要人の依頼

 何の為に他人の家の正月の様子などうかがわなければならないのだろう?

 これを知って本当に得をするのか? 要人のやる事はよく分からない。

 これをやるのも本当は……なのにやらないのはまだ離れの奴だからか――。

 俺だってここを離れているっていうのに……誰も言ってないのか? 信用問題が発生している? そこまで考え、春成は無になった。

 気配を悟らせてはいけない。隠れてじっと見る。

 正月の笑い声、正月の匂い。

 その雰囲気にやられる。

 俺はこんな事をしなくても良い人間なのに何故、諜報活動をしているのだろう。

 これはきっとそれに当たらないのだろうけど、それに似た事だ。

 要人の噓八百の自慢話のネタ作りの為の素材集め。

 情報屋として働いていれば良かったのか……いや、何でも屋の方が動きやすい。

 全てはこの国を動かす人の為……それが本来の藤川となった身の考え方。

 そして俺はそこに当てはまらないはずなのに当てはまっている。

 何故だ……。

 これくらいで良いだろうと春成はそこから上手く離れた。

 服は汚れても良いのに限る。

 目立つことなく、次の所に向かう。

 もしかしたら、こういう席で楽しくおさかなとして出て来るかもしれないってことか、大切な何かが……そう思わなければ楽しくならない。

 特に何もないまま、覗き見を終わらせ、報告に行くことにする。

 もう松の内は終わっている。

 情報がなくても構わない……それが先方の機嫌を損ねない唯一の言い掛かりができる所だった。

 四条しじょうの家も入ってるとは思わなかったが、あの家は大方予想通り静かにひっそりとしていた。きっと別宅か……あの家族と一緒だろう。

 溜め息を吐いても良いだろうと一回する。

 そして気を引き締め直し、事を全てを終えるとニコニコ顔となって春成は帰りの汽車に乗り込んだ。

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私が恋愛に至らない理由 縁乃ゆえ @yorinoyue

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