第7話

夏休みが終わり、いつもの日常が始まった。


変わったことといえば、バーチャルストラテジーと呼ばれるカードゲームを始めたことだ。


昨日、仮想世界で詩織、いやゲームマスターに教えてもらったデッキレシピ。そのままのカードを注文した。


スマホ画面でメラカミを開く。


俺が眺めてるのは、汎用性が高いカードの市場調査だ。例えば、コストが低い手札増強カードは比較的に高価格になりやすいらしい。


と言っても、俺がバーチャルストラテジーを触っていたのは、2.3日だ。その間に身につけた知識など、カードマニアの詩織には及ばないのだ。


「あ、千歳君何見てるの?新しいスマホゲーム?」


今俺に話しかけたのは、本物の新田詩織だ。落ち着いた雰囲気だが、カードゲームのことになると気分が高まる、面白い女子だ。


「いや、詩織の好きなカードゲーム。バーチャルストラテジーだよ。安いカードないかを見ているんだよ」


「本当に!?千歳君が遂にバーチャルストラテジーを!?やったー!じゃあ放課後対戦しようよ。せっかくだからトレードもしたいし、お金余ってるならカードショップ行かない?私箱買いしたい弾があるんだ!」


「お、落ち着け。少し冷静になろうな」


「ごめんなさい」


詩織は深呼吸をして気分を落ち着かせる。


ゲームマスター詩織も元の詩織を再現していたが、本物のテンションの暴走には敵わない。


「前から思っていたが、詩織はもっと他のことにも興味を持つべきだと思う。そこで今日はカラオケに行こうと思う」


「千歳君、一人カラオケ行くの?」


「ちがーう!お前も行くんだよ。カードゲームばっかりだと視野が狭いままだぞ」


「え、私も!?」


この流れで、俺一人でカラオケ行くわけないだろう。


「という訳で、放課後は活活クラブに集合な」


「うん、分かった」


授業が始まった。

夏休み明けで簡単なホームルームと宿題提出だけで終わったが、俺は仮想世界にイモってたので、宿題をほぼやってなかった。


堂々と「宿題はほぼやってません!」と言って、先生に鉄の拳からの鉄拳制裁を受けた。


正直、痛かった。だが、自業自得ではある。


クラスのみんなに笑われながらも、処分は1週間放課後クラスの掃除で済んだ。


毎日募集授業だったら、やる気無くす。


放課後、俺は一人掃除をしていた。


仮想世界との違いがほとんどないため、もしかしたら、今でも俺は仮想世界にいて、夢を見てるだけかもしれないと錯覚を起こすぐらいだ。 


今の化学の技術は本当に凄い。

その技術で学校の清掃を楽に終わらせてほしい。


「あーあ、掃除怠いな」


ほうきを持って、同じところを何度も掃く。

掃除の時間まで、ずっとテキトーにやっていたい。


そもそも昼に掃除の時間があるので、放課後に汚れなんて殆ど無いはずだ。


「時間になったし、帰ろう」


今から向かう先は活活クラブ。

俺から誘っておいて、詩織を待たせることになるとは。


少し申し訳ない気持ちになる。


活活クラブに着くと、入り口のそばで詩織が待機してた。


怒っているだろうな。


「悪い、待たせたな」


「遅いよ!レディを待たせるなんて、千歳君は最低だよ」


「レディ?はて、ここに上品なレディなんて居ますかね?」


「帰る」


待て待て待て。流石にふざけ過ぎた。


「すみません。お待たせしました。詩織お嬢様」


「それでよし!中に入ろうか」


とりあえず、機嫌直してくれて助かった。


険悪な雰囲気のままくる場所では無いからな。


店内に入る。


受付を済ませて2人用のカラオケルームに入る。


一人カラオケでも使われる場所であるため、部屋は狭い。


「JOYとDAMのどちらにする」


「初心者ならDAMだな」


さりげなく嘘をつく。


これは嫌がらせではない。

詩織には自分の本当の実力を知り、これからも歌唱力を上げてほしい。

僅かながらそんな想いでここに連れてきたのだ。


詩織がデンモクを手に取る。


「千歳君、これなに?」


「ああ、それで曲を選んでくれ。DAMではデンモク。JOYだとキョクナビと呼ぶんだ」


「そうなんだ」


詩織はデンモクで操作を続ける。


「俺が先に歌うか?」


「うん、お願い」


俺はいつもの十八番。


yesterday never cone


翻訳して昨日は決してやってこない。


有名なバンド。レジェンドブラザーの曲だ。


レジェンドブラザーは兄弟2人のツインボーカルのバンドグループである。


俺が歌う様子をじーと見つめる詩織。


「僕は君をー!連れて行くからー!もう2度とー!わーすれない!」



よし、完璧!今日も絶好調!

さて、採点は?


70点。


まあ、上出来だろう。

DAMならこんなものだ。


「さあ、詩織。次はお前の番だ」


詩織にマイクを手渡す。


「ありがとう」


調子に乗った俺は、さらに詩織に提案する。


「なあ、賭けをしないか?」


「賭けって何?」


「点数が高い方が勝ち。負けた方が勝った方の言う事をなんでも聞くと言うのは」


「なんか、怖いな。でもいいよ。だけどエッチなお願いは禁止だからね!」


「ほいほーい」


燃え上がれ切り札。


なんかのアニソンか?

いや待てよ。切り札?

これバーチャルストラテジーのアニメの曲では?

しかも男主人公の声優が歌っている曲。


「音程下げなくていいのか?」


「うん、大丈夫!」


本当か?


曲が流れる。


そして冒頭の歌い出し。


!?


上手い。音程はぴったり。声量もいい。

ビブラートも完璧。この部屋中に響き渡る声。まるでプロの女性が歌っているようだ。


詩織ってこんな綺麗な声を出せるのか。


歌い終わる。

結果は採点結果を見る前から明らかだ。


94点。


「マジで!?」


負けた。でもこれは文句のつけどころがない。


「私の勝ちだね。では千歳君の罰ゲームとして、私と仮想の浮遊城に来てもらいたいと思います」


「浮遊城?」


「VRワールドに最近追加されたコンテンツで、浮遊大陸ランドリアの浮遊城の謎を解き明かすのが目的らしいんだ」


RPGものか?ただクリア条件がボスを倒すではなく、謎を解き明かす?


「なあ、詩織。これRPGか?」


「そうだけど、何?」


「お前、何か隠しているだろ。カードゲーム大好き少女が急にRPGをやるわけないだろ。どうせ、ゲームクリアの特典でレアカードが貰えるとかだろ」


「べ、別にそんなこと無いですよ〜」


「図星かよ!」


やはりか。

ツルッターを見た時、特典カードについて書かれたツイートを見た記憶がある。


詳しくは知らないが、確かバーチャルストラテジーの初代世界大会優勝の景品のカード。架空の浮遊城ランドグレスだ。架空の浮遊城ランドグレスは公式大会では使えない観賞用のカードだが、その価値は1000万円。


「詩織、もしかして1000万円が目的か?」


詩織は黙って首を横に振る。


「私はね。このカードを弟の誕生日プレゼントとして欲しい。私の弟は身体が弱くて、外にあまり出られないの。弟もバーチャルストラテジーが好きでね。せっかくの誕生日プレゼントだからビックサプライズとしてあげたいんだ」


「そっか。だが、びっくりし過ぎて心臓止まるかもしれないな」


「もう、千歳君冗談キツイよ」


「ははは。ともかく目的は分かった。俺も行くよ。その浮遊城に」


夏休みの時はコネクターSPで永遠の夏休みを過ごす羽目になったが、今度はちゃんと起動するよな。ツルッターとか見る限り、今は正常に起動している。


でも、俺の時はVRワールドではなく、正常に起動しなかった。VRではなく、作り物の現実世界。そういえば何か忘れている気がする。


「あれ?」


そういえば弘人は?

富田弘人。


俺の友達。


あいつとゲームを買いに行って以来、姿を見ない。どういう事だ?






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