『銀乱袖薙ギラソデナ』の体を貫いて、根本まで入る。


「ぢぢぢぢぢぢっぢぢッ!」


断末魔を上げる『銀乱袖薙ギラソデナ』。

触手を離して、暴れ出す。

俺は、地面に腰を落としながら、息を吐いた。


『ざまあみろ』


中指を突き立てて、俺は荒い息を漏らしながら言う。

銀乱袖薙ギラソデナ』は、その最期の一撃を受けて、口から緑色の液体を噴出しながら絶命した。


『九条ちゃんッ!』


そう叫びながらやってくる、百槻与一。

戦闘が終わったのだろうか、百槻与一は無傷だった。


『はぁ…今度、お前に戦い方でも、教えて貰おうかな』


地面に横たわる俺を、百槻与一は手を貸して立たせてくれる。


『無茶し過ぎだよ…あっ、九条ちゃん、足ッ!!』


爪先が吹き飛んでいるのを見て、百槻与一が叫んだ。


『あぁ…少しドジった…けど、安い代償だ』


俺はそう言った。

これで、俺は『銀乱袖薙ギラソデナ』と、『赫捨羅アカシャラ』。二つの二級相当の化物を手に入れたのだから。


その後。

死亡した化物付近にマーカーをセット。

死骸回収班に連絡を入れた後、俺は身体検査を受けて肉体に異常が無いか調査をして貰う。


二つの死骸はトラックで輸送後、鍋島枢の工房送りとなる。

俺は狩人協会本部の医療機関にて治療を行われた。


「足、…はぁ」


病室で、包帯に包まれた足を見ながら俺は呟いた。

俺の階級が上だったら、または、高い治療費を払う事が出来たら…足は元通りになったかも知れないのに…。

俺はスマートフォンを取り出す。

非通知のメールが届いていたから中を確認する。


『納品は二週間後』


と書かれていた。

どうやらそれは鍋島さんからの連絡らしく、納品とは、専用機である狩猟奇具の事だろう。


『約束通りマケてやる、二つで三百万、ローンも可』


と書かれていた。

いやぁ…高いなぁ。

でも、これでも他に比べたら安い方か。

他の狩猟奇具を作る職人に頼んだら、軽く一千万は掛かるだろう。

生産費コストが高すぎるから、あまり多く所持する事が出来ないのだ。


「…九条くん?」


そんな時だった、病室でスマホを弄る俺に、来客が来た。

霧島恋だった。


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