第52話:変節のエルフ族
王歴327年6月12日:南大魔境・キャット族新村・クリスティアン視点
「どうか、どうか、どうか今までの言動を許してください。
この通りです、私の無礼な言動は私の命で許してください。
私の命と引き換えに、他のエルフをこの村にいさせてやってください。
お願いします、この通りです、お願いします!」
俺は夢でも見ているのだろうか?
あれほど高慢だったエルフが俺に土下座をしている。
それも、俺だけがいるのではなく、大勢のキャット族がいる前でだぞ!
いや、そもそもなぜこの世界に土下座の習慣がある?
「婿殿、本気で反省しているようなので、許してやってもいいのではありませんか」
昨日エルフ族に厳しい処分をしろと言っていたグレタが、今日は手のひらを返したように許してやれと言う。
それにしても、まぐ娘の夫に婿殿呼びは正しいのか?
「許した方がいいという理由はなんだ?」
「プライドが高いと評判のエルフ族が200人もそろって土下座をしたのです。
それだけの評価を利用しない手はありません」
副村長としての意見はそうだろうが、他の意見も聞いておかなければならない。
「ラウラも同じ考えか、嫁として答えてくれ」
「はい、私の好き嫌いの感情よりもクリスティアン殿の評判が大切です」
「イングリート、タイガー族としてどう思う?」
「タイガー族としては強い事が1番大切だ。
エルフ族がクリスティアンを最強だと認めるなら許してやるべきだ」
「分かった、グレタとラウラだけでなく、イングリートも許した方がいいと言うのなら、エルフ族を許す事にしよう」
「ありがとうございます、クリスティアン様の寛大な処分に心から感謝します。
感謝の気持ちを表すために、エルフ族からクリスティアン様に妻を送らせていただきますので、よしなにお願いいたします」
「身勝手な事を言うな、マルガレーテ!
自分の失態をごまかす為に同族をいけにえにするとは何事だ!」
「いえ、同族をいけにえにするわけではありません!
クリスティアン様の絶大な魔力と魔術を見て、クリスティアン様の子種を頂いて優秀な子供を産みたいと願うエルフ族がいるのです。
私自身、クリスティアン様に無礼を働いていなければ子種が欲しいくらいですが、さすがにその様な身勝手な事を言えないだけです」
「……とても信じられないのだが」
「女なら先生の子種が欲しいと思うのは当然です」
超絶美少女と猫をいい意味で合体させたようなケルスティンに言われるととまどうが、ケルスティンも立派な大人で俺の妻なんだよなぁ。
「キャット族だけでなくエルフ族も優秀な男の子供が欲しいと言うのか?
あれほど他種族をバカにしていたのだぞ。
それに、エルフ族として生まれてくればいいか、ホモサピエンスに生まれてきたらどうするのだ?」
「その事は真剣に考えましたが、以前のように殺すような事はしません。
そんな事をしたらクリスティアン様を怒らせてしまいますから」
「あたりまえだ!
そんな事は絶対にさせないし、やろうとしたエルフはぶち殺す。
残された子供は俺が立派に育ててみせる!」
「クリスティアン様が引き取ってくださるのなら、ホモサピエンスとして生まれてきた子供も成人するまで育てます。
その代わりと言っては何ですが、エルフ族の子供が生まれるまで子種を下さい」
「早い話が、エルフ族を存続させるための子種が欲しいと言う事か?」
「お詫びの気持ちが1番ですが、エルフ族を存続させたい気持ちがまったくないとは言いません」
ウソをつけウソを!
滅亡寸前のエルフ族は、絶大な力を持ち子供が成人するまで支援をする男、後ろ盾になる男を確保したいのだろうが!
「色々言いたい事はあるが、マルガレーテがエルフ族の事を考えている事は認める。
だが、自分ではなく他人を犠牲にする事は許されない。
エルフ族が心から俺の子供が欲しいと言うのなら、まず自分からやれ」
マルガレーテがウソをついていないか、エルフ族が本当に俺の子供を産みたいと思っているのか試してやる。
ケルスティンたちが俺に魅力があると言ってくれても、イングリートたちが新嫁として嫁いで来てくれても、信じきれないのだよなぁ。
「分かりました、まだ妊娠できる時期ではありませんが、最初に私が妻にならせていただきます」
おい、おい、おい、ここまで手のひら返しで態度が変えられるのか?
あれほどホモサピエンスを毛嫌いして俺の事を下に見ていたくせに。
「そうは言われても、俺には50人以上のキャット族の妻がいて、愛し合うのに順番待ちができている。
それどころか、新しく妻になりたいと言う女性が順番待ちしている。
妊娠した妻が結婚を希望している同じ部族の女性に妻の座を譲る事になっている。
今申し込まれてもエルフ族との結婚はかなり後になるぞ」
「そうですわね、順番を待ってもらわないとキャット族の女が納得しません。
それに、旦那様は毎日十人以上の妻と愛を交わしていますの。
旦那様の妻になりたいのなら、キャット族の女と一緒に愛を交わして頂く事になりますけれど、できますの?」
ピューマ族のレーオニーが嫌われ役を買って出て、普段は使わない嫌味な言葉でマルガレーテが受け入れられない条件を口にしてくれる、ありがたいことだ。
「やらせてもらいます。
クリスティアン様の子種をいただけるのなら、キャット族の方々と一緒に愛を交わさせていただきます」
あれほど高慢なプライドを振りかざしていたエルフがここまで言うのか?!
キャット族を前にしてここまで言う覚悟をしているのなら、俺もそれに対する覚悟を示さないといけない。
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