第13話 焔の古代竜

 城壁の前には門番がいる。それもこの間の襲撃により、人数が増加。警備体制は強化されているようだ。

 門一つにつき、三人いる。

 こちらは四人。まともに戦えば、不意を突ける俺たちが有利ではある。

 草場の陰から敵兵の様子をうかがう俺たち。

 俺には幻惑魔法がある。それでごまかすか。

 ハンドサインを出すアイシア。それをもとに俺は幻惑魔法を使う。

 Lvの上がった腕前見せてやる。無尽蔵の魔力で俺とアイシア、ソフィア、アイラは敵兵に化ける。

 そしてそのまま、敵兵のそばへ行く。

「どうだ? 変わりないか?」

 アイシアがそう訊ねると、敵兵は敬礼をし、かしこまる。

「はっ。異常ありません。ってお前らはどこの部隊だ。こんなところで油を――」

 敵兵は最後まで言葉を発することができなかった。

 アイシアが〝紅杖レッド・ワンド〟を振るい打撃で気絶させたのだ。

「なにをする――」

 二人目。

 槍を持った兵士に近づき、その強靱な握力で首の骨を折るアイラ。

 矢を放つソフィア。その先には三人目の兵士。

 胸を貫かれた兵士はその場で崩れ落ちる。

「こんなものかのう。じゃあ、行くぞい」

 俺は兵士に手を合わせると、城内に向かって歩き出す。

 城壁はいくつもあり、その都度門に兵士が詰めていた。

 幻惑魔法を使い近づき、俺たちは仕留めていった。

 まだ殺しになれたわけじゃない。

 できることなら殺したくはない。

 そう思いながらも彼女らの行動を肯定している自分がいる。

 戸惑いが生まれた。

 彼女らの行動は本当に正しいのか? と。

 俺はまだ分からないが、アイシアの言葉が正しいなら……。

 それに奴隷という揺るがない事実もある。

 例え、この世界では当たり前でも、奴隷という考えは俺には理解できなかった。

 これも平和な島国・日本で生まれた弊害とでも言うのだろうか。

 三つ目の門をクリアすると、アイシアはひどく疲れたような顔をする。

「しんどそうだな」

「当たり前じゃ。これだけ人をあやめてしまった。わしは……」

「考えるのはあとよ!」

 ソフィアの言葉に俺たちは前を見やる。

 そこには増援の兵士が見える。

 詠唱を始め、俺は氷柱針を敵兵士に打ち込む。

 凝結された氷の針は鉄板さえも貫く。

 兵士の肉体を貫きまだ止まらぬ威力を持つ魔法。

 地脈から生まれし、神のご加護。地母神の与えし恩恵。

 流々と流れる流脈のほんの一端。

 それを解放した俺はすでにバケモノなのかもしれない。

 魔法を使い、敵兵を倒していく。

 俺が殺している。ころしている。コロシテイル。

 崩壊しそうな理性を保つため、俺は叫びを上げる。

「落ち着きなさい! ジューイチ!」

 ソフィアが俺を羽交い締めにする。

「もう、終わったのよ」

 俺の前には積み上がった死体が残っている。その数二十はくだらないだろう。

 冷や汗がたれる。全身の毛が逆立つ。

「なんで。なんでこうなるんだよ!」

 俺は頭を抱えて、叫ぶ。

「なんであんたたちは――っ!」

 なんでそんなに殺さなくちゃいけないんだ。

「わしらは王を倒さなくちゃいけない。そうでなくては同じ事の繰り返しじゃ」

「知っておろう。お主も。あの奴隷たちを見たのじゃから」

 頭によぎる奴隷たちの顔。

 みな一様に不安そうな顔をしていた。肉親を失った彼女・彼らは売られていくのだ。

 一部の変態たちによって。あるいは労働力として。

 それはおかしなことだ。

 同じ人間であるはずなのに、なぜこうも格差が生まれる。なぜマイノリティが理不尽な目に遭う。

 俺にはこの社会のルールが気に食わない。

 気に食わないと言ったところで、妙案が浮かぶわけでもない。

 所詮、世界は搾取される側と、する側に分かれているのだ。

 弱い者が日の目を見ることはない。

 そんな世界に辟易していた。

 新しい世界ならば、ゼロからの活躍も期待できたのだろう。でも、それはできなかった。

 俺は搾取される側の人間だ。

 それを変えたい。

 変えて世界をすべての人間に祝福を与えたい。

 それを成し遂げるのだ。

 俺は、アイシアの言っている意味が初めて分かった気がする。

「俺は、アイシアを守る」

 理想の実現のため。

 俺の復讐のため。

 俺は前を向くことを選んだ。

 門をくぐり、城内へ侵入する。

「ここはどの辺りなんだ?」

 血判の地図ブラッディ・マップを広げ、場所を特定する。

「このまま右へ進むといいんじゃな」

「ああ。そうみたいだな」

「あは☆ 階段があるよ☆」

「そっちへは行ってダメですよ。アイラさん」

 みんなをまとめ上げながら歩いていくと、広いホールのようなところに出る。

 真ん中には卵のようなものがある。

 その卵にひびが入る。

 ホールの角からレーザーのようなものが卵に向かって掃射される。

 そうして暖められた卵は孵化を始める。

 卵からは小さな竜が生まれる。そして両翼を広げ、火を噴き出す。

「あれは……!?」

 焔の古代竜サラマンダーだ。

「さら、まんだー……」

 俺が口にすると、焔の古代竜サラマンダーは飛翔し、こちらに向かって焔のブレスを吐き出す。

「赤き盾よ。我を守り給え。第一階位・障壁ヴァント!」

 透明の障壁に守られ、俺たちは危機を脱する。

 だが、それも一時いっときの話。

 すぐに転進する焔の古代竜サラマンダー

「じゃが生まれたばかりじゃ!」

 紅杖レッド・ワンドを取り出すと、詠唱を始めるアイシア。

「水よ、地母神ちぼしんよ。流々りゅうりゅうたる水魔すいまの向こうから押し寄せたまえ。放て!」

 その隣で矢を放つソフィア。その矢は焔の古代竜サラマンダーの足首に刺さる。

水流弾すいりゅうだん!」

 俺も同時に氷柱針を放つ。

 とサラマンダーの全身に氷柱が突き刺さり、水圧で鱗が剥がれ落ちる。

「かわいそうだが、仕留める!」

 俺は再び氷柱針を詠唱し、発動する。

 押し寄せる水流弾と氷柱針に、咆哮する焔の古代竜サラマンダー

 再びを口を開く焔の古代竜サラマンダー

 吐かれた炎は、摂氏二千℃。

 アイシアのよく分からない盾がなければ、俺たちは床板のように溶けてガラスになっていたのかもしれない。

 焔の古代竜サラマンダーの後ろに回るアイラ。そして、そのまま格闘戦へともつれこむ。

 ブレスを吐くが、アイラは野生の勘か、その軌道を読み取り、回避している。

 一発の蹴りが、焔の古代竜サラマンダーに突き刺さり、肺腑を押しつぶす。

「まだまだ!」

 蹴りを入れた型のまま、こぶしを振り下ろすアイラ。

「さすがアイラじゃのう」

「これが人員補充を求めていた結果か」

 俺がアイシアの手腕に驚きの声を上げる。

 氷柱針の狙いを定めようとしているが、アイラがいるので攻撃ができない。

「一度下がれ! アイラ!」

 俺が叫ぶと、アイラはその場から離れる。

 次の瞬間、俺の氷柱針とアイシアの水流弾、ソフィアの矢が降り注ぐ。

 それをかわそうとする焔の古代竜サラマンダーだが、かわしきれない。

 やはりアイラの攻撃で堪えているらしい。

 連続発射は不可能だが、その間にアイラが攻撃を加えている。

 そもそもこの小さなホールで焔の古代竜サラマンダーを活躍させようと言うのが無理なのだ。

 翼を持ち、飛翔するのに、狭い部屋の中を飛ばすことしかできない。

 その炎も燃え広がるような資材もない。

 完全に焔の古代竜サラマンダーに不利である。

 次々に打ち込まれる魔法と肉弾戦、それに弓矢。

 それによりどんどんと弱っていく焔の古代竜サラマンダー

 疲弊していくのが分かり、地に落ちる。

「とどめは私が」

 そう言って剣を引き抜くソフィア。

 歩み寄り、焔の古代竜サラマンダーの頭を狙う。

 そこにはめ込まれた翠色の宝石がきらめく。

「これで終わりよ。サラマンダー」

 そう言い、頭を切り落とすソフィア。

「よくやったのう。ありがとうなのじゃ」

「アイラ、頑張った☆ 褒めて☆」

「よしよし」

 俺はアイラの頭を撫でる。嬉しそうに目を細めるアイラ。

 焔の古代竜サラマンダーか。

 こんなものを飼っている王族。どんな奴らだろうか?

 拳が震えている。

 怒りがこみ上げてくる。生まれたばかりの焔の古代竜サラマンダーを殺したのだ。気持ちに整理がつかない。俺は甘いのかもしれない。

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