第38話:ホモカウ族
王歴327年3月16日:南大魔境のゴブリン族村の外・クリスティアン視点
「ホモカウ族だぞ、ホモカウ族の旅商人だぞ」
「襲え、皆殺しにしてしまえ」
「塩だ、塩があればオークをもっと美味しく喰えるぞ」
「オークよりもホモカウの方が美味いぞ」
「生きたまま手足を食い千切ってやれ」
「「「「「ギャハハハハ」」」」」
ヒュージゴブリンに変化してゴブリン村を攻撃する時を待っていた俺の耳に、ホモカウ族を見つけたというゴブリンの言葉が入ってきた。
元の姿に戻った時には記憶を失ってしまうが、変化している間もちゃんと意識を保って行動する事ができる。
「やめろ、ホモカウ族を襲う事は絶対に許さない。
ゴブリン族の繁栄のためにはホモカウ族と連携がとても大切だ
このような愚かな決定をした奴を殺して俺がボスになる」
元々は鳥に変化してゴブリン村の様子をみてから攻撃するか逃げるかを決めるはずだったのに、ホモカウ族が最悪のタイミングで現れてしまった。
他の何を後回しにしてでもホモカウ族を助けなければいけない。
「バカが、キング様の命令に逆らうなんて愚かすぎるぞ。
ヒュージであろうと許される事ではない」
100人の指揮官であろうビッグゴブリンが俺をののしるが、知った事ではない。
俺が戦っている間にホモカウ族が逃げてくれればいい。
「じゃかましいわ、キングだろうが関係ない。
ゴブリン族を滅ぼすような命令をくだす奴に従えるか!」
それにしても、敵はロードだと思っていたのに、事もあろうとキングかよ。
ロードでも勝てるかどうか分からなかったのに、キングが相手だと絶対に勝てないぞ、どうする?
「やれ、殺してしまえ!
お前は村にいるロードに、ヒュージが謀叛したと伝えてこい」
「行かせるかよ!」
俺は左手に持っていたこん棒を投げつけて、報告に行こうとした奴を殺した。
左手でこん棒を投げつけた直ぐ後に、右手に持ったこん棒を振り回してビックゴブリンとその配下をぶち殺した。
「逃げろ、直ぐに逃げるのだ、ホモカウ族」
グレタから聞いていた通り、ホモカウ族は人の上半身と四つ足の牛の下半身を持つ獣人で、自ら重い車を引いて交易品を運んでいる。
気の好い性格だとは聞いているが、手足の太さと筋肉の盛り上がりを考えると、戦うととても強いと思われる。
「逃がすな、絶対にホモカウ族を逃がすな」
俺がぶち殺したビッグゴブリンたちの左右を護る、他のビッグゴブリンたちが駆けつけてきたが、たった200人程度のゴブリンに負ける俺ではない。
ヒュージゴブリンの強さはビッグゴブリンとは比較にならないのだ。
「ヒュージ殿、このご恩は忘れない。
ヒュージ殿が村を築かれる時には必ず支援させてもらいますぞ」
とても危険な大魔境に踏み入ってくるだけあって、旅商人と言ってもホモカウ族の人数はとても多い。
ヒュージゴブリンの視力で見える数だけでも1000人は下らない。
これだけの戦力があるから百戦錬磨の種族と交易できるのだな。
「逃がすな、絶対に逃がすな、逃がしたら俺達まで殺されるぞ!」
「ロードに知らせろ、急いでロードに知らせるのだ」
「広がれ、広がって裏切りの者をほんろうするのだ」
ゴブリン村の周囲を警戒していた連中が次々と集まってきやがった。
困った事に左右の両方から集まってきたから、徐々に1度に相手できなくなる。
左右どちらかに向かうと、もう一方がホモカウ族を追撃してしまう。
ここは命をかけるしかないようだ。
「ワッハッハッハッハッ。
お前たちが逃げだしている間に、ロードとキングを殺して俺がボスになる。
俺が殺されたとしても、お前たちは逃げた憶病者として処刑されるな」
「追いかけろ、ヒュージを村に入れるな、村に入れたら俺たちが殺されるぞ」
思っていた通り、ビッグゴブリン程度だと頭が悪い。
俺の簡単な挑発に乗ってホモカウ族を追いかけるのを止めてくれた。
このままゴブリン村に入れば命がけで追いかけてくるだろう。
「ワッハッハッハッハッ。
お前らごときに追いつかれる俺様じゃね」
「ギャッフ、グッハ、ゴグフ、グッガ、ギャボッフ」
ヒュージゴブリンである俺が全力でこん棒を振り回したら、普通種のゴブリンなど簡単に叩き殺す事ができる。
それはホブゴブリンも同じで、2度3度とこん棒を叩きつけなければいけないのは、1つ格下のビッグゴブリンだけだ。
「どけ、どけ、どけ、どけ」
キャット族の村と同じように、丸太を立てて村の護りにしている。
これもキャット族村と同じように、木造の門があり中に見張り台がある。
この程度の防壁なら、ヒュージゴブリンのままでも飛び越える事ができる。
「ワッハッハッハッハッ。
これでお前たちの死刑が決まったな、愚か者どもが」
俺は思いっきりジャンプして防壁を飛び越えた。
後は村の中で大暴れしてホモカウ族が逃げる時間を稼げばいい。
ある程度時間を稼いだら、無理に戦わずに鳥に変化して逃げればいい。
「ギャッフ、グッハ、ゴグフ、グッガ、ギャボッフ」
できるだけ弱い普通種のゴブリンを相手にするのだ。
もう強い相手と戦わなければいけない理由などない。
「よくもキング様を裏切ったな、ヒュージ」
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