第32話:ゴブリン狩り

王歴327年3月10日:南大魔境のキャット族村の外側・クリスティアン視点


「こいつは他のゴブリンに比べてとても大きいが、進化種なのか?」


 この世界の文献で読んだ事はあるし、前世のラノベやアニメでの知識はあるのだが、思い込みで失敗するわけにはいかないので、グレタの確認しておく。


「そうよ、普通種と比べて大きくてバカそうなのがホブゴブリンよ」


「じゃあこっちに斃れているホブゴブリンより大きいのがビッグゴブリンか?」


「そうよ、ホブゴブリンよりも強くて危険なのがビッグゴブリンよ」


「だったら向こうに斃れている妙に着飾ったゴブリンはなんだ」


「杖を持っているからシャーマンゴブリンでしょうね。

 ホブゴブリンからビッグゴブリンに進化する奴の中には、魔術が使えるシャーマンゴブリンになる奴もいるわ」


「それは厄介だな。

 俺もレッドボアの変化している時に魔術攻撃を受けたのか?」


「いいえ、私たちが遠矢を射かけていたから、呪文に集中できなかったようよ」


「そうか、それは助かったよ、ありがとう」


「いいえ、そうお礼を言われると、正直申し訳ないわ。

 私たちに魔術が使えれば、もっと支援する事ができのだけれど……」


「スキルに魔術がなくて身体が強化されるだけなのは、キャット族の特性なのだからしかたがないさ。

 それよりも、他にも普通種と違うゴブリンがいるようだから、全部説明してくれ」


「そうね、できない事をグダグダいうよりも、できる事をしなくちゃね。

 そこに斃れているのは回復呪文が使えるようになったプリーストゴブリンよ。

 あそこに斃れているのが戦闘に特化した分バカになった、ビックゴブリン級のファイターゴブリンよ」


「確かに、死に顔がビッグゴブリンよりもバカそうだ」


「ああ、言い忘れていたけれど、プリーストゴブリンとシャーマンゴブリンもビッグゴブリン級よ」


「分かった、覚えておく」


「そして1番問題なのが、ここに斃れているヒュージゴブリンよ。

 こいつは1000人規模の村にしか生まれてこない進化種なの。

 魔境には多くのゴブリンが住んでいて、村なんて数えきれないくらいあるけれど、ヒュージゴブリン以上の進化種が治める村なんてめったに聞かないわ」


「グレタはゴブリン村の長がヒュージゴブリン以上だと思っているのだな」


「普通遠征に1番強い族長が指揮を執る事はないの。

 村に住むゴブリンが増え過ぎて食料の確保ができなくなったら、村で2番目に強い者が若い者たちを引き連れて遠征に出るの。

 遠征の者たちが新たな地で村を築ければよし、負けて全滅してもよし。

 同じ種族同士で共喰いをするよりはずっとマシだからね」


「だったらゴブリン村にいる族長が、こいつよりも少し強いだけのヒュージゴブリンの可能性もあるのだよな?」


「ええ、その可能性もあるけれど、キャット族村の幹部としては、最悪の状況を考えておかないと何かあった時に対処できなくなるわ」


「最悪の状況というのは、ゴブリン族の族長がロードゴブリンの可能性だな?」


「ええ、ロードゴブリンに勝つのは難しいわ」


「俺がスライムに変化しても難しいと思うのか?」


「それはやってみなければ分からないけれど、今直ぐクリスティアンをロードゴブリンと戦わせたいとは思わないわ。

 できることなら他の種族と同盟を組んで万全の体制を整えておきたいわ」


「俺もそう思うから、キャット族の部族長会議で提案してくれるか?」


「ええ、わかっているわ。

 中には親兄弟をオーク族やドッグ族に喰われてしまった者もいるけれど、私たちだってオーク族やドッグ族を食べて生き延びてきたの。

 その辺は水に流さないと大魔境では生きていけないと思っているわ」


「じゃあ基本はゴブリン族以外の種族とは同盟を組んでゴブリン族と戦う。

 同盟を組むのは無理でも、休戦だけは結べるようにする」


「ええ、それでいいわ」


「クリスティアン先生!

 おばあ様!

 緊急部族長会議を始めるそうです、急いで村長の家に行ってください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る