第33話:オーク族巡回隊との交渉
王歴327年3月11日:南大魔境のオーク族との境界線・クリスティアン視点
部族長会議では激しい論戦が行われると思っていた。
キャット族の命運、自分たちの部族の将来がかかっているのだ。
我欲が表に出て当然だと思ったのだが……
「なんでみんな俺の言う通りにするのだ、グレタ」
「……それ、本気で聞いているの、クリスティアン」
「当たり前だろ、よそ者の、それもホモサピエンスの言う事だぞ。
反発するのが普通だろう?」
「今キャット族の村で1番戦闘力があるのはクリスティアンよ。
治癒魔術を使えるのも、体力回復薬を作れるのもクリスティアンだけ。
キャット族を滅ぼすようなおかしな提案ならともかく、キャット族を護るための真っ当な提案に反対して、クリスティアンに村を出て行かれたら元も子もないわ」
「……哀しい話しだが、キャット族の方がホモサピエンスよりもまともだな」
「当然でしょう、こんな過酷な大魔境で生きているのだから、見栄なんか張っていたらあっという間に滅んでしまうわよ」
「おっと、オーク族の巡回隊が来たようだぞ。
オオオオイ、交渉だ、交渉の為の特使だ、襲わないでくれ」
さて、昨日まで殺し合っていたキャット族の言う事を聞いてくれるだろうか?
★★★★★★
「ロードが生まれたかもしれないゴブリン族に対抗するために、同盟を組みたいと言うのがキャット族の言い分なのだな」
「ああ、そうだ、我々キャット族だけでなく、オーク族やドッグ族にとっても大問題だと思うのだが、違うのか?」
「ロードが生まれようと、我らオーク族の相手ではない。
オーク族ならば、キャット族やドッグ族を同時に相手していようと、ゴブリンのロードなど恐れはしない。
それに、そもそも交渉に来たお前がキャット族ではなくホモサピエンスだ。
ホモサピエンスの言う事など信用できない」
「信用できないと言いながら、昨日まで殺し合っていた相手の話は聞いてくれるのだな、哀しい話しだが、俺たちホモサピエンスよりも理性的だな」
「ふん、ホモサピエンスなどオーク族の足元にも及ばない劣った部族だ。
……誇り高いキャット族がホモサピエンスを交渉によこした事が信じられない」
俺と交渉していたオーク族巡回隊の隊長、ビッグオークが批判するようにグレタの方に視線を向けた。
「ホモサピエンスの中にも信じられる漢がいると分かったのだ。
これはキャット族の村長の言葉でもあれば、私、リンクス族の族長グレタの言葉だと思ってくれ」
「グレタ殿がそこまで言うのなら、このホモサピエンスを交渉の相手だと認めるが、我らオーク族の返事は変わらない。
交渉中は掟に従って休戦するが、同盟が結ばれる事はないだろう」
「隊長の言っている事は理解したが、オーク族の族長にこちらの言葉を伝えてくれるのだろうな?」
「ふん、心配するな、ホモサピエンス。
オーク族は誇り高い種族なのだ。
同盟の申し入れや休戦の申し入れを勝手に握り潰したりはしない」
「では、本気で同盟を結びたい証である、ゴブリン族の死体1000は受け取ってもらえるのか?」
「同盟を結ぶ可能性が少ないのに、貢物を受け取るわけにはいかない。
キャット族は食糧不足で困っているのだろう。
ゴブリン族の死体はキャット族が食べればいい」
「隊長が村長や族長に同盟の話をしてくれるのなら、ゴブリンの死体は干肉にして保存しておくから、同盟する気になったらいつでも言ってくれ」
「ふん、そんな事には絶対にならないと思うが、一応村長には伝えておく」
「では、今日会ったこの場を基準にして休戦を結ぶのでいいな、隊長」
「ああ、掟にしたがってこの場を基準に休戦とする、ホモサピエンス」
さて、何とか最低限の休戦条約は結ぶ事ができた。
問題はこの状態をどれくらい続ける事ができるかだ。
同時に、キャット族の基準ではとても不味いゴブリンの死体をどうするかだ。
……今後の事を考えると、俺も覚悟を決めなければいけない。
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