第26話 聖女のお仕事再開!

 

「——あら?」


 翌朝、目覚めると左手の甲にある刻印が形を変えていた。

 ベルに聞くと、「結界特化の竜の刻印ですね」と教えられる。

 結界特化!

 刻印って仕事に応じて変化するのね。

 着替えて一階のヴォルティス様のお部屋に向かう。


「今日はトマトとふわふわ卵スープと、トマトたっぷりオムライスだ」

「くっ!」


 私がトマト好きだと完全にバレている——!

 なぜ! そんなにわかりやすい態度は、とった覚えがないのに!


「美味しいです……が! ど、どうして私がトマト好きであると……!?」

「トマトリゾットの時だけ完食するのが早かった」

「た、たったそれだけのことで!?」

「いや、かなり顔に出ていたぞ」


 なんですと……!


「さて、それを食べ終わったら結界の構築と修繕に出かけるといい」

「! は、はい。あの、それでこの刻印は——」

「結界に特化した『竜の聖女の刻印』にしておいた。もう少し慣れれば、お前自身の意志で、刻印を変化させることができるようになるだろう。その刻印を使い、聖魔法[結界]を用いれば細かな設定で結界を張ることができる。まずは王都の結界の修復をやってみるといい」

「は、はい、わかりました……」


 王都。

 それを聞いて少し、夢の内容を思い出した。

 この方は、初代聖女様に屈服、国に使役されるような形でここにいる。

 ご本人は気にした様子がないけれど、このままでいいのかしら?

 いえ、まずはあの夢が真実なのかを確認してから……ち、違うわ、レイシェアラ、落ち着きなさい。

 今日は結界を直したり、張ったりするのよ。

 すっかりしっかりお休みをいただいてしまったのだから、きっかり働かなければいけないわ。

 結界が消失して、国民の方々は不安な日々を送っているのよ!

 聖女として、頑張って働かなければ。

 ヴォルティス様にあの夢のことお伺いするのは、夕飯の時にしましょう!


「では、行って参りますわ」

「ああ、気をつけて」

「……っ?」


 ふわり、と微笑まれる。

 途端に顔が熱くなり、胸が、鼓動が跳ねた。

 なにかしら、今の。


「ご主人様、お出かけの前にひとつ、よろしいでしょうか?」

「どうかしたの、ベル」


 玄関から外へ出ると、ベルに引き止められた。

 振り返ると心配そうな表情。


「王都へ行かれるのですよね?」

「あ、そう——……ああ……そ、そうねぇ。で、でも別に会わないと思うし……」


 ベルが心配そうにしてくれている理由に、思い切り心当たりがある。

 そう、やんごとないアホだ。

 先日も殴り込んできたというし、王都に行くついでに陛下や王妃様にクレーム入れてきましょう……。

 強めに、本当にどうにかしていただかなければ。


「護衛を増やしてはいかがでしょうか。ベルが同行できたらよいのですが、本日はベッドシーツをお洗濯せねばならないので……!」

「え、ええと、でも、勝手に晶霊は増やせないでしょ?」

「ヴォルティス様には『必要ならいくら増やしても構わない』と許可はいただいております」

「そ、そうなの」


 じゃあ、護衛を増やした方がいいかしら。

 正直クラインだけでいいと思うんだけど、大型の狼の姿は人を怯えさせてしまいそうだもの……。

 あと、あのやんごとないアホに遭遇した時のことを思うと、私の心のケアをしてくれるもふもふ要員は多い方がいいわ。


「では晶霊を召喚するわ」

「はい!」


 ベル、力強い。


「えっと、ラックと、クラインもいいかしら?」

『ヒーン!』

『キャウン、キャン!』


 嬉しそうに飛び跳ねている。

 どうやら二人とも賛成してくれているみたい。

 ありがたく新しい晶霊を召喚させてもらう。


『にゃーん!』

「! 猫型!」


 素晴らしいもふもふ要員だわ!

 召喚した途端、私の肩に乗ってすりすりしてくれる、真っ白な猫。

 あ、あぁぁぁぁ……!

 犬の固めの毛質とは異なるビロードのようなさらさらふわっふわっの毛並み……!

 首の周りを歩いていく水のような動き。

 恐る恐る触れてみると、ぐにゃーんとする。

 ひいいいぃ!

 犬と全然違う……違いすぎる!

 なんか怖い!

 そして物足りない!

 獣臭が! 足りない!


「…………猫、苦手」

『にゃんと!?』

「その小ささで喋るの!?」

『猫型晶霊はこの状態でもお話しできるのですにゃん。それよりあるじ様、早く名前をつけてほしいにゃ』

「あ、そ、そうだったわね。……えーと、シロ、ではどうかしら?」

『にゃん!』

「よろしくお願いしくね、シロ」

『よろしく頼むわ、あるじ様!』


 新たな仲間も加わり、早速王都へ!




 ラックの背に乗って、王都へと移動する。

 結界は王都をすべて覆い隠すほど巨大。

 その発生地点となるのは、王城の玉座。

 なので、城に入って玉座に連れて行ってもらわねばならない。

 本来であれば「この日に伺います」と伝えておくべきなのだが……。


「レイシェアラ!」

「お父様! いきなりお伺いして申し訳ありません」

「いや、いいタイミングだ! すぐに玉座へ! あのアホが出かけている間に!」

「はい!」


 この時間帯はテディ様とお買い物に出かけているはず!

 事前に連絡してしまえば、私が来ることを耳にするかもしれない。

 うっかり『聖女ので迎え』の準備などされたら、いくらあのアホがアホでも不審に思うだろう。

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