サーフィン・マスト・ゴー・オン!

『アテンション! アテンション! 足下の海上に波高三〇m級のビッグウェーブが発生しています! コンディション・オールグリーン!』

 機内がコックピットからのアナウンスで震え、あたしは床になっていたハッチがゆっくり開く光景に集中する。

 窓の外に青い空と白雲。覗くヘリ内に入り込んできた強い風に髪をさらわれる。機内はティルトローター機のローター駆動音であふれかえる。

 あたし達はこれからに備えて心震わせる。

 ハッチから見える眼下には。ワハハイ諸島沖の青い海が広がってる。その海に白い切り傷の様な十数条の線が平行に走っているのがはっきりと見える。

 ビッグウェーブだ!

 あたしは誰? あたしは颯風院兎さふういん うさ。内閣調査室の秘密諜報員兼美少女プロサーファー! 他の人とちょっと違うところといえばバニースーツにこだわっている事かな。

 ボードよし! ゴーグルよし! バニースーツよし! パラシュートは……もとからなし!

『アー・ユー・OK? ……レッツ・サーフィン!』

「ウサ! お先に!」

 あたしより早く下部ハッチからとび出したのは同僚の孔明院夕景こうめいいん ゆうけいだった。

 ヘリから落下した身体がみるみるうちに小さくなっていく。

 あたしも一歩遅れて機外へと飛び出し、ゴーグルなしでは眼が開けられない猛烈な空気抵抗の中、重力落下。

 風が……強い……!

 あたしは落下途中でボードを下に敷き、サーフィンスタイルに。ボードで風を切り分けていく。

 眼下に豆粒の様な夕景の姿。

 彼もパラシュートは背負っていない。

 あたしはこの自由落下の中で次次とトリックスタイルを練習する。風を切ってボードを操り、スケボーの様に十数度ポーズを決める。うん。こんなもんだ。

 気がつくと眼下の巨大な波頭まであと三秒。

 一直線に高速落下。

 あたしと夕景はほぼ同時にビッグウェーブの波頭へシンクロ着水した。着水衝撃は上手く逃がしてそのままサーフィンへ。

 一気にロングタイム・サーフィン!

 怒涛の如く轟くビッグウェーブに乗り、あたし達は浜をめざす。

 ワハハイの超巨大な波は不安定。突然調子を変えて崩れ始めた波頭に見切りをつけて大ジャンプ!で隣の波へと飛び移る。足裏にボードが吸いつく。夕景も同じ判断だ。ウェーブチェンジでサーフィンは続行!

 大きく盛り上がったり盛り下がったり、うねって形が変わったり、ワハハイの波は一気に崩れたりするから次次と大きくジャンプして波から波へ飛び移らなきゃね。大波に吞まれたら人生ワイプアウトよ。

 あ、それからこのサーフィンは全世界に動画がライブ配信されてるんで、波頭でスリーシックスティとかチューブライディングとか数数のトリックをかっこよくガンガン決めると、フォロワーから『いいね!』が入るよ! プロサーファーとして稼がなくっちゃ。めざせ、一億再生。

 やっぱりバニースーツのサーフィンってキモチイーっ!

 あたしと夕景はこのままトリックを決めつつビッグウェーブを浜まで完走するんだけど、敵は大波だけじゃない。

 こういう時にも秘密諜報員であるあたしと夕景を逆恨みする悪の組織とか、大自然の驚異が襲いかかってくる。波乗りしつつそいつらから逃げ回りゃいいんだけれど、追ってくる奴らが普通じゃない!

 ほら! 今日も海のあちらこちらから有名な三角背びれが集まってきた! 波に紛れて襲いかかってくる三mほどの鮫達! ボード上のあたし達を狙って海から飛び上がってくる!

 一度始めりゃ途中で降りるわけにはいかないのがサーフィンのイイところ。

 波乗るあたし達は時折、隙を狙ってそいつらの鼻面をボードで踏みつける。すると鮫達はダメージを食らう。踏みつけるそこでスリーシックスティとかトリックを決めると大ダメージ! ザコは一、二発も決めればワイプアウト。簡単よ。まあ鮫がボード上のあたしや夕景に食いつけばあたし達も大ダメージなんだけれど。

 と、しばらくするとおっそろしい奴が登場した。

「兎! 後方に気をつけろ! 新手が来る!」あたしと同じ様に鮫を倒していた夕景が注意をうながす。

 背後のひときわ大きな波頭を割って登場したのは、全長三〇mはあろうかという巨大鮫メガロドンの頭部! 波ごとあたし達を丸呑みにしようと牙だらけの巨大な口全開で襲いかかってくる。

 あたし達は突進から逃げ回りながら、協力プレイで相手の鼻面で華麗なるトリックを決め続ける。

 いいね! ゴージャス! パーフェクト! ワザマエ!

 何とかメガロドンの頭部が沈んだ頃に、あたし達の波もビーチへと辿り着く。

 波が終わってサーフィン終了。イェーイ! 夕景とグータッチ。

 今日は鮫達に襲われたけど、あたし達のサーフィンにトラブルはつきもの。

 ある時は悪の秘密組織『ゾットスルー』所属の魚雷を撃ちまくってくる原子力潜水艦!

 イルカが攻めてきたぞ! そしてそれと共に襲いかかる巨大な凶暴たる白鯨!

 滅亡したんじゃなかったの!? オパビニアの群と巨大アノマロカリス!

 出るゲームを間違えたんじゃない!? 河童軍団と巨大タコ坊主!

 『ゾットスルー』所属のUFOがあたし達をUFOキャッチング的に追い回しながら、波乗りMIBをポロポロ着水させてくる!

 嵐を引き連れて襲ってくる生きている積乱雲と幽霊海賊船!

 クロールで近づく人型ロボット機雷と、画面におさまりきれない超弩級ドリル大戦艦!!

 はたまた『ゾットスルー』の本部基地島を脱出しながら、核爆発の衝撃波で超高速サーフィンよ!

 海はトラブルでいっぱいなんだから!

 勿論、あたし達はやられないわ。撃破、撃破で今日も『いいね!』をかせぎまくったわよ。

 何、あたし達はやってる事が多くてわけが解らない?

 つまり、あたしは「サーフィンしながら逃げ回って」「トリックを決めて」「隙を見て逆襲しなけりゃならない」という事。

 さて、あたし達は浜に降りてきた銀色のティルトローター機に再び乗って、スタッフと一緒に次のサーフィン・スポットへ発進するわ。

 サーフィン・マスト・ゴー・オン!

 今夜はあなたの夢でサーフィン出来るといいな。

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