キミと一緒じゃなきゃダメなんだ

「キミとは一緒にいられないよ!」


 とあるアパートの一室で、誰かが怒っています。

 大きな声を出しているのは、電子レンジさんの中に置かれたターンテーブルくんでした。


「キミはまったく動かないのに、ボクばっかり、いっつもぐるぐる回されてる。不公平だ! これはもう労働格差だよ!」


 ガラス製の身体をガタガタとゆすり、今まで感じていた不満を洗いざらい口にします。


「こんなくたびれた箱の中で一生を過ごすなんてまっぴらだ。ボクは、ボクを必要としてくれるところに行くよ。キミなんて、新しいレンジと交換されちゃえ!」


 電子レンジさんが止めるのも聞かず、ターンテーブルくんはダイナミックに家を飛び出しました。


 その勢いのまま、隣の部屋に転がり込み、台所に立っていた女性に自分を売り込みます。


「お姉さん、ボクをお皿として使ってみて。透明だからオシャレだよ」


 一理あると丸めこまれた女性は、お昼ごはんのハンバーグを盛り付けてみました。最後にソースをとろりとかけます。


 じわじわ広がっていくソースが妙にくすぐったくて、ターンテーブルくんはゲラゲラと笑い転げました。

 おかげで白を基調したインテリアに、茶色いソースがまんべんなく飛び散ります。


 女性は怒り心頭。ターンテーブルくんは身の危険を感じ、窓ガラスをぶち破って一目散に逃げ出しました。


「ふぅ、危うくトンカチで粉々にされるところだった。よーし、今度はじょうずにアピールするぞ!」



 意気揚々と活躍の場を探すものの、何をやっても上手くいきません。

 レストランのトレイにも、自動車のハンドルにも、絵の具のパレットにもなれませんでした。


 ターンテーブルくんはとぼとぼと転がりながら、家電量販店へ向かいます。

 キッチンコーナーで仲間に相談してみると、ひとりがこう言いました。


 私達は自分だけじゃ何もできない。

 でもね、私達の代わりもいないんだよ。

 私達がいてこそ、電子レンジはその機能を充分に発揮できる。生活になくてはならない家電のパートナーなんだ。

 与えられた役割に、胸を張って生きていこう。


 ターンテーブルくんの心に光が差しました。

 急いで家に帰ると、電子レンジさんに頭を下げて謝ります。


「やっぱりボクは、キミと一緒じゃなきゃダメなんだ。また、あの頃の関係に戻れないかな……?」


 電子レンジさんは答えます。

 それはできない、と。


 悲しげな声の先には、べこべこに割れた横開きの扉が捨ててありました。

 ターンテーブルくんが出ていったときに、粉砕してしまったのです。


 そして電子レンジさんの置いてあった場所には、食材に合わせて五種類の加熱方法を自動的に判断してくれる、最新型のオーブンレンジが置いてありました。


「そっか……ボクたちはもう、料理を温めることができないんだね……。でも……それでも、ボクの居場所は、キミだけなんだ」


 機能を失った電子レンジたちは、粗大ごみとして処分されることを待つしかありませんでした。


 しかし家の人は、一向にゴミ捨て場へ持っていきません。

 電子レンジは家電リサイクル法の対象外で、処分にお金と手間がかかるため、放置していたのです。


 そのうち内部にプラモデルが置かれ、気づけばディスプレイケースとして利用されていました。

 テーブルを回すと、凛々しいロボットをあらゆる方向から鑑賞できます。


 料理を温めることはなくなりましたが、電子レンジさんとターンテーブルくんは、いつまでも一緒に暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし。


<終>

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