言葉の意味

 言葉の形だけ僕と君は繋がった。

 意味を知るたびにその手は触れ合った。たとえ君がいなくなった世界でも、時を巻き戻してまた君と言葉を交わす。伝えないといけない想いを、できるだけ形にするために。

 よく心理学者は言う。言葉では本来の意味の三割も伝えられないと。

 ああ知っているとも。どれだけ言葉を紡いだところで僕と君は別人だ。同じことを同じように感じられることもあれば、まったく違う意味で互いに違えることもある。少しだけ違う。本質だけ見出されない。

 言葉は無限だ。だけどそれは形でしかなく、想いを象る型取りでしかない。

 だけど、きっとと、お願いと、どうかと、そんな数多を繋げて僕と君は繋がる。淡く今にでも消えてしまいそうな細い糸で小指と小指を結ぶ。そうして僕と君は関係を築き上げてきた。

 だからいつまでも僕は君に言葉を紡ぐ。届いてと、そう願い続ける。


 息を吐いて昇る朝日の日に私とあなたは言葉を紡いだ。

 ——おはよう

 ——うん、おはよう。早いね

 ——君も同じじゃない

 ——あはは。あなたに会いたくてね

 ——やっぱり、君は言葉にするんだ

 ——だって、言葉にしないと伝わらないし、言葉にしても私の気持ち全部はあなたに伝わっていないでしょ

 朝日が昇る頃、私とあなたは互いの想いを確かめた。


 予鐘が鳴り響く騒がしい昼休みの終わり、僕は「じゃあ」と君に手を振った。

 ——うん。また放課後ね

 ——……一緒に帰ろ

 ——…………

 ——なに?

 ——ふふ、あなたの気持ちが伝わったのが嬉しいの!感じてもらうことも、感じられることも奇跡みたいだね!

 君の嬉しそうな微笑みをきっと忘れない。そして、言葉にしてよかったと何度目かの放課後で僕は心臓の音を満たした。


 夜が青と闇の狭間で己の命を月として輝かせるひと闇の蒼の時。私とあなたはキスをした。

 ——やっぱり言葉以上に伝わって来るね

 ——恥ずかしいけど、そうだね

 ——もっとする?

 ——うん。するよ。でも——

 ——ん?

 ——言葉でももっと伝えたい。やっぱり言葉がないとダメだよ

 ——そうだね。私も伝えたいなー。あなたのことが好きだって

 ——伝えてるじゃん

 ——ほんとだ。あはは

 ——僕も君のこと、好きだよ

 そうして、僕と私は唇を重ね合わせる。言葉以上の想いが言葉と行動でどこまでも届けばいいと願いながら。

 そんな夜の終わりに私は誰もいない世界でも、あなたに届きますようにと願いながら何度でも『好き』と伝えるのだ。

 あなたが好きです。

 君が好きです。

 いつまでも

 これからも

 ずっとずっと

 永遠に——


 これが言葉なのです。

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