第7話 尋問、スメルメモリー



 ネファレム王国において色付きと言えばそれは騎士団のことを指す。βテスト時点では存在自体は知ることが出来たものの、実際にプレイヤーの目に触れる機会は訪れなかった。


 そして白を冠する白桜騎士団もまた王国騎士団の一翼を担う正規の騎士団だ。彼等は王都に騎士団本部を持ち、要請を受けて各地へと派遣される。


 今回派遣された地、アルスは特に隣国との国境線というわけでもなく、近年モンスターによる被害も報告されていない平和な地だ。にも関わらず騎士団が派遣された理由、それは言うまでもなく「旅人」の存在、それも圧倒的多数の。


 彼等は誇り高き騎士だ。当然相応のプライドを持っている。その彼等が旅人のお守りをさせられて思うところがないわけがない。今その鬱屈とした感情が1人の旅人にぶつけられる。


 ある者はチャキン、チャキンと剣を鳴らし、ある者は唐突にその拳を壁に叩きつけ、ある者は無言で顔を覗き込んでくる。


 俺はミラと離され1人で尋問室に通されたのだが、椅子に座れと言われ座った途端にこの状況だ。唯一机を挟んで俺の対面に座った尋問官だけは威圧的な態度を取っておらず、ただ兜越しにジッと俺の方を見ている。尋問室は万が一の逃亡の防止の為か窓もなく、音が漏れないよう密閉された空間で、少々息苦しさを覚える。



 なにこの状況?あとあなた達ガラ悪くないです?特にチャキンチャキンやってる人怖いんでやめてください、泣きますよ?


 俺がいざとなったら泣く心構えを静かに固めていると、ようやく対面の人物が声を発した。


 

 「お前達、その辺にしておきなさい」


 耳が喜ぶバリトンボイスだ。かっけぇなおい。


 「「「ハッ!」」」


 先程までチンピラ同然だった3名の騎士達はビシッと背筋を伸ばし右拳で心臓の辺りを叩き、上官の言葉に応える。その動きは寸分の乱れもなく完璧にシンクロしており、その動きだけで騎士の練度の高さが窺えた。3人はそのまま尋問室の扉の前に1人、尋問官と俺の背後に1人ずつ立つ。


 

 そんなに警戒しなくても俺は逃げませんよ?だから俺の背後にチャキンの人を立てるのやめて!変な汗かいちゃうから!




というか俺は部下のガス抜きのダシにされたわけね。あるいは全て演技で俺を萎縮させるのが目的か。まぁどちらにせよ腹は立つがな!


 しかしこの現状はあちら様の目論み通りだろう。俺めっちゃビビてるし。だがここからはそうはいかねぇ!先に仕掛けてきたのはそっちだ!覚悟しろや!



 「さて、部下が驚かせてしまってすまない」


 あぁん?テメェどの口でほざきやがるボケが!


 「いえいえ、滅相もない!わたしが勝手に緊張しているだけですので!」


 「そうかい?あまり緊張しないでくれ。君には幾つか確認したい事と聞きたい事があるんだ」


 誰が答えるかバーカ!アーホ!


 「はい!なんでもお聞きください!」


 「ふむ、存外素直なのだな」


くそぅ!今日のところは引き分けってことにしておいてやるぜ!

 

 俺が内心の葛藤にひとまずケリを付けていると、尋問官が徐に兜を外す。兜の下から現れたのはとんでもない美女だった。キラキラと輝くブロンドヘアーはウルフショートボブに切り揃えられ、目鼻立ちは整っており、大きな青い瞳は海を連想させる。完璧な金髪碧眼美女だ。


 「ふふ、どうやら驚いてくれたようだ」


 「え、えぇ…まさかこれ程美しい人がいるとは…」


 「そこなのかい?まさか女性だったとはっていうのを期待していたんだが…もしかして気付いてたのかな?」


 当然気付いていた。そこらの連中は騙せても俺の鼻は欺けない!女性の汗の匂いがぷんぷんしてたからな!フルプレートアーマーなんて着こんでたらそりゃ蒸れるだろうさ!声についてはわからんがおそらく兜に仕掛けがあるんだろ。それよりまさかこんな綺麗な人が飛び出してくるとは思わなかった。正直めちゃくちゃ驚いた。


 ちなみに俺を連行した騎士も、この部屋にいる騎士も全員女性だ。おかげで尋問室内はフェロモン地獄と言って差し支えない状況になってる。おかげで我がムスコも元気いっぱいになってしまった。俺はそれがバレないかビビりっぱなしだったのだ。


 「ええまぁ、そういうの得意なんですよ」


 「そうか…今まで初見で見抜かれたことはなかったんだが…興味深い」


 そう言って珍しいものでも見るような視線を向けてくる美女。あまり見つめないでほしい、照れる。


 「私達も兜外して良いですか〜?暑いんですよこれ〜」

 

 扉の前に立つ騎士が声を上げる。男が間伸びしたオネェ口調で喋っているみたいで気持ち悪い。


 「ああ、お前達も外して構わん」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに次々に兜をキャストオフしていく騎士の面々。現れたのはこれまた美女、美女、美少女だ。


 金髪美女の後ろに控える俺の顔を覗き込んできたチラ見騎士は、肩口で切り揃えられた美しい黒髪と切長の目、冷たい視線が特徴的な知的美女。


 唐突に壁をぶっ叩いてくれた間伸びした喋り方をするオネェ騎士は、ゆるふわウェーブの茶髪と目尻の下がったトロンとした目、胸部装甲の膨らみが特徴的なゆるふわ美女。


 チャキンチャキンと俺を脅かしていたチャキン騎士は赤毛のベリーショートにこんがりと焼けた肌、獰猛そうな笑顔が特徴的な活発美少女。


 俺がポカンとした顔で彼女達を順々に見ていると、金髪美女が今度こそ悪戯が成功したという声音で問うてくる。


「なにか感想はあるかな?」


 俺はコクコクと頷くと。


「まさか…これほどの美女、美少女揃いだとは」


「やっぱりそこなのかい!?」


俄然この部屋の空気が、匂いが色めき立つ。美女、美少女の放つ濃厚な香りはアレな魅力だけではなく、真に俺の嗅覚を満足させてくれた。



【個性スキル】のレベルが上がりました。

それにより【嗅覚記憶】を獲得しました。

【個性スキル】のレベルが上限のLv25に達しました。

【個性スキル】の進化条件を満たしていないため進化を保留します。



ふふふっなんと都合が良いことよ。【嗅覚記憶】発動!この空間の香りを余す事なく記憶するのだ!わははははっ!


 ニマニマとだらしのない笑顔を浮かべる俺を見て金髪美女は肩をすくめる。


「君は本当に変わっているな」


 金髪美女から感心して良いのか呆れて良いのか判断がつかないって匂いがした。


 

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