第05話 夜更かし

「はー、歩き回ったら疲れたわ。もう歩けねーわ」


「先輩貧弱すぎないっすか」


「俺は頭脳派だから肉体は雑魚なんだよ」


「自分で自分の事を頭脳派って言う人初めて見たっす」


「うるせーよ。しょーがねーだろ肉体労働が向いてないんだから」


「せっかく農民になったんですし、汗水たらして農民ライフを楽しみましょうよ」


「いやだね。俺は死んでも肉体労働したくねーんだよ。これから何して食い扶持を稼ぐかは今後の課題ではあるけどよ」


「とりあえずは採集生活ですしね。しばらくは原始人ライフを楽しみましょう先輩」


「なんでお前はそんな乗り気なんだよ」


「いや、普通に楽しくないっすか?いつもと違う事するのって新鮮っす」


「そうかぁ?まぁ食い物見つかった時は嬉しかったけどな」


「腹が減っては戦はできないっすからね」


「戦はしねーけどな。俺らがするのはサバイバルだよとりあえずよ」


「まぁいいじゃないっすか細かい事は。まずは今日を生き延びれたことを喜びましょう」


「まあなぁ……明日は頑張って色々探そうぜ。今日はもう暗くなってきたからここまでだな」


「そっすね」


俺たちは集めてきた食料をまとめた。ついでに拾った枯れ木を集めて寄せ、『野焼き』スキルで火を灯した。農機具小屋には箒(仮)が立てかけられている。俺たちはこの小屋の入り口に二人並んで座り、小さな焚火を見ていた。辺りはいよいよ暗くなり始め、樹々が風に揺れる音と、火の中で枯れ木がはぜる音だけが辺りを満たしていた。


「朝倉、先に寝てていいぞ」


「いやっす」


「なんでだよ。さっさと寝て明日早く起きようぜ。早起きは三億の得って言うだろ」


「いやそんなに得しないっすよ。アタシ毎朝早起きしてますよそんな得するなら」


「そうか。俺は毎朝早起きしてたからもう使いきれないほど金が貯まってるぜ」


「マジっすか。じゃあこんどジュースおごってください先輩」


「えらく控えめだなオイ。どのみち今は無一文だっての」


「そっすね」


「……なぁ早く寝ろよ朝倉。明日はもうちょっと探索範囲広げようぜ。そんとき変なモンスターでも出てきたらお前が頼りなんだよ。俺なんか手から水出すだけしかできねーし、さっさと寝て、ゆっくり休んでいてくれよ。エロい事もしねーし、なんかあったら起こすからよ」


「じゃあ先輩も寝てください」


「はあ?」


「アタシだって、モンスターをひき肉にするくらいしか出来ませんよ。水を出したり火を付けたりしてくれる人が元気じゃなかったら困るっす」


「……まだ眠くねーんだよ。眠くなったら勝手に寝るって」


「じゃあアタシも眠くないっす」


「強情だなぁお前ホントさ」


「眠く無いっす」


「わかったわかった、降参だよ。俺は眠いです。寝たいです。これでいいだろ?」


そう言って、俺は農機具小屋へ入って横たわる。


「いいっす」


朝倉は、ちょっと拗ねたみたいにそう言った。


「じゃあ俺は寝るぞ」


「……しないんすか」


「は?」


「先輩、だから、しないんですかって訊いてんですけど?」


「あ?ちょ、おま」


朝倉は無理やり俺にのしかかり、強引に唇を重ねてきた。小さくなった焚火に潤んだ瞳が照らされ、俺の耳には、朝倉の荒い息遣いだけが聞こえていた。


「しないんすか?」


「し……します」


した。

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