神絵師、友人を召喚しました。
会社から逃亡したあととは打って変わり、ななみさんと話をしてからの帰宅後。すぐさまPCを立ち上げる。
そう、俺は今! すんごいやる気に満ち溢れている!
そして数時間かけたらくがきそふとさんのデザイン作業も終了し、別社のデザインラフも描き上げた後。各方面へ手回しなどをしていた。
ななみさんからの連絡がある12時まで残り1時間というなんとも中途半端な時間に作業が終わってしまい、手を余していた。
さて…何をしようかなとふと思い、おもむろにSNS情報拡散サイトTowitterを開いた。
今までのリプライから感想を見た後、久しぶりにアレを投稿することにした。
「よっし…お題募集。…内容はオールジャンル、30分ドローイングです。面白そうなテーマがあれば何枚か描きます」
送信。
その直後、お題募集と呟いたトゥイートにリプライが一気に届いた。
「ははっ、暇人かな」
発言は完全にブーメランだが。
たまの休日に短時間ドローイングをするのは完全に俺の趣味だ。
そしてフォロワー数もたくさんいるため話題には事欠かさない、最初は自分で考えていたが、飽きてしまったため現在のようなかたちをとっていた。
いわば、フォロワーさんとの交流機会でもある。
一番多いのは可愛くディフォルメしてほしい系でその次がエロネタ系。適度にピックアップして描き上げてはリプライを付けて送信。というのを何度か繰り返しているうちに、ひとつのリプが目に入った。
『ガメツイ刃のお蝶さんが水中の触手にアレコレされるデザインをお願いします!』
「……」
映画で興行収入300億を達成した超人気漫画のサブヒロインが触手で…。って、このアカウント…。
スマホを手に取り、Rhine通話を呼び出す。
用事のある相手はすぐに出た。
「おまえ、ちょっと来いや」
こんなピンポイント(ニッチ)なことを平然と書いてくるのはアイツだけだ。
呼び出した相手は1分もかからず網戸を開けて入ってきた。
庭から。
「お前そっちから入るなっていっつも言ってんだろ」
「いやいやよく考えてくれよこーちゃん。玄関の扉から入ってくるなんてナンセンスっしょ」
「ハァ…いや、そんなことはどうでもいいんだよ。何だよコレ!」
「ん? あぁ~! 見てくれたんだね! ずっと描いてほしかったのにこーちゃんってばいっつもかいてくれないじゃん」
「航なら自分で描けるだろうが!!」
俺のことをこーちゃんと呼ぶ少しだけ小さい背丈の男は、俺の言葉にカラカラと笑って話を流した。
紫咲航。幼稚園からの腐れ縁で通ってる大学も同じな幼馴染だ。
しかしコイツにも別の肩書はきちんとある。
「そんなむりなこと言うなってば~。商業誌のチャンプ看板作家様に描かせるなんてナンセンスだよ。公開もできないのにどうしろっていうのさ」
週刊少年チャンプ。
それは日本の週刊誌で最大の知名度を誇る漫画雑誌だが、知名度ばりに連載をもぎ取るのはかなりの難関なのだ。しかし航はその激戦区のなかでも看板を背負う、未来の漫画家の一人なのだ。
ちなみに週刊少年チャンプは毎週月曜に発売される。そして数年前に20円ほど値があがっていた。世知辛い。
「ならvixib(イラスト投稿専門サイト)にでも上げられないんか?」
「無理無理。そっちも監視されちゃってるのよ。それ何枚目?」
「どんまい。これは4枚目だけど?」
「相変わらず手が早いねぇ」
「いうほどでもないでしょ」
「…で、ウチのやつ、描いてくれない?」
「…それなら誰かに描いてもらうんだな…あっ、これにしよう」
にべもなくお断りだね。
それに今は触手の気分じゃなくなったからな。
「おれはこーちゃんに描いてもらいたいのに~、って…水中で触手に遊ばれるお蝶さんじゃないの!?」
「それいつ描くっていったよ?」
そして重度の触手マニアである。
「って…何コレ?」
「いや、リアル調ってのも面白そうだけど、それ以上に『BUIBUI フォルカー×神龍の交尾』って響きだけで最高。ネタが頭の中に思いついたわ」
「ドラゴンカーせっせせの亜種とかそんな感じのネタ枠でしょ」
触手勢、ドン引きである。
一歩見方を変えれば触手だってドン引きだからな? とは言わない。
いや、うん。俺だって普通のイラストは飽きたんだって。
「まぁ決めちゃったし? それに時間的にもラストだしツイートも流しちゃったからこれにするんだけどな」
「ふ~ん? ならお蝶さんはまた今度描いてもらうかな?」
絶対に描かんけどな。
デザインソフトから新規でタブを開いてラフを進めていく。
と、そうだった。昨日言えなかったし、こいつにも言っておかないと。
「なぁ航。俺昨日仕事辞めてきたわ」
「あら、おめでとう。やっと人間らしい生活に戻れるの? うちのアシ入る?」
さすが腐れ縁。
驚きすらしないなんて。そして手を差し伸べるとはお優しいこって。期待されているのは即戦力と時間短縮かね。
「んー…それは辞めとく。それに昨日新しい仕事見つけてきたしな」
「なんたる生き急ぎ野郎。巨人もびっくりだ。で次の仕事は?」
「たぶんエロゲの専属イラストレータだな」
この後契約の電話があるけど。
「まじかー。いつか引き抜いてやろうって思ってたけど…無理かぁ…」
割と本気の声だ。ん…そこまで頼られるのは悪くないけど、こればっかりは仕方ない。
俺がやりたいのは絵を描くことで漫画を作ることじゃないからね。
「無理だな。タカはだめなの?」
俺たちのもう一人の友人は戦力にならんのだろうか。夏コミ前とかは良く手伝いに駆り出してたと思うけど…。
「商業誌ならなおさらタカ坊はだめっしょ。同人の世界ならともかく、日本誌相手に絵も知らないズブの素人はアカンて」
「…それもそうか」
イラストについてはタカも巻き込むことはできないよな。俺も混ぜることはできんしな…っと。
「よし。できたっと」
「おぉ~、5分もかからないとは相変わらずの手際だねぇ…」
「まぁあそこにいて手だけはさらに早くなったしな」
悪いことじゃぁない。
今やってるのは、ある意味でリハビリみたいなもんだから、そのうちまた描きたくなったら描けばいいさ。
「で、完成品は…んっ!?」
『リアル調でBUIBUI フォルカー×神竜の交尾』というイラストが完成してネットにアップした。ただこれがイメージ通りなのかそうでないかは依頼主次第だけど。
投稿してすぐに1万ちかくの良いねが押された。みんな早いなぁ…。
まぁもの珍しいテーマだから描きごたえはあったし、面白かったといえば面白かった。
主にこんな性癖の奴がいるんだな、という方向で。
「んんん…ん。リアクションに困るね…。フォルカーも神竜も「ナツミィ!」とか「イきとったんかワレェ!」とか良いそうな画してるし…。外国の人が毎週これを見たら「やぁイエローモンキー。ドラックの時間だぜ」とか言いそう」
「お前の感想に対して俺はリアクションに困るわ」
確かにあのアニメが出てた時の海外スレは伸びてたけどさ。
「ネットじゃお祭りが始まってるけどな」
「おっと、リプ欄でレスバも始まってるね。見モノだわ」
「そういえばラフだけど…送るよ」
「ん? なに…んほぉぉぉぉぉ!?!?!?」
声がでかいよ。
「ガメツイ刃のお蝶さんと触手じゃぁないか! 流石親友! 心の友よ!」
「うっさいうっさいうっさいわ…」
「さっそく上げてもいいか!? これ上げてもいいか!?」
「せめて編集に許可取ってからにしろよ…」
「ひゃっほーい! あっ、もしもし丸山さん?」
天井に掲げてから胸元で抱きしめてまた天井に掲げる
こいつ、幼馴染で日本を代表する漫画家なんだぜ? 世の中不思議だよな(鼻ホジ)。
すぐに丸山さん(ガメツイ刃の担当)に電話するとは…、どんだけ嬉しいんだか…。
まぁ喜んでもらえて何よりだけども。
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