第9話 時は流れる


 数ヶ月後、ゴミの島が変わった。、

ハンスがゴミ拾いのラットたちを集団にし、拾う係りと運ぶ係を認識させて分担運搬させる。

一部の働ける奴だけではなく、子供と大人と老人と家族などを一つのグループで形成し、ラットたちが集団で動いて作業させることにした。

 やってることはポポロと同じだがハンスたちのやり方は、ゲートで数名集まってから、中に入っていくダンジョンパーテー方式でゴミ島に入っていく。

パーティーのメンバーの名前を帳面につけるので、戻った時に拾った物を預かり、それも帳面に就ける。

 ハンスは集めたものを金と交換、そして貰った金を配るときには、帳面につけた名前とグループで配分される。

 ゆえに老人でも子供でもグループに参加しているので分配され、少額であっても誰もが金を手にすることができるようになった。

弱いものは喜ぶ。誰もがハンスたちグループに協力した。

それによって、切り捨てられるラットは減り、互いに顔みしりになったことで、盗難や横取り、抜け駆けが止まった。ラットたちに秩序が出来たのである。


 それを可能にしたのはやはり暴力だった。

ゴミ島ゲートから続くゴミ島の一角は、ハンスたちはグループを結成。反発する奴らを力によって抑えた。

ハンスとその仲間のミチルやモリオたちは、統一の黒いシャツと黒のキャップのカラーギャング団を結成し、ハンスたちに従わないで、拾うエリアに横から入ってきたり、拾ったものを力づくで盗むやつを容赦なく叩く。

 秩序は暴力によって守られた。

すると若くて働ける男たちは、ハンスのグループに参加しグループは大きくなっていく。


 スラム街の広場。ハンスはスラム街入り口にチコの車がくると近寄り帽子を脱いでお辞儀する。

車に乗るチコに貴金属や仏像などの高級そうな物を渡すと、金が貰える。

それらの金も、当然手数料は取るが、拾ったグループに配分した。

「うまくやっているようだなハンス」

「チコさんのおかげです。それで、これ」

 エメラルドのイヤリングの片方を出す。

「ヴォレオー財閥の奴か?」

「多分そうです」

「鑑定する。あとで店に取りに来い」

「分かりました」

 すると外にいるボディーガードが、50センチ四方の重い木箱をハンスの前に置く。

「頼んでいたものだ。せいぜい頑張れ」

 チコが車で去ると、ミチルたちが来る。そして重い木箱を広場の外に運び、家陰で開ける。箱の中身は、銃と弾薬がギッチリ詰まっている。

「やったぜ!」

 ミチルやモリオが掴み、喜ぶ。

「引き金に指を入れるな。安全装置を外すな。銃口を下に向けろ」

 ハンス、喜びはしゃぐ奴を、殴る。

そして、まだ持ってないやつに、静かに丁寧に渡す。

「これは単なる武器や玩具じゃない。これがおまえたちの希望の星だ」

 ハンスも、銃弾が満タンに装てんされたマガジンをいくつか掴みと、ポケットにしまう。



 武器を手にしたハンスたちは、町へ向かって進出していく。

スラム街はもちろん、そのスラム街から続く、繁華街への道を黒づくめの服装のハンスの仲間が根を張っていく。

 エリアを作り、横取りや盗難を見張る。他のグループの奴らがきて、もめたりするが、ハンスたちは銃の威力を見せつけ、威嚇して突き返す。

着実にスラムを掌握していくハンスたちグループ。




 そして4年後

街の大型店舗のスーパーマーケットの倉庫の前に現れる集団。鍵を壊し、中に入るハンス(16)たちのグループだった。

倉庫前にトラックを呼び込み、そのトラックに倉庫にある在庫のTVや洗濯機、電子レンジなどの家電製品を運び込む。

当然店側のモニターカメラがあるが、ハンス、カメラを銃で撃ち抜き、構わず搬出作業する。

しばらくするとパトカーのサイレンが遠くから聞こえてくる。

ハンスは、盗みを止めて、トラックを出発させる。

そしてハンスは、証拠品などが落ちてないか最終確認をすると、オートバイにまたがり去る。


 翌日、街にいるパトカーが駐車している場所に来て、乗っている警官に挨拶するハンス。

ハンス、にこやかに話をしていると、仲間が最新の家電掃除機などの入った箱をパトカーの後部座席やトランクに積み込む。

ハンス、談笑しながら運転席にいる警官に、タバコの箱3〜4箱を渡す。

その警官が箱を開くと箱の中には金が詰まっている。

「わかってるねハンス」

ハイタッチで挨拶するハンスと警官。


「今日も無事に一日が終わった」

銃のグリップの星を見て、銃をしまう。

ハンス、バイクに跨る。バイクはモトクロスタイプで細身。スズキ製で黄色い色をしている。座高が少し高く、ハンドルを両脇切り落として短くし、ミラー小さいもの変えて車の渋滞のすり抜けがしやすく少し改造してある。

 ハンス、エンジンをかけて街中を流す。鮮やかに車を縫って走り、街中を疾走する。流して走り、なんとなくスラムに向かう。

そしてスラム街に行き広場にバイクを止めると久しぶりにスラムの中に入ってみる。

みんなハンスを見るとお辞儀する。「俺も有名になったもんだ」と思うハンス。


 夕方、日が暮れようとしている。ハンス、空を見る。スラムの空にチラホラと星が出始めている。

「・・・・星に願いか」

自分の銃を出し、グリップに彫られた「星」を見る。そして夕焼けの中を歩いて、エレナの家にいってみる。


 昔のエレナの家は、もうパレモもヨナもいなくなり、別の人間が住んでいる。そこの住人が家から出てきて、立っているハンスに挨拶する。

「ハンスさん。何か?」

「いやなんでもない。」

 家の前に5歳くらいの少年が座っているのを見つけ、ポケットから飴を出し上げるハンス。

「ありがとう」

お礼を言われ、頭を撫でる。そして去っていくハンス。




 大学付属の女子学校の校内の車止めにジュリアが車を停めた。

助手席からエレナ(4年後14歳)が降りてくる。子供から少女になり、綺麗な顔だちである。

「大きなところね」

「私の母校よ」

「私、こんな大きな学校に行くの?大丈夫?」

「もうあなたは昔のエレナじゃない、公立学校では成績がトップのエレナになったの。教育はもっといいものを手に入れるべき」

「そうね。まずはやってみましょ」

おしゃまな言葉をいうエレナに、微笑むジュリア。


 校長室で迎える女性・校長エリザベスと厳つい顔の教頭先生ダコス。

ジュリアとエレナを招き入れて握手をする。

にこやかな校長エリザベスはエレナの肩に手を置き、信愛の態度で

「よく来たわねエレナ。楽しい学校生活をエンジョイしてね」

語りかける。


 しかし編入した2年生教室では、早くも洗礼を受けるエレナ。

紹介されたエレナは、指示された後方に席に向かって歩いていくと、途中で誰かが足を引っ掛けられ、転倒する。

「ラットがうちの学校になんのよう?」

 誰が言っているかわからないが、エレナに悪意のある言葉を浴びせる。

クラスにはエレナの過去がもう知れ渡っていた。

「スラム育ち」「ゴミを食べて人気者になった」「保護隔離生活をしている」等など、それらは名門学校の淑女学校であるここのには合わないと考えており、エレナを追い出してしまいたいと思っているのだった。


 初日であっても容赦なかった。

教室から理科の実験室教室に移動中には、クラスでお金持ち3人娘のグループがエレナを後ろに来て、階段に来ると背中を蹴って突き飛ばして落とされた。

いじめが開始されたのだった。





 ジュリアは、エレナと一緒に暮らすため、家事ができるようにテレビ局をやめ、現在はアナウンスの専門学校の講師となっていた。ゆえに自分で車を運転して家事をこなしている。

 マンションに車で帰宅すると、古くなってきたマンションでは、テレビカメラ監視の故障とか老朽化の障害が起き始めている。今日は非接触カードの誤動作するので、

「また動かない。いい加減にしてよ」

指で暗唱番号を打ち込んで入る。

「どうなっているの?セキュリティは?」

セキュリテールームに連絡して、直すようにいい、エントランスからエレベーターに乗る。

 エレナを迎えに行こうかと思っていたが、初日なので時間が読めず、終わったらタクシーで帰るように指示していたが、早く終わったようで、エレナはもう家にいた。

「ただいま」

キッチンに行くと、料理を作っているエレナ。

「おかえりジャリア」

ジュリア、料理を見て、「おいしそう」と褒める。しかしその料理するエレナの手になぜか絆創膏が張ってあり、気が付いて掴んでみると、手首に包帯まで巻いていることが分かった。

「どうしたの?」

 顔を見ると頬と顎に擦り傷まである。

「転んで階段から落ちた」

ジュリア、エレナの傷を触り、不自然さを感じる。

「正面から落ちたの?そんな落ち方する?」

「ちょっと考え事していて」

 ジュリア、気がつき、エレナの顔を見つめる。

「・・・いじめね。いじめでしょ」

 カバンから電話を出し、かけ始めるジュリア。

「どうするの?」

「学校に忠告するわ」

「ジュリア、こんなの平気。今は勉強できるのが嬉しいの。言わないで」

「でも怪我させられているのよ・・・」

「まだ大丈夫よ。こんな傷、何度もやられてる」

 必死なエレナに、ため息をついて従うジュリア。

「・・・そうね。今までもエレナは負けなかったね。でもあの学校は私立で、前にいた公立とは比べ物にならない位、相手からのマウントの取り合いは激しくなるわ。これから、もっとキツくつらい日々が続くかも知れないよ」

「大丈夫。私はいつも気にしないから」

 微笑みのエレナ。それに答え微笑むジュリア。

「・・・困ったら言ってね」

「はい」


 しかし学校ではいじめは、やはりエスカレートしていく。

真面目に勉強するエレナだが、エレナに話しかけるものおらず、いつも一人でいる。

 ある時はエレナが廊下のロッカー開くと、鶏が出てくる。

そして教科書にいたずら書きがされていて、読めなくなって部分もたくさんある。

 ある時にはチャイムがなり、次の教科書を出そうと机を開くと、ネズミの死体が入っていた時もあった。

 そんな時、歴史の授業にてテストが行われ、採点されたものを返却する歴史の時間に問題が起こった。


 テストの返却は順番に名前を呼び、教師から歴史テストを返されていく。

しかしエレナの名前が呼ばれず、用紙の返却がされない。

「・・・?」

 歴史教師は、エレナを睨みつけると、きつい口調で授業をストップし

「エレナ、職員室にきなさい」

と言い渡す。

 見ると教師の後ろで、例のいじめグループの3人が笑ってみつめている。



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