第5話 さらば少年の日よ


「行ってきます。」


 僕は少々(大分)傷みのあるジャージを着て一魂寮いっこんりょうを出た。

 昨日の今日で制服も用意してないし、奨学金もまだ支給されてないから、正直お金がない。


 このジャージもお山様での修行を終えて、アカネちゃんを『ホーム』に訪ねて行った時、あんまりボロボロの服(らしきもの)を着てたので、アカネちゃんのお父さんが、すぐ『ホーム』出ていくのを条件にくれたジャージだった。


「お、お、おはやごじゃりましゅしゅっ、ぴぃ!」


 寮を出たら、挙動不審なアカネちゃんが立っていた。


「おはよう!アカネちゃん!今日も可愛いね!」


 僕が『ホーム』で暮らしてた頃、毎日アカネちゃんにしてた挨拶だ。


「かかか、かわいいだなんて・・・レイちゃんも・・・か、かっここいいいれしゅ・・・はぅぅ」


「おっ、白露しらつゆか。どうした、レイになにが用事か?」


 アカネちゃんが、真っ赤になってると、タクミさんが寮から出てきた。


さかき君を迎えに来ました。彼、今日が初講義ですから。」


 おりょりよ!アカネちゃんがキリッと出来る女性に変わった!


「そうか、それなら頼む。色々面倒を見てやってくれ。」


「言われなくても。心配には及びません。」


「そうか。ああ、レイ。午後の自習は修練場のルームDへ来い。紹介したいヤツがいる。」


「はい、分かりました。」


「場所は白露しらつゆに連れて来て貰え。じゃあな!」


 そう言い残してタクミさんは先に行ってしまった。


「レイちゃん。私達も行こっか。」


 出来るアカネちゃんもカッコイイけど、僕は子供の頃まんまのアカネちゃんが好きだな・・・



「師範!なんでこんな汚い『渡り』の【能無し】と一緒に鍛錬しなきゃならないんですか!」

「『渡り』なんて『ホーム』を追い出された乞食なんだから、こんなに汚い格好してても平気なんだよ!」

「師範!コイツ【能無し】だから、【スキル】使えないんでしょう?だったらこの実技の講義に出ても邪魔でしかないですよ!」

「私ぃ〜、こんな汚い格好見るの不愉快なんですけどぉー!」


「みんな、ひどい!」


 アカネちゃんは茜色の髪を怒りに燃え上がらせて、震えている。


「アカネちゃん、構わないよ。僕は講堂の隅で1人で鍛錬してるから。」


 ここにいる40数名の敵意や罵詈雑言ばりぞうごんなんて気にはしないぞ!だって僕を仲間だと誇ってくれるタクミさんとアカネちゃんがいてくれるだけでいい!

 僕は、まだやれる!



 腰の鞘からゆっくりと斬月丸ざんげつまるを抜き、深く息を吸いながら太刀を大上段に構える。

 全てに深く感謝しながら太刀と呼吸を止めた。目の前に、剣の神の姿が見えた!

 シッ!

 斬月丸ざんげつまるで剣神の姿を斬る!が、かわされた!

 ゆっくり息を吐き出しながら、太刀を鞘に収めて姿勢を元に戻す・・・だめだ、全然集中出来てない!


「凄いわね、レイちゃん。今私も斬られたかと思った・・・。凄い剣よ・・・」


 さっきからアカネちゃんが、俺の近くで魔法を20メートル先の的に当てている。


「そんな事ないよ。アカネちゃんの・・・」


「【ウィンド カッター】」

「【スラッシュ】」

 

 この敵意だ!この講堂に満ち満ちた!


 さっきまで離れて僕たちを見てた学生が、いきなり攻撃してきた!


「レイちゃん!」


シャッ!シュン!チン


 居合の抜刀で【ウィンド カッター】

を斬りさ、下ろす刀で【スラッシュ】を切り捨てた。


「何をするの!あなた達!ここはコロッセオじゃないのよ、怪我もするし、死ぬこともあるのよ!」


 ニヤけた顔をしながら、6人の男女の学生が向かって来た。


 僕は斬月丸ざんげつまるを大上段に構えて・・・気を張って絶殺領域ぜっさつりょういきを展開する。


「・・・アカネ、ちゃん・・・は、なれて・・・」


 くいしばった歯の間から、漏らすように告げた。


「れ、レイちゃん・・・」

「どけ!白露しらつゆさん!」


【スラッシュ】【ウインド ランス】【ファイア ボール】【シールド バッシュ】【ナイフ 投擲】【ウォーター スプラッシュ】


 あれほど憎んた【スキル】が、俺を再び襲う!えっ!俺、【スキル】が憎いのか・・・


・・・っん!シュッ!!!!!!


 俺の絶殺領域ぜっさつりょういきに触れた【スキル】を全て、瞬時に斬り落とした!


 ふぅぅー


 張っていた気を収めて、息を深く吐き出した刹那!


【瞬歩】


 恐ろしいスピードで間合いに入られた!


【流水剣】


 左下の死角から剣気が斬り上がって来るのが

 これじゃ斬月丸ざんげつまるが間に合わない!


うっ!くっ!


 強引に身体を捻って必殺の一撃を躱した!


「これが【能無し】と『神の恩寵ギフト』を持つ者との、壁だ!」


 斬撃をかわした勢いで尻もちをついた僕に、冷たい顔をした男が見下ろしながら言い放った。


「無様な【能無し】の冒険者ごっこ遊びを見てるのは不快だ!これに懲りたら、二度とここには顔を出すな!【能無し】!」


「レイちゃん!胸が切れてる!血がっ!」


白露しらつゆ!お前もこの【能無し】に近づくな!親同士で決めたパートナーとして許さん!こっちへ来い!」


「師範!講堂での私闘は禁止のはずです!しかも複数でたった1人をナブルなんて卑怯です!注意してください!」


 アカネちゃんの抗議に顔を逸らすだけの師範・・・


氷室ひむろ君も卑怯よ!隙を狙って攻撃するなんて!それに、私はあなたのパートナーになるなんて認めてない!」


 また、アカネちゃんが僕の代わりに怒ってくれている・・・僕は・・・・・・


カーンカーンカーン!


「良し!今日の講義を終わる!後は各自午後の自習とする!解散!」



「おっ!よく来たな、レイ。それと白露しらつゆも。」


 コロッセオの地下には、大小の修練場がいくつもあって、今回タクミさんに呼ばれた修練場もそのひとつだ。


「おい!みんな、紹介したいヤツがいる。ちょっと集まってくれ。」


 柔軟をやってた2人の女性が集まってきた。

 また知らないひと・・・・・・


「その胸の傷、どうした?レイ。」


「何でもありません。」

「ちょっ!レイちゃん・・・」


 僕はアカネちゃんを遮った。


「あらぁ、この子がタクミ君ご自慢のさかき君ね!うわっ、背が高いわね、君!」


「コイツは3年の夕霧ゆうぎり アスカだ。俺のパートナーで、このダンジョン部の副部長だ。」


「ダンジョン部・・・」


「よろしく。私の事は、アスカと呼んでね。私も君のことレイ君って呼ぶから。」


「よろしくお願いします。アスカ先輩。」


 アスカ先輩のスタイルがスゴすぎて、なんか恥ずかしくなっちゃう・・・


「それで、こっちのちっさいのが・・・うっ」


 タクミさんを正拳突きで黙らせた・・・


「ちっさくないしぃ!私は2年の長良ながら ミナミ。私もミナミでいいわ。よろしく。」


「よろしくお願いします。ミナミ先輩。」


「あと2年の磯風いそかぜがいるが、怪我の治療で休んでる。あいつも一魂寮いっこんりょうの寮生なので、戻ったら紹介する。」


 そう言うと、タクミさんは腕を組んで、胸を堂々と張って僕をじっと見つめた。


 アカネちゃんが心配して僕の腕を掴んだ。


「レイ!お前、このダンジョン部に入れ!白露しらつゆも一緒だ!」


「えっ?」

「・・・」


「レイ。その傷はクラスのヤツらに付けられたな!」


「・・・」


「言わなくてもいい。それがどんなに辛いことかは俺には分かってやれない。

 だがなぁ、レイ。お前はそんなくだらない事にウジウジ囚われて青春を過ごすつもりか?お前が父親と鍛えた剣の道は、そんなちっぽけな事に惑わされるものなのかと言っている!」


「えっ?」


「レイ!俺と来い!俺たちと競い合い、鍛え合ってダンジョンの高みを目指そう!

 ダンジョンの頂きは、俺たちが青春の全てを掛けても余りある存在だ!これに比べたら、嫉妬や妬み、イジメなんて些細な事にすぎん!

 レイ!俺たちと一緒にダンジョンの頂き!ダンジョン甲子園ダン甲を目指せ!」


「僕が?」


「そうだ、お前だ!」


「この【能無し】の僕が?」


「そんなお前だからこそだ!」


「レイちゃん・・・」


「全国には俺たちと同じ冒険者高校でひたむきにダンジョンに挑んでる仲間ライバルが沢山いる!こうしている今、この瞬間もそれらライバル達が汗を流し泥に塗れ、涙を流し、歯を食いしばって高みを目指しているんだ!これこそダン甲魂!

 どうだ?お前の魂は、そんな全国の熱いダン甲魂の燃える炎に震えはしないか?」


 トンとタクミさんの拳が僕の胸を打つ。


「お前の魂はどうだ?それでも、くだらないことで燻ってはいないか?親父さんの教えを無駄にしてはいないか?」


『最後に、どんな時も諦めずに、己の剣の道だけを見て真っ直ぐ進め!

 そして、ダンジョンの頂きをめざせ!』


 父さんの言葉が僕の胸を熱くする。

 ボロボロと涙をこぼしながら僕は叫んだ!


「タクミさん!僕を、いや俺を仲間に入れてください!俺は、父さんが俺に託したダンジョンの頂きが見たいです!

 どんなことにも惑わされることなく、ただ真っ直ぐに頂きを目指したいんです!

 だから、どうか俺をダンジョン部に入れてください!俺をもっと鍛えてください!」


 俺は深く深く頭を下げてお願いした。


「私もダンジョン部に入れてください!レイくんがダンジョンの頂きを目指すのなら、私がレイくんを後ろから支えます!レイくんと一緒に頂きの景色が見たい!」


「よく言っ!2人を歓迎する!」


 ここから俺のダンジョン部物語がはじまった!



ダンジョン部物語 ―― 完 ――


****************


レイの物語はここまでとなります。


これまでブロットとして、頭の中にしか無かったレイの物語を、習作として文字に起こして見ました。


いずれ、もっと文章力を高めてもう一度レイとアカネとタクミの物語に挑戦したいと思います。


ここまで、拙い物語をお読み頂き、本当にありがとうございます。


また、別の作品でお会いできたら嬉しいでる。

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ダンジョン部物語 〜 デブの上にスキル無しで虐められてた俺が、山にこもって10年間毎日一万回刀を振り続けたら、冒険者育成高校で成り上がってバカにした奴らを見返してやる! ろにい @ronny

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