1000文字で綴った物語

たばなかずま

第1話 私って、そんなに影薄いですか?


「お疲れ様でした」


定時の鐘がなった途端、同僚達は淡々と片付けを始めていく。


早い者は時間を見計らって鐘がなると同時にオフィスを出ていた。


普段から動きの鈍い私は、ほぼ毎日ワンテンポ遅れてデスク周りの整理を始める。


マイペースとよく言われるが、そうではなくただ要領が悪いだけ。


逆に言えば慎重なだけだし気にしない。とは言うものの、内心他人を見ては羨ましく思ったりと、つい比較してしまう。


ほら、優香、周りの事なんて気にしなくていいの。マイペースマイペース。

そう自分に言い聞かせる。



職場で私は良くも悪くも特に目立つタイプじゃない。


だから私の仕事が遅かろうが早かろうが、片付けが鈍かろうが、誰も気に留める事はない。


まるで誰も私が見えていないみたいだ。当たり前に存在している、オフィスの風景の一部にでもなった気分。


でもいつもの事。もう慣れたかな。



それに、今夜はがっつり残業する予定だ。


ある程度、デスク周りの整理を終わらせたら、残った資料を作らなきゃならない。


プレゼンの締め切りは明日の午前中に迫ってる。


今日帰れるかなぁ。


両手を天井に向けていっぱいに伸ばす。

んー…と背伸びをして、首を回した。


首元からコキコキといい音、は全く聞こえてこない。はぁ、と溜め息をついて肩回す。



「今日もお疲れ様」


終業の挨拶をしてくれたのは、いつも私に優しい言葉を掛けてくれる片桐。


風景の中に隠れた、私を唯一認識してくれる、気の利く良い同僚だ。



ほら、と私の前に缶コーヒーを出してくれた。


気分転換にいいぞ、飲め飲めといつものように勧めてくる。


私飲めないの知ってるでしょ?でもありがと。気持ちだけ有難く。そう伝えた。もちろん笑顔でね?


こんな風に気遣いしてもらえるって嬉しいな。


私にとってはコーヒーや茶の差し入れよりも、こんな些細なやりとりが一番の息抜きになってる。



「とりあえず無理すんなよ?」


じゃあなと言って彼も片付け始めた。

仕事終わればそりゃ帰るよね。



ちょっとした寂しさもあるけど頑張らなきゃ。


そう自分を奮い立たせてまたデスクの作業へ集中した。


「片桐飲みいくぞー!」


「はいっ!今いきまーす!」


片桐はと声を出さずに口の動きで私に挨拶を送る。


私もうんうんと笑顔で頷き返した。


ああやって飲みに行ったり、定時で上がったのはいつだろうか。もう思い出せないな。








「片桐、お前誰と話してたの?」


「え?一人言っすよ」


「お前…霊感あるんだろ?怖いなぁ、やめろよ」

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