ファースト・コンタクト

「WAO!」

 スピーカから流れる宇宙背景放射の雑音が意味のあるメロディに変わった時、担当の電波観測員はプリンタから吐き出されてきた有意の波形に、手書きで自分の感嘆を書きつけていた。

 異星人捜索プロジェクト。深宇宙探査用の巨大パラボラアンテナが捉えたのが一〇分ほどの異星人の音楽番組の放送だと政府から発表され、マカカプ星の三〇億の全人類は初めて自分達以外の知的生命体がいる事を知った喜びと興奮に包まれた。

 マカカプ星を挙げて番組内容の翻訳に頭脳が注がれ、五年かかってほぼ全てが解読された。

 どうやらこれはマカカプ星より約四・二二光年離れた『タイヨウ』系の第三惑星『チキュウ』の『ニッポン』という国の地方言語によるラジオ番組らしい。このチキュウには人種が複数いて、まだ統一国家も統一言語も統一貨幣も存在していない様だ。マカカプ星とはずいぶん異質の文化だ。そのエキゾチックさが瞬く間にマカカプ星全人類を虜にした。

 特に番組で流れていた『歌』は自分達のそれとは全く違うものだった。遠距離恋愛をする恋人達を叙述したラブソング。コミュニケーションに『遠距離』という概念がなくなるほどに電子化されたマカカプ人には、レトロかつ新鮮な感動だった。

 このニッポン語の歌は原語のままで星中で大流行した。恋人達が歌い、子供達が歌い、成人式で歌われ、葬式で歌われ、未開文化を選んだジャングリアン達も歌い、この歌のおかげで終戦した内戦があった。

 マカカプ星の三〇億の民で、この歌を歌わなかった者はいなかった。

 マカカプ星はチキュウを目標に「初めまして。チキュウの文化、特に歌は大変素晴らしい。三〇億の民全てがいつも歌っている。初めての異星文化と友好的に交流したい」とニッポン語で指向性電波のメッセージを送った。

 そして一〇年がたった。

 今日はチキュウからの宇宙船がマカカプ星を初めて訪れる日だった。

 宇宙港に初の恒星間飛行をしてきた宇宙船が着陸し、三人のチキュウ人が降りてきた。

 見守るマカカプ人は、ニッポン語の歌で宇宙港の空気を大きく震わせて歓待した。

「マカカプ星へようこそ」マカカプ政府首相はニッポン語で来訪者に挨拶した。「貴方達はニッポン人ですか? 所属はUN? JAXA? NASA? それとも一〇年の内に統一政府が成立しましたかな」

「私達は」ニッポン人は挨拶を返した。「JASRACです」

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