神絵師、聞きました。

「……ってことで無事、契約違反については何とかなりそうだわ」

 翌日、ことの経緯を航に報告した。

 飲みのことはなんてことない、優生さんと飲んで連れ回されて帰ってきたのが朝頃で流石に誰もおらず、もろもろ身を整えて寝ていたら暇でこっちにきた航に起こされた、という経緯。

 幸いにして昨日中にブックレット関連は終わったようで、アシスタントの二人は航権限で休みにしたようだ。

「おぉ~良かった良かった。ならこれで一安心?」

「まぁな。心配かけたな」

「こーちゃんが言った時点でおれは特に心配はしてなかったけどね」

 心配の言葉を返せこの野郎。

「にしてもおれたち赤月さんと会ってたんだってね?」

「らしいね。その時の記憶全くないんだけど」

 人生で初めて出来た製本を同人誌会場に送ったことまでは覚えてるんだけど…。

「そりゃそうだよ。こーちゃん熱でぶっ倒れてたもん」

「…全然覚えてないなぁ…」

「でも確かに…同年代の誰かにこーちゃんの作品について聞かれてた記憶はあるんだよね。赤月さんとは気づかなかったけど…」

「あ、そうだ。絵画の社長さん、ななみさんがお前の触手同人誌持ってきた時のこと覚えてるってさ」

「げぇ!? まじかぁ……」

 流石に、エロに理解のある親とはいえ、実の娘が持ってきたとなると複雑だよな。優生さんも苦笑い浮かべてたし。

「………ま、時効ってことで許してもらえたらいいかなぁ」

「業が深いぞ、お前…」

 こいつ開き直りやがった…。


 ☆★☆★☆★


 流石に不祥事的…と大事でいうほどでもないが、似たようなことがおきた直後で絵をアップするのは不味いだろうということで、航の仕事を手伝ったりしていたが、その日は特に進展などはおきず、ななみさんから呼び出しがあったのはその翌日。

 指定された時間に会社へ行くと、今までにない緊張した表情のおしゃれしたななみさんと口角がいつもより上がっているスーツ姿の水鳥さん、羊のもこもこパーカーを着た今日もプリティで可愛い来宮さんに出迎えられ、作業机ではなくまたなぜか会議室に通された。

 ……仕事用の机に座るよりも、会議室の下座側にある椅子に座っていることの方が多い神絵師こと、鍵谷康太です。

 冗談を言ってる場合じゃなかった。

「先生。本日は呼び出してしまい申し訳ありませんでした」

「いえ、御用があればすぐにこれるようにはしてますので…」

 水鳥さんの言い回しが変わった? あれ? この人前まで俺のこと康太君って呼んでなかったか?

「その…最近の問い合わせはどんな感じで?」

「だいぶ落ち着いてきましたね。赤月社長からアドバイスを頂いたので、公式から正式発表をしたことでピークは過ぎて行った形になりました」

 あー…そういえばそうだったわ。

 よく考えたら公式発表してなかった。どこも見てないどころか公式より前に情報公開してたんだな…。

 きの。さんのイラストとともに

「あ、そう言えばネットでみたんですけど『神ココ』の月間上位、おめでとうございます」

 神ココは『神サマはココにいない』というゲームタイトルの略称で、らくがきそふと処女作が、ついこの間発売された美少女ゲームだ。

 一応入る会社のゲームなので一応は履修済み。

「いえいえ。マスターアップギリギリでしたので、先生のお力がなければここまで順調な流れはできてませんでしたので…」

 ブラックパース内でNonameから何個か案件を取っていた際、何度かななみさんと業務上ではやり取りをしていたけど、その1年半くらい後でななみさんが会社を立ち上げて『神ココ』製作中、依頼していた背景グラフィックの専門業者が倒産してデザインが回収不可となったことで人手不足に陥り、ななみさんの伝手をフル活用した結果、俺に急遽依頼が飛んできたという経緯だ。

 そんな経緯もあり、トラブルに見舞われながらも、よくこれだけのクオリティを出せたものだな…、というのが正直な感想で、ネットの反応を見ても殆どのユーザーたちが面白かったとの評価をくだしているので、良く行けば月間を狙える位置にいるんじゃないか? と思う。

「ところで…」

 今までは水鳥さんと話をしていたが…ここまで一度も目線を合わせていないななみさんを見た。

 そっと目を伏せる水鳥さん。

 と、服を引っ張られる感覚が…。

「かぎやさん! ちょっとこっちを向いてほしいのです!」

「ん?」

 感覚は間違いではなかったようで、来宮さんに用事があったみたいだ。

「ふぐぇっ!?」

 !?!?

「え、今変な声が」

「気のせいなのです!」

「いやでも…」

「気のせいなのです!!」

「ななみさんから…」

「気のせい! なのです!!!」

「……ハイ。気のせいなのです…」

「そうなのです(ニッコリ)」

 はじめて来宮さんが怖いと思った瞬間だった。

 終始にこにこしながら同じことを繰り返す幼女とはこれ如何に…。

「えっと…用事は…?」

「かぎやさんのお顔を正面から見たかっただけなのでもう終わったのです!」

 なんやて!?

 いや、そういう? いやいや! 来宮さんに限ってそんなことないだろ!

 いやいやいあいあいあハスター!

 だめだ、理解できない……。

 最近の若いやつ…、いや最近の若いロリはわからない…。

 だめだ、俺は今かなり混乱している!

「こほん、康太君。お待たせしました」

 何がお待たせなの!?

 咳を入れて誤魔化そう、ゴッホ。

「…っほん。いえ、大丈夫です」

「はい♪ っと、さっそくで申し訳ないのですが、今日お呼びだてしたのはほかでもありません」

 ん…?

 このフレーズ、どこかで聞いたな。

「実は昨日、スタッフのみなさんで話し合ったのですが、今一度弊社の方針を固めてゲームを作る、製品を打ち出していこうという結論にいたりました」

 昨日? 俺があのあと優生さんと飲んでたときか。

 まぁ新参がいないときの方が会議は回るからなぁ…。その場にいたかったのは本音だけども、実際わかってない人間が口を出せることもないだろうし…、ありがたいことかな。

「あ、決して康太君を蔑ろにしてるわけではないですよ!?」

「大丈夫ですよななみさん。そこは俺も心配してないので」

 ななみさんがそういう性格の人じゃないのは重々承知だから問題ない。

「ありがとうございます♪ えっと…まず結論から言いますと、うちの会社、らくがきそふとは『美しょゲーアワード』で大賞を取ることを目標にしました」

 ……へぇ…。

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