ワン・ツー・ステップ・ワンダーランド

清泪(せいな)

公園の砂山

 

 この砂山の穴の向こうには何があるんだろう?


 少年は自身が作り上げた砂山に自分で穴を掘ったのだが、ふとそう思いあたった。

 普通に考えれば、砂である。

 山を貫通させてトンネルにしたわけではないので、穴の先には単に砂があるという事は明白である。

 しかし、少年は思いあたったのである。

 何があるんだろう?、と。


 疑問に思ったのだから、確認するのは自然の流れで。

 少年は穴の中に左手を差し込んだ。

 手の先に濡らして固めた砂の感触がある。

 ひんやりと冷たくて気持ちがいい。


 左手はどんどんと穴の中に入っていく。

 少年にまた疑問が一つ生まれる。

 掘った深さより穴がずっと深いのだ。

 少し身を乗り出して左手をもっと奥へと伸ばした。


 砂山が頬に当たるほど身体を近づけて、穴には左肩が入りそうになっていた。

 もうこれ以上は腕を中に入れる事が出来なさそうなので、少年はそこで手を動かしてみた。

 上下左右、冷たい砂の感触。


 結局、砂か。


 そう諦めた瞬間、指先に温かい何かが触れた。

 突然の接触に少年は肩をすくめて、腕を穴から抜こうとした。

 しかし、そうしようとした少年より先に何かが少年の指先を引っ張った。

 少年は恐くなって、左手を激しく動かしてその何かを振りほどいた。


 意外と簡単に振りほどけたので、少年は変に強気になってしまった。

 今度は少年が何かを掴んで引っ張った。


 一気に引き抜こう。


 少年は身体全体を使って、穴の中の何かを引っこ抜いた。

 ……つもりだった。


「わ、わ、ちょっ!……」


 少女の声が聞こえたので顔を上げれば、目の前には倒れてきた砂山。

 少年は咄嗟に左手で掴んだ何かを離して、後ろに逃げようとしたのだが間に合わなかった。

 砂山と、少女が倒れ込んできた。


 倒れたままの少年、立ち上がる少女。

 白いブラウスに、赤いスカート。

 三つ編みに、ハート型のピンクのリボン。

 少女は身体中についた砂を払う。


「もう、いきなり引っ張らないでよぉ。ぺっぺっ、あーあ、口に砂が入ったじゃない」


 頬を膨らませふてくされる少女の文句に、ようやく少年は顔を上げ身体を起こした。

 少年の顔中は砂まみれで、それを見て少女は指を差して頬を緩ませて笑った。


「……これは僕が作った砂山だぞ」


 笑う少女を睨みつけて、少年は言う。

 睨まれた少女は笑うのを止めて、少年を睨み返す。


「だから、何よ。公園の砂場はみんなのもの、ってママが言ってたもん」


 いーだ、と少女は口を大きく開けて歯を噛み合わせて続ける。

 みんなのものだから少年とは逆方向から穴を掘っていたのは責められる事ではない、と少女はその威嚇に意味を込める。

 少年もはっきりと明言されたわけでも無いのにその辺りの意図を読み取った。

 とはいえ、やっぱり腹立だしい事は残る。

 少年が少女を引っ張ったからとはいえ、長い時間かけて作り上げた砂山は崩れてしまった。


「……どうすんだよ、これ」


 少年は崩れてしまった砂山を指差す。

 もう穴なんか見当たらない。

 問われた少女は、んー、と腰に手をやり頭を二度横に振る。


「よし、二人で作り直そう!」


「え!? あ……うん」


 少女の思わぬ提案に少年は驚いたものの、嫌な提案ではなかった。

 一人で作るよりは、誰かと作った方がずっと楽しい。


 少年は穴の中から、友達を引っこ抜いたのだった。

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ワン・ツー・ステップ・ワンダーランド 清泪(せいな) @seina35

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