そして、君もいなくなった

御厨カイト

そして、君もいなくなった


「ねぇ、翔、もう朝だよ。起きて。」


「うーん……もう朝……?」


「そうもう朝。」


「でも、俺今日は講義はお昼からだよ?」


「可愛い彼女は今日は朝からなの。だからさ、ちゃんと見送ってよ。」


「えー、何それー。もう、仕方ないな。」


「そうやって、無茶なことを言っても、ちゃんと起きてくれるところ好きよ。」


「お、ホント?それは良かった。それじゃあ、その可愛い彼女さんのために朝ごはんの用意でもしてあげましょうかね。」


「うふふ、それはありがとう。じゃあ、私は朝ごはんが出来る間にチャチャッと大学に行く用意でもしましょうかね。」


そうして、俺たちは起きて、お互い別々のことをする。

俺がフライパンを傾けている間、凛は櫛で髪をとかす。


「よいしょっと、凛、出来たよ。」


「ちょっと待ってね。……よし、オッケー。ご飯作ってくれてありがとう、それじゃあ、頂きます。」


「はい、どうぞ。」


「……うん、美味しい。翔、料理の腕上がったんじゃないの?」


「ホント?それは嬉しいな。」


「うん、ホント。そろそろ私とも互角になってきたかな。」


「そこまで言ってもらえるようになって良かった。それだったら、今日の晩御飯も俺が作っちゃおうかな。」


「それは助かる。お願いするね。」


「オッケー。」


「……よし、ごちそうさまでした。」


「はい、お粗末様でした。あっ、洗い物は俺がしとくからね。」


「ホントありがとう。それじゃあ、行ってくるね。晩御飯楽しみにしてる。」


「あはは、楽しみにしてて。じゃあ、気を付けてね。」


「うん、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


そうして、俺は凛が行くのを見送って、玄関のドアを閉める。


よし、それじゃあ、これからお昼までまた寝ましょうかね……







********





「はぁー、ただいま。」


ガチャと言うドアが開く音と共に、凛のそんな声が寂しく響く。


「おかえり。今日もお疲れ様。」


「今日も凄く疲れたわ。もう大変だった。」


「ホント?それはご苦労様。晩御飯の用意しようか?」


「それじゃあ、ご飯にしましょうかね。」


凛は着ているスーツを脱ぎながら、俺の前を通る。

……今日は大分疲れているようだ。


そんな凛の後を追うようにキッチンに向かうと凛はもうキッチンに積み上げてあるカップ麺にお湯を入れ始めていた。


「あぁ、もう、またそういうものばかり食べて。ちゃんと栄養あるものを食べないと。」


「はぁ、いつもこんなモノ食べて。流石にそろそろ料理しないとな。」


「そうだよ。大変なのも分かるけど、流石にね。」


「それなら明日の帰りにでもスーパーに寄って行こうかな。」


「それはいいね。」


「……よし、ごちそうさま。ふぅ……、お風呂に入ろうかな。おっと、その前に……」


そう言って、凛は俺の写真が置かれている棚の前に座る。


「ただいま、翔。今日もお仕事頑張ってきたよ。」


「……」


そうだ、僕はもう死んでいるんだった。


「でも、疲れたな。やっぱり慣れない仕事はするもんじゃないね。」


「……ホント、お疲れ様。」


「……翔がまだ居てくれたらな。褒めて欲しい……、癒して欲しい……」


「大丈夫、凛なら大丈夫だよ。僕がいなくても……」


でも、この声すらも聞こえない……

悲しいし、虚しい……


「……よし、そろそろお風呂に入らないと。」


それでも、凛は自分で乗り越えようと努力をしているようだ。


それなら、俺もただ見守るだけ。



凛の小さいながらも大きくなろうとしている後ろ姿を見ながら、俺はそう考えるのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そして、君もいなくなった 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ