第2話「眷属《けんぞく》」




「大丈夫ですよ、お嬢様。

 人間の張った結界ぐらい、僕の眷属けんぞくなら簡単に壊せますから」


「えっ?」


「お嬢様。

 ちょっと鉄格子の近くまで来てくださいますか?」


「分かったわ」


壁際に蹲っていた私は、立ち上がりレイに言われた通りに鉄格子の側まで行く。


鉄格子の前まで来たことで、鉄格子の向こう側に立っていたレイとの距離が縮まる。


近くで見るとレイの美形さがよりはっきりと分かる。


整った眉、長い睫毛、形の良い鼻と唇……神様に愛されて造形された顔って、レイのような顔のことを言うのね。


「お嬢様。

 昔ならお美しかったですが、しばらく見ない間に一段とお美しくなられましたね」


レイが私の目を見てニコリと笑う。


「もうやめてよ、こんなときに……!」


レイは私の前でハニカムの禁止!  


私の心臓がドキドキしすぎておかしくなってしまうわ!


…………それに、こんなボロボロの格好をしている私が綺麗に見えるわけがない。


「準備ができたよドラッへ。

 壁を攻撃してくれ。

 但し中にいるお嬢様を攻撃したらただでは済まさないからな。

 壊すのは壁だけだ、分かったな?」


レイはポケットから魔石を取り出して、誰かと通信していた。


ドラッへって誰?


というか、通信用の魔石なんて貴重なものをなんでレイが持ってるの?


ホルン国の王族だって、通信用の魔石は二つしか持ってないのに。


そんな貴重な物をレイは、どこで手に入れたのだろう?


「ぐおおおおおおおおおおお…………!!」


そんなことを考えていると、床や壁が揺れるほどの大きな唸り声が聞こえた。


何? 今の声……?


まるでドラゴンの咆哮みたい……?


ドッゴーーーーン!


と何かが砕ける音がして、私は咄嗟に目を閉じる。


目を開けると壁に大きな穴が開いていた。


塔の外に目を向けると、漆黒の翼と鱗を持つ五本指のドラゴンが………!


「なっ、えっ?

 ……ど、どどどドラゴンがどうしてここに……?」


私は恐怖と驚きのあまり、その場にへたりこんでしまった。


ドラゴンが鋭い爪を振るうと真空波が起き、次の瞬間には牢屋の鉄格子がスッパリと切られていた。


「ありがとうドラッへ。

 これでお嬢様と僕を隔てる障害が完全になくなったよ」


レイは顔色一つ変えずにそう言うと、切られて役目を果たさなくなった鉄格子をまたいだ。


「すみませんお嬢様。

 怖い思いをさせてしまいましたね」


レイが私の前に跪き、そっと私の右手を取る。


「外にいるドラゴンさんはレイの知り合いなの?」


「僕の眷属のブラックドラゴンのドラッヘです」


「へっ?」


間抜けな声を出してしまった。


「ドラゴンが眷属って、レイあなた一体……?」



☆☆☆☆☆


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