第14話 頼んでないお迎え(1)

 

「お前は今この国でもっとも重要な女だ。俺もお前にやってほしいことがある。死なれては敵わん。我自身がお前の側でお前を守れれば確実だが、封印されている以上ここから動くこともできないしな」


 ……私を、竜王様が自ら守る?

 守る……。


「っ……」


 そんなこと、殿方に初めて言われたわ。

 アホ王子に言われたこともあったような気がしないでもないけれど、あの方の言葉はまあ、なにも中身がない。

 聖女に選ばれた私を監禁して「守る」などと言っていたような気がしないでもないけれど、言葉の中身が伴っていないのはすぐにわかった。

 結局食事だって持ってきてくれなかったもの。

 ええ、ええ、あんなのノーカウントよね。

 守るどころかあれは身の危険を感じましたもの。

 って、喜んでいてはいけないわ、レイシェアラ。

 私はヴォルティス様に仕える聖女。

 主人に守られるのではなく、私がお守りしなければ!


「もっと刻印が馴染み、我が魔法を覚えれば転移魔法も使えるようになるだろう」

「転移魔法……! 空間魔法の最上位魔法ですね。そんな魔法まで使えるなんて、ヴォルティス様は本当にすごいです!」

「ま、まあな。我は竜だからな。だ、だが、今はまだ無理だぞ。移動用と護衛用の晶霊を使え」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます」

「気をつけて行け。聖女は国内外に利用価値があるのだからな」

「はい、お気遣いありがとうございます。行って参りますわ」


 ヴォルティス様、本当にお優しい方。

 お辞儀をして部屋を出る。

 玄関から表に出て、紫水晶に触れた。

 ベルの時のように光がふたつ、私の魔力な反応して生まれてくる。

 一体だけでも憧れの晶霊を、さらに二体もだなんて。

 なんだかバチが当たりそうなほど高待遇。


『ヒヒィーン』

『あおん』


 召喚されて現れた晶霊は手のひらサイズの馬と狼。

 移動用の晶霊が馬で、護衛用の晶霊が狼ね。

 どちらも小さくてとても可愛い……!


「初めまして。ええと、ではラックとクラインと名づけましょう。どうかしら?」

『ヴルルルルルル』

『あんあん!』


 か、可愛い……!!

 ほっぺにすりすりしたい……!

 いけないわ、レイシェアラ。

 理性を失ってはダメよ。

 こんな小さな生き物、ほっぺすりすりで潰してしまっては申し訳が立たないわ。

 生まれてすぐにほっぺすりすりで消失なんて可哀想すぎるでしょ!

 堪えるのよ、レイシェアラ!


「レイシェアラ!」

「!?」


 まずはラックに大きくなってもらい、いただいた地図に記された土地のひとつに行ってみよう。

 そう思っていた私は塔に近づく一人の男の姿が目に入る。

 いやいや、そんな馬鹿な。

 そんな馬鹿な。


「え、ニ、ニ、ニ、ニ、ニコラス殿下!? なぜここに!」


 ここ、竜の塔ですが。

 常人には耐えられないほどの魔力濃度ですが!

 私をここに連れてきてくれた騎士様が、私を降ろしてくださった場所がおそらく常人が耐えられるギリギリの魔力濃度の場所。

 そこをケロッと超えてこられた!

 くっ、さすが腐り果てても勇者の血筋。

 現王族の中でもっとも魔力量が多く、男性にしては稀有な聖魔法適性をお持ちの方!

 平然と、階段の前まで来てしまった。


「ご主人様には近づかせません」

「ベルっ」

「迎えに来たぞ、レイシェアラ!」

「い、いや……!」

「おさがりください、ご主人様!」


 ベルが私の前に立つ。

 ニコラス殿下と私を遮り、これ以上近付かれないように。

 ど、どうしよう、まさか殿下が竜の塔に現れるなんて。

 王国はどのような沙汰を殿下に下したの!?

 頭はあれだけれど、剣の才能もおありの方だからせいぜい騎士爵を与えて国のためにこき使おう、くらいは思っていはずだけど……。

 ああ、はい、この人が王様やお妃様の温情を、理解できるはずがありませんでしたわよね。

 そんなことができたら、もうとっくの昔に名君になってますわね。

 くぬぅ、無駄に稀有な才能に恵まれておいでとはいえ、常識が足りなさすぎます!


「なんだお前は。退け、私はレイシェアラを助けに来たのだ!」

「助けに!? なにをおっしゃっているのですか!? 私は『竜の刻印の聖女』! この竜の塔にいることが仕事です! 殿下こそ国王陛下や王妃様にお叱りを受けたのではないのですか!? どうしてお一人でここに……」

「もちろん、私を愛してやまない可愛いお前のことを、邪竜のもとから救い出すためだ!」


 はい! もう安心と信頼の自分に都合のいい解釈妄想で抜群の行動力を発揮なされたということですね!


「ヴォルティス様は私の聖魔法で[浄化]し、完全に正気に戻られました! 私はこれより魔力不足に陥った紫玉国の各地を巡り、救わねばなりません! 殿下に構っている時間はないのです! お帰りください!」

「ああ、ともに帰ろう! 寂しい思いをさせてすまなかったな!」

「ぐぬぅ」


 もう、どうしたらこれと会話が成立するんでしょうかねぇ!


「ご主人様、ここはベルに任せてラックで仕事へ向かってください。ご主人様がお帰りになるまでに、ベルがこの人を追い出しておきます」

「い、いいの? ベル。言っておくけど本当に大変よ、その人」

「大丈夫です。ベルは晶霊なので。必要とあらば……」

「……っ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る