第11話 訓練
翌朝。起きてみるとアイシアとソフィアが白い目でこちらを睨んでいた。
幼いアイラはしきりにすすり泣く。
「怖かったよ〜★」
いやお前、わざとだろ。
「こんな子供に恥辱を!」
「ハレンチな!」
アイシアとソフィアが怒りを露わにし、俺を糾弾してくるが、俺はアイラを助けただけだ。問題ない。
「いや怖かったのは雷だよな? アイラ!」
「うん。そうなの☆」
それを見た二人は振り上げた拳を引っ込め、
「調教済みなのじゃな!」
「洗脳か! 卑怯者め!」
アイシアとソフィアが怒りを込めて俺に拳をぶつけてくる。
痛い痛い。
死ぬほど痛い。
「これで終わりじゃ〜! サタンブロー!」
「や、やめてくれー!」
そう叫ぶと俺は天に召された。
△▲△
「あのう。どうしてあなたはここにいるのですか?」
久々に会ったノルンは美しい姿をしている。
「え。いや、アイシアとソフィアに殴られて、死んだ?」
「なんで疑問形なのですか……。しかし困りましたね」
「何がだ?」
ノルンは美しい髪をふぁさっとかきあげ、切り出す。
「蘇生はできるのですが……」
言いづらそうにしているノルン。
すると、ふわっと浮き上がる俺の身体。
「お。蘇生してくれたのか」
「たぶん、激痛を伴うかと……」
そう言い終え俺は本来の肉体へ戻る。
「いって――――っ!」
全身の、特に顔への痛みが尋常じゃない。
そうか傷跡までは完治していないのか。
「殺してしまいましたね。反省です」
ソフィアがしおらしく呟く。
「まさか本当に雷におびえていただけとは、のう」
アイシアとソフィアの誤解に終わって安心したが、まさか仲間に殺されるとは。
しかもアイラを助けただけで。
これは今後油断できないな。
身震いをしていると、俺はゆっくりと起き上がり、朝食をとる。
まだ朝飯前だったのだ。腹も減る。
「しかしアイザワは弱いな。少しは何か身につけたらどうだ?」
ソフィアが至極真っ当なことを言っている。
「それもそうだな……」
でも生まれてこの方、武道は習ったことがない。
父いわく暴力では何も解決しない。それが相沢家家訓だった。
だから体力に自信はないが、勉強は人並みにできる。
「何か頭を使うほうがいいな」
「いや、アイザワには武術が必要だ。剣術の一つでも覚えてみろ」
そう言って木剣を持ってくるソフィア。
「一緒に筋肉を育てよう!」
ソフィアがそう言い裏庭に出る。
初めて持つ木剣は意外と重く、振り回すのに体力がいる。
まずはソフィアの指示に従い素振りをする。
がこれが意外と疲れる。
十回を過ぎたあたりから疲労を感じ、俺は素振りできなくなる。
「なんたるざま。それでも漢か!」
さすが異世界。ふつーに男尊女卑のようなことを言う。
「男でも苦手なものもあるんだよ」
そう言って俺は木剣を落とす。
握力の限界が来たのだ。
「そんなに弱いのか……」
ソフィアが悲しそうに目を伏せる。
細身でもやしっ子な俺には向いていないことだ。
「これからは魔法を教えようぞ」
練習を見ていたアイシアはソフィアの肩に手を置き、代わるよう目配せをする。
「そう、ね……」
後目があるように交代するソフィア。
「森羅万象を司る者よ――」
ぼーっと立ち尽くす俺に、手を伸ばすアイシア。
「ほれ。お主も詠唱じゃ。覚えるんじゃぞ?」
「え。ああ」
そうか。魔法って言葉にしないといけないのか。
漫画やアニメでは無詠唱が当たり前だったからな。
「森羅万象を司る者よ、我に導きの灯火を与え給え」
「森羅万象を、司る者よ、我に導き、の灯火を、与え給え」
「
「氷柱針!!」
詠唱を終えると眼の前に氷柱に似た針がいくつも顕現し、弓を引いたように発射される。
俺のは一本に対し、アイシアは数十本の針が現れている。
そのすべてが森の中に消えていく。
「どうじゃ。頭を使うのが得意なお主ならできるじゃろ?」
「あ、ああ……! やってやるさ!」
再び詠唱を始め、森に向かって放つ。
それを繰り返しているとアイシアが不思議そうに呟く。
「お主、魔力が尽きないのかのう?」
「え。どういうことだ?」
「普通は十回もすれば尽きるものじゃぞ?」
俺はとっくに三十回を超えている。
不思議に思った俺はステータスを呼び戻す。
そこには【無尽蔵】というスキルがあった。
そういえば今朝殺されたんだ。
【無尽蔵】をタップしてみると【魔力が無尽蔵になる】とある。
「いっやった――――っ!」
初めてチート級の能力を得たのだ! テンションも上がるというもの。
「ほう、なら高難易度の魔法も教えるかのう」
「おうさ! 教えてくれ!」
俺は考えなしに叫んでいた。
「水よ、
アイシアの詠唱のあと、俺も唱えるが指先からチョロチョロと水が流れていく。
「……実践には使えんのう」
「さっきの氷柱針の方がいいんじゃないか? 数も増えていたし」
「そうじゃのう。しばらくはそれでいいじゃろう」
アイシアもコクコクと頷き、寂しい顔をする。
「今夜のパーティにはそれくらいでいいじゃろうて」
「ねぇねぇ。みんなでなにしているの?」
横合いからアイラが疑問をぶつけてくる。
「みんなでジューイチの強化祭りをしていたところじゃ」
「おい、余計なことを言うな!」
「へぇ〜、じゃあアイラの身体能力を真似てみるの☆」
そう言ってフェネック娘は木から木へと飛び移ってみせる。
「やってみせろよ! ジューイチ」
「なんとでもなるはずだ!」
「ダムガンだと!」
いやいや、何の話だよ。せめて隠す素振りをみせろよ!
俺が首を傾げていると、アイラが不思議そうに呟く。
「こんなこともできないなんて、おこちゃまだね☆」
「いやいや、雷でビビっていたやつに言われたくないね!」
「むむむ!」
「何をー!」
アイラと俺がいがみ合っていると間に身体を滑り込ませるアイシア。
「ほらほら喧嘩しないのじゃ。アイラよ、その身体能力は生まれ持ったものじゃ。そう見せびらかすものではない」
諭すように呟くアイシア。
「そしてジューイチよ。雷が怖いのは大人も子供も関係ない。実際火事にあった家もある。もっと危機感をもて」
「はーい」「……分かったよ」
間延びした声音のアイラに、俺も続いて謝る。
アイラと仲直りしたあと、俺はアイラの攻撃を盾で受け止める練習をした。
これで反射神経を試しているとか。
それはそこまで抵抗がなかったけど、でもやっぱり平和な日本で育ったせいか、そんなに良くなかった。
「ジューイチ、遅いよ☆」
アイラがぶすっとした顔で白い目を向けてくる。
「いや、俺だって分かっているんだがな。でも反応できないんだよ」
俺はアスリートじゃない。できることには限界がある。
それを分かって欲しいが、この異世界では通用しないのだろう。
身一つで異世界へ行け。
よくよく考えれば、馬鹿げた話だ。
なんの訓練も受けていない一般人が突如異世界へ放り込まれる。
こんなことはありえない。
今度、ノルンと出会ったら文句をぶつけてやる。
……いや死にたくないけどね。
俺はもう死にたくないだよ。死ぬほど痛いからな。
「しかし、魔力が無尽蔵に出るのは利点じゃのう」
アイシアが俺を諭すように言う。
「ああ。氷柱針を練習して今夜使うぞ」
「ほほほ。楽しみじゃのう、今夜は
いひひひと笑うアイシア。
「もう。アイラとは遊ばないの?」
「ああ。遊んでいる暇はない」
「アイラ殿、少しは気を遣ってあげなさい」
ソフィアがアイラをあやすように呟く。
そしてアイラの頭を撫でるソフィア。
少し気が紛れたのか、アイラは大人しくなる。
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