VR通夜

#365日ショートショート 097

　高校時代の友人が亡くなったと、メッセージが届いた。もちろん、接続コードも載っている。

「通夜は今晩の17時半から、か……」

　日時を確認した男は、退勤後、駅のそばのカフェに立ち寄った。

「ホットコーヒーをひとつ」

　注文をしながら、スマートフォンを店のWi-Fiに接続する。時計を確認すると、17時半をまわっていた。

「よし、行くか」

　男は鞄からプラスチック製の小さな箱を取り出した。カパッ、カパッ、と折りたたまれた状態から開かれたそれは、あっという間にVRゴーグルとなり、男の目を覆った。側面の起動ボタンを押すと、スマートフォンと自動で接続。現れた画面に接続コードを入力する。

【　故　田中伸実　儀　葬儀式場　（有）スマートVRコネクト　】

　3DCGで再現された葬儀場は、厳かな雰囲気だった。サラウンドで、遠くから鼻をすする音が聞こえてくる。スマートフォンをリモコン代わりに操作し、歩行を開始。音声入力で受付を済ませる。

「ご香典　は　ございますか　？」

　整った笑顔の受付スタッフに尋ねられると、画面右下に支払選択画面がポップアップする。あらかじめ登録してあるクレジットカードを選び、セキュリティコードを入力。即時、3,000円が送金された。

「それでは　こちら　に　どうぞ」

　促されるまま列に並び、棺に近づいていく。カタッ。テーブルに何かか置かれた音がした。ならばと、男はスマートフォンの画面で『リモート（自動で焼香する）』をタップする。淀みない動きで焼香が行われた。親族への一礼を済ませ、退場する。

「ふう……」

　男はVRゴーグルを外した。ホットコーヒーは、まだ温かかった。