第27話 王都の結界

 

 なので事前連絡はなし!

 アポなしで宰相であるお父様に、玉座に連れて行っていただく!

 あと、城内の騎士の皆さんも文官の皆さんも「あ……」とお察しくださる眼差し。

 こうして誰かに引き止められることなく玉座までスムーズに到着。


「お前にばかり負担をかけてすまない」

「大丈夫ですわ。……ただ、あの方がお戻りになられるようならすぐ立ち去りますので」

「もちろんだ。だが、かのお方は今城には住んでいない。郊外に屋敷を与えられ、そこで“護衛”数名と共に軟禁されている」

「!」


 玉座の真裏にある、聖女像に掲げられた紫水晶。

 王都、城にヴォルティス様の魔力を流す“出口”。

 これが結界の核。

 それに手をかざし、結界の修繕を始めたらお父様がそのようにおっしゃる。


「……ですが、昨日あの方が竜の塔に現れました。私は姿を見ていませんが、ヴォルティス様とベル……晶霊の侍女がとても心配して、私に会わせまいとしてくれましたのよ?」


 お父様はかなりやんわりとおっしゃったけれど、“護衛”とはつまり監視だろう。

 王太子ではなくなったとはいえ、王家の血筋の者を放置はできないし、放置すればまたなにかやらかす。

 実際やらかしているし。

 昨日も「レイシェアラを返せ」と竜の塔に来ていたみたいだし。

 軟禁の度合いがどの程度かわからないけれど、手綱は繋いでおいてくれているようだ。

 まあ! それで大人しくしてくださる方ではないだろう!


「そうか、やはりあの程度では手ぬるかったか」


 お父様、言い方。


「正直、護衛騎士たちも王子と会話が成立しなくて精神を病む者が続出していてな……」

「なんということでしょう……」


 ゾッ。

 お気の毒に。

 気持ちはよく分かりますわ……。

 ああ、騎士様方、どうかお大事になさって……!


「アレと何年も一日中一緒にいたお前がいかに心労を抱えていたかと思うと」

「わ、私のことはよいので、今後の対応をご検討よろしくお願いします!」

「無論だ。個人的にはもう城の地下牢でもいいんじゃないかと思うのだが、竜の塔に聖女を拐かしに行っただけではまだ弱くてな。お前を竜の塔に行かせないために、監禁したことがあっただろう? あれでもまだ地下牢はやりすぎだという声がある」

「む、むう……年功序列派閥の方々ですわね?」

「うむ」


 才能と実力を重視する派閥の方々と、年功序列で跡取りなどを決めてきた方々と意見が分かれているのだろう。

 でも私からすると、どちらも『人格』が入っていない時点で同じ。

 しかし年功序列を重んじる方々は、いまだにあのやんごとなきアホを支持しているのか。

 本気ですかね?


「ではその年功序列の派閥の皆さんにあの方をお任せしてみましょう」

「なるほど、考えたな。ぜひそうしてみよう」

「では、私は結界の修繕を!」

「頼む」


 魔力を満たし、結界の把握を開始。

 紫水晶に流れ込む結界全体の情報。

 あちこち薄くなって、穴が空いている箇所もある。


「!」


 刻印が光り、私の手の中に大きな水晶玉が現れた。

 おそらくこれは、私にしか見えない結界のイメージ。

 なるほど、これで結界の弱っているところを補修していけばいいのね。

 細かな傷のようなものに手をかざすと、聖魔法により傷は消え去る。

 さらに穴の空いたところにも手で触れるてみた。


「うっ」

「レイシェアラ!?」

「だ、大丈夫ですわ」


 ものすごい勢いで魔力を吸われていく……!

 ヴォルティス様の魔力を、刻印越しに根こそぎ奪われていく感じ。

 王都の結界は他の場所よりも強固だと聞いたことがあるけれど、これほどまでに魔力を使うとは思わなかった。

 でも——。


「王権紫水晶との、接続……!」


 ヴォルティス様の魔力を聖女の刻印を通して供給源とする、この紫水晶と結界に必要となる魔力供給を連結させる。

 そうすることにより、わざわざ聖女が出向かずとも自動修復を行うよう、魔法陣を再構築、する!

 魔力供給が10%を切らない限り、結界の修繕を最優先。

 こうすれば、王都は最後まで結界で守られる。


「…………」

「レイシェアラ……」


 そして、この膨大な魔力を制御しなければ。

 明らかに魔力供給過多だわ。

 魔力が多すぎれば魔力の吹き溜まりが発生して、その濃度が上がると瘴気が生まれてしまう。

 瘴気が濃くなれば、魔物が生まれる。

 それを避けるために、魔力は最低限。

 結界に使われる魔力量を最低限で最大効率を引き出せるよう、これまでの魔法陣を書き換える!

 私ならできる。

 ヴォルティス様の魔力を無駄に使われては堪らないわ。

 あの方はこれまでずっと、この国に貢献してきてくださったのだもの。

 こんなに無駄に魔力を奪われるのは、私が許せない。


「っ——」


 私が今まで学んできた聖魔法。

 ヴォルティス様の魔力。

 あのやんごとないアホに振り回されてきた私にとって、この程度の無茶、どうにかするのは不可能ではないわ!


「できた!」

「レイシェアラ、大丈夫か」

「はい! 最小限、最大効率設定、完了です!」

「あまり無茶するんじゃない。歴代の聖女様が作り上げてきた結界の書き換えなど……はぁぁぁ……」

「ご心配をおかけいたしました。でも、成功ですわ」

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