第6話 call of xxxxxx

 


 再びログインした俺の行動は迅速だ。直ぐにでもこの無職のレッテルを剥がさねばならない。


 俺は脱いで間もない初期装備のシャツとズボンを装備して、客室を清掃中だったアンナさんを見つけて鍵を預けると噴水広場目指して猛ダッシュする。


 途中道が分からなくて迷い掛けたりしたが何とか10分弱で広場に着いた。


 今日は2次抽選組のゲーム開始日ということもあり、俺と同じ初期装備を着こなす紳士達が大勢いる。

 

 余談だがゲーム内での1日は現実世界での1時間なのだが、感覚的にはどちらの1日も時間の流れは同じなので気を付けないと頭がバグる。


 

 「看板は何処に?」


 人が多くてどこにあるか分からん!流石に紳士といえども100人以上集まると邪魔くさいな。


 「見習い学校はこっちだぞー!」


 お、野生の親切なプレイヤーが現れた。姿は見えんが感謝するぞ友よ。彼のおかげで人が流れ始めた。乗るしかあるまいこのビッグウェーブに!


 しかしこれだけ大勢が一塊で移動したら街の人に迷惑ではなかろうか。そこら辺は現地の方々的に大丈夫なの?アンナさんの話では大きな問題は起きてないらしいけど、この民族大移動は結構な問題では?


 俺が1人現状にヤキモキしていると先頭の方で動きがあり、集団の足が止まる。どうやら騎士っぽい人達が1列に並ばせつつ誘導してくれるようだ。これが大きな問題になっていない理由か。


 誘導に従ってスムーズに1列になるのは日本人にはお手のものよ!少々戸惑っている人がチラホラいるが、この中には海外プレイヤーはどれくらいいるんだろ?


 《WWO》では言語は自動翻訳されるから会話に違和感はない。プレイヤーネームでわかる奴はわかるけど、基本出身を訊ねない限りどこの国の人かはわからない。


 「まぁ分からなくて良いんだけどな」


 「なにが?」


 俺の呟きが聞こえていたのか前を歩いていた黒髪ポニテ少女が顔だけ後ろに振り向け疑問の声をあげる。


 「大したことじゃないよ。海外プレイヤーってこの列に結構いるのかなって」


 「あなたはどこからインしてるの?」


 顔だけ後ろに向けるのに疲れたのか完全に振り返ると後ろ歩きに移行するポニテガール。


 「俺は日本から、君は?」


 「わたしはスウェーデンよ。日本のアニメが好きで黒髪に憧れてたの、どう?似合う?」


 余程黒髪になったのが嬉しいのか彼女はその場でくるりと回ると、肩に掛かったポニーテールを片手でフワッと払い退け決めポーズまで披露してくれた。


 「はいはい、似合うから止まらないでねー」


 足を止めるな!足を!そのまま肩を掴んでぐいぐいと押してやる。


 「あっちょっ!歩く!ちゃんと歩くから押さないで!」


 やれやれと掴んでいた手を離すと彼女はぷりぷりした様子で非難の視線を送ってくる。


 「あなたはアレね!好きな人に意地悪しちゃうタイプね!」


 「悪かったよ。どことなく知り合いに似ててつい。黒髪もポニーテールも似合ってるよ、本当に」


 「当然よ!すっごく時間かけて作ったんだもん!」


 彼女はその後「まったく最初から素直にそう言えば良いのに」とかぶつくさ文句を垂れていたが機嫌は幾分良くなったようだ。


  「いまさらだけど俺はマコト、よろしく」


 「仕方ないから教えてあげる!感謝してよね!意地悪マコト!わたしはミラよ!」


 「はいはい、ありがとうありがとう」


 ふんっ!と顔を背けるミラ。その彼女の頭上に先程まではなかったプレイヤーネームが表示されていた。


「なるほど、お互いに自己紹介すると頭の上にプレイヤーネームが出るっぽいな」


 「ホントね、マコトの頭の上にも浮かんでる。なんかちょっとマヌケね!ぷくくっ」


 ミラは俺の方を見て人を小馬鹿にした様に笑う。


 「安心しろ。ミラの頭の上にもちゃんと浮かんでるから」


 そういうとミラはサッと頭の上に手をやり何故か頭頂部を抑え、上目遣いにこちらを見上げる。


 「マコトはジャパニーズHENTAIだわ!」


 「え、なんで!?どうして!?」


 確かに嗅ぎニストなる不名誉な称号を持ってはいるが、今の会話の流れで変態呼ばわりされるのは納得できんぞ!


 「こんな辱めを受けるなんて!んぅ…周りの全員に私の名前がバレちゃったじゃないの!ぁんっ」


 なんだこいつやべぇぞ!すげぇ甘ったるい匂いがするし、聞き間違いじゃなければ艶かしい声が漏れてたぞ?変態か?変態だ!そういやさっきも「ジャパニーズHENTAI」の部分は翻訳されてなかった。ミラは意図的にこの言葉を使ったってことだ。そこから導き出される結論は、1つ!


 ミラは日本のアレなサイトを利用している!


 おいおい、なんでお前も分かるんだよ、なんて野暮な事は聞くなよ?そういうことよ兄弟。


 「み、みんながミラのこと見てるぅ!はぁはぁ…ゃあんっ!」


 マジでこいつどうしてくれようか。頬を紅く染めて内股を擦り合わせてモジモジさせやがって。

このまま放っといたらハラスメント警告が出そうだ。匂い的には完全にアウトだ。


 しかし内股を擦り合わせながら歩いてるから後ろから見ると産まれたてのヤギ、ポニテだからポニーみたいで面白い。暫く見ていても良いんだが流石に止めてやろう。


 「おい、産まれたてのポニーさんや。エキサイトしてるとこ悪いけどプレイヤーネームは自己紹介した相手にしか見えないぞ」


 「へ?」


 「ふぇー」


 「な、なによ!?それならそうとっ…もう!もう少しだったのに!」


 「なら尚更俺に感謝しろや!変態ポニー」


 さっきまでミラから漂っていた強烈な甘い匂いもだいぶ薄まった。これで一安心だ。


 「…引いた?」


 チラッとこちらを見ておずおずと聞いてくる発情ポニー。不安の匂いがするが知らん!


 「うん、引いた」


 にっこり笑顔でズバッと介錯してやると、ミラは俯きプルプルと肩を震わせる。それに合わせてポニテもプルプル震えてる。


 「ぅ」


 そして少しすると小さく呻き声を漏らす。だが甘い!甘すぎる!そんなテンプレムーブなどさせるかよ!こちとらジャパニメーションの聖地から来とんじゃ!


 「ぅ「うわああああああん!」


 フハハハハ!どうだ小娘よ!最大の見せ場を奪われた気分は!ワンテンポ遅れた様だがその溜めが命取りよ!貴様の代わりに俺が哭いてやったわ!


 「どうじであなだがなぐのよ!」


 「なんとなくだ。そんなことより終わったことは気にすんな!泣いてどうにかなるわけでもなし!」


 「でも…引いたんでしょ?」


 鼻をぐすぐす、態度はぐずぐずノリに乗ってんなコイツ。


 「そりゃ引くだろ普通…でも引いたからって別にお前のことを嫌ったりはしないぞ」


 「ほんとぉ…?」


 完全に幼児退行しとる!元が何歳か知らんけど!


 「本当!でも今度からああいうのはお部屋で1人でするんだよ?良いかな?」


 内容は酷いが小さい子に対するように努めて優しい声音で言い聞かせる。


 「うん!わかったぁ!」


 目尻にはまだ涙は残っているがパァッと笑顔の華を咲かせるミラ。うんうん、ミラは頑張った。皆さんもミラちゃん良く頑張ったって拍手してくれてるよ。良かった良かった。


 「ん?拍手?」


 思えばミラと話始めた最初こそ声量に気を遣っていたが、ミラがエキサイトし始めた辺りからはそれどころじゃなくなっていた。それに途中から足も止めていた気が…


 「良くやったぞマコトー!」

「ミラちゃん元気出してー!」

 「良いもの見れたぜありがとよー!」

 「日本の侍魂は最高でーす!」

「末永くお幸せにー!」

「ミラちゃんかわいいよミラちゅわーん!」

 「マーコート!あっそれ!マーコート!あっよいしょ!」


 「「「「「「「マーコート!あっそれ!マーコート!あっよいしょ!」」」」」」



なにこれ!?やめてぇえええ!俺の名前を連呼しないでぇええええ!手拍子もいれないでぇえええ!


 こらそこのNPC!しれっと混ざるな!そっちのお前もだ!


 「えぇ……どうすんのこれ」


 事態の収拾がつかなくなってきた。NPCまで混ざってのマコトコールは拡大の一途を辿っている。これじゃあ俺の声は物理的に届かない。てかなんだマコトコールって!原因となったミラはミラで羨ましいのか妬ましのか良く分からん視線をぶつけてくるし。


 ハッ!?そうか視線か!今この場の観衆は俺を見ている。視線は俺に集まってる!ならばなんとかなるはずだ!オーディエンス共、馬鹿騒ぎは終いだ覚悟しろ!


 

 俺は何度か深呼吸をすると、背筋を伸ばし、右手を掲げてアピールする。何故か黄色声援が上がったがスルーだ。勘違いすると碌なことにならん。そして次に左手も右手と同様にあげ、右手と左手を上げ下げする。よく知らないがテレビの大統領選挙で見た気がする動き、ジェスチャーだ。


 途端にマコトコールが小さくなっていく。なんと20秒も経たずに先程までの喧騒が嘘の様に静まりかえってしまった。凄いぞ大統領!ありがとう!


 だがこれで終いでは締まらないだろう。安心してほしい、ちゃんと心得ている。見せてやろう日本人の流儀ってやつを!


 俺は大きく息を吸い込むと皆に聞こえるように声を張る。


 「みんなー!ありがとー!」


 わぁ!と再び沸くがすぐさま先程のように鎮める。そして視線が俺に集中したのを確認したらいよいよクライマックスだ。


 「それでは最後にー!みなさまのー!お手を拝借ぅー!」

 

 「いょーおっ!」


パパパン! パパパン! パパパン! パン!


 日本人であろう者達は俺に追随してくれると信じていた。お陰で1回目はそれなりに様になったが、知らない者たちが困惑している。


 「一緒にっ!」


パパパン!!パパパン!!パパパン!!パン!!


 「ラストっ!」


パパパン‼︎‼︎! パパパン‼︎!!! パパパン‼︎!‼︎ パンッ‼︎‼︎!





 しーんとした静寂が流れる。今この時この場の皆の心が1つになった。



 見たか世界よ!異世界よ!これぞ日本に伝わる締めの奥義、三本締めよ!!!


 





 あれ、もう終わりなんだけど?なんか皆さん動かないんですけど?ジッと俺の方見ないでくれます?これ以上どうしろと?…良いだろう!こうなりゃヤケだ!



 「さ、さぁみんな!見習い学校に行くぞー!」


「「「「「「「「おぉーーー!!!」」」」」」


うるさっ!こら足踏みしないの!地面が揺れること揺れること。


 「はぁ〜やれやれ…これでやっと進める…」


 集団が再び1列になって進んでいくのを確認した途端、とんでもない疲労感が押し寄せる。半端なく疲れた…。おやミラさんやそんな顔してどうしたんじゃ。


 「マコト、ごめんなさい」


 「過ぎたことは気にしないんじゃよ」


 「?う、うん!それよりあなたって凄いのね。尊敬するわ」


 「うんうん、ありがたやありがたや」


 「だ、大丈夫?なんか顔が萎れてるわよ」


 「ふぅ〜あーもう大丈夫だ。一気に老け込んでメンタルケアしたからな」


 「そ、そう。あのそれよりマコトに話があるって人が、その…来てるんだけど」


 「ん?誰だ?」


 ミラの後ろにはそれらしい人は見当たらないが。俺が首を傾げているとミラは視線を泳がせ躊躇いがちに俺の背後を指差す。


 振り返ってみるとそこには純白のフルプレートアーマーを纏った騎士様が仁王立ちしておられた。


 「わたしだ。貴様には我々、白桜騎士団の本部まで同行してもらう。無論そこの娘も一緒にだ。理由は、言うまでもないな?」


 

 「はぃ…」


あれ?もしかしなくても今までで1番大きな問題を起こしてしまったのでは…???







【称号 淫行を止めし者】

【称号 マッチポンプ乙】

【称号 call of マコト】

【称号 大衆を沸かせし者】

【称号 大衆を鎮めし者】

【称号 大衆を導く者】


を獲得しました。


尚、スキル取得に必要な称号が揃いましたので次回の戦闘後に自動取得します。




 なんだかアナウンスの機械的な声って安心するー。緊張感がないからかな?それとも空気が読めないからかな?でもとりあえずマッチポンプ乙とcall of マコトってつけた奴は殺すね♪うふふ♪あはは♪


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る