一三月一日

*シーン:放課後の教室

*登場人物:高校生A 高校生B



高校生A:(壁のカレンダーをめくる)「今年……オリンピックイヤーだっけ」

高校生B:「まあ、そだね」

高校生A:「という事はうるう年だよね。……カレンダー、二月二九日ないんだけど」

高校生B:「二月二九日? 何言ってるんだ。そんなもんあるか。二月は二八日までだろ」

高校生A:「え。でもうるう年は一年、三六六日……」

高校生B:「お前頭打ったのか? ってか、さっき教室前の廊下のワックスで滑って頭打ってたな。うるう年は四年に一度、一三月があるだろ」

高校生A:「へ? 一三月?」

高校生B:「世界の常識だろ。四年に一度、一日だけの一三月があるのは」

高校生A:「一日だけの一三月?」

高校生B:「この一日で暦を調整してるじゃないか。三六六日。一二月三一日の後、翌年の一月一日の前。四年に一度の一三月一日。うるう月。大大晦日(おおおおみそか)」

高校生A:「大大晦日?」

高校生B:「そお。まあうるう年は必ずオリンピックのある年とは限らないけど、ここではそれは言わない」

高校生A:「一三月の誕生石は?」

高校生B:「サンゴ」

高校生A:「一三月の誕生花は?」

高校生B:「月下美人。花言葉ははかない美」

高校生A:「一三月の英語名は?」

高校生B:「ページワン」

高校生A:「一三月の旧暦は?」

高校生B:「立待月(たちまちづき)」

高校生A:「一三月の黄道星座宮は?」

高校生B:「磨羯宮。やぎ座」

高校生A:「……そこは蛇つかい座じゃないんだ」

高校生B:「お前本当に頭のネジがぶっとんだのか。さっきから何言ってるんだ」

高校生A:「いや、ちょっと待て! 俺の記憶が、俺の常識が……うわっ!」(SE:激しい転倒)

高校生B:「おい。何すっころんでるんだ。ワックスが上履きの裏に残ってたのか」

高校生A:「いてて……」

高校生B:「また見事に後頭部を打ったな」

高校生A:「てて……よし、とにかく俺の決意は決まった。新しい常識を受け入れる。うるう年の一三月一日。大大晦日。正直それは記憶にはなかった。だがそれは俺がおかしいんだ。俺はカレンダーを信じる」

高校生B:「何言ってるんだ。一三月一日? 大大晦日? うるう年は二月二九日だろ」

高校生A:「へ?」

高校生B:「頭打っておかしくなったか」

高校生A:「え。ちょ、まっ! 一三月は?」

高校生B:「何言ってるんだ」

高校生A:「ちょ、まっ! だってこのカレンダーには……(カレンダーをめくる)あれ」

高校生B:「どした」

高校生A:「二月二九日が……ある……」

高校生B:「あたりめえだろ。そんな事より早く下校するぞ。とろとろしてると陽が暮れちまう」

高校生A:「ん~……」(うなる)

高校生B:「何考えこんでるんだ。とろとろしてっとまたすっころぶぞ」

高校生A:「……いや、それは勘弁してくれ! ……今度現実が変わったら受け入れられる自信がない」

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