大公公子でしたが、神与スキルが『悪食』だったので、王太女には婚約破棄され大公家からは追放され弟には殺されかけましたが、幸せに生きています。

第25話：引き留め工作

王歴３２７年２月２５日：南大魔境のキャット族村の治療所・クリスティアン視点

　オーク族狩りはとても順調だった。

　毎日２００人から４００人のオーク族を狩る事ができていた。

　キャット族の食糧事情は一気に好転し、俺がスキルを鍛える機会も増えている。

　１番伸ばしたい回復魔術を毎日１０００回近く使えている。

「クリスティアン殿、貴殿の助力には心から感謝している」

　自分のためにやっているだけなので、ヤスミン村長から正式に感謝されてもとまどってしまう。

　前世の記憶と知識、特に習慣や言葉づかいが戻ってきてしまっている。

　治療所で診察や治療をすればするほど前世の丁寧な言葉づかいに戻ってしまう。

「改まってどうしたのですか？」

「各部族の長や有力者からクリスティアン殿を確保してくれという要求が強くてな、逃げられないように報酬を渡そうと思っているのだ」

「俺が魔境から出られないという話はしましたよね？」

「それは大公家から命を狙われているからだろう？」

「ええ、そう言ったはずですか」

「クリスティアン殿はよく分かっていないのか？

　スライムやレッドボアに変化したクリスティアン殿は、とてもホモサピエンスが勝てるような強さではないぞ」

「それは、大公家の騎士団や王国の騎士団を敵に回してもですか？

　とても信じられないのですが」

「クリスティアン殿はホモサピエンスだから、同じ人間を強く評価したいのだろうが、ホモサピエンスの騎士団など我らから見ればゴブリンと変わらない。

　百戦錬磨のキャット族からみると、クリスティアン殿は無敵としか思えないぞ」

「それは知識の差だと思いますよ。

　キャット族にはホモサピエンスに対する偏見があるのです。

　魔境からほとんど出ないキャット族は騎士団の戦闘力を軽視しているのです。

　俺は大公家や王家の戦力もキャット族の戦闘力もこの目で見て知っています。

　今の俺ではスライムやレッドボアに変化しても殺されるだけです」

「……クリスティアン殿の話は本当かもしれないが、キャット族は信じないだろう。

　不安を感じている者たちは、今の状態を守りたい、維持したい一心なのだ。

　子供を産み育てられるだけの十分な食糧があり、ケガをしても病気になっても治してくれるヒーラーが村にいてくれるこの状態をな」

「ヤスミン村長の言いたいことは分かりますが、だったらどうするのです？

　まずキャット族には俺に渡す金銀財宝はないのですよね？

　食糧は俺自身で確保できますよね？

　この状態で俺に何を渡して村に引き留める気なのですか？」

「女だよ、女をあてがって引き留めろと言うのが彼らの言い分だ」

「……正直もの凄く気分が悪いのですが！」

「私も言っていて気分が悪いが、村長として言わない訳にもいかない。

　それに、女たちも嫌々クリスティアン殿に嫁ぐわけではない」

「……嫁ぐ、ですか？

　俺に女をあてがうと言うのは、俺に嫁をとれと言っているのですか」

「ホモサピエンスの結婚とキャット族の結婚がまったく違う事は知っているな？」

「文献で読んだだけですが、男は子作りするだけで、子供を育てないケースが多いと言う事でしょうか？

　ですがリンクス族のグレタ家はホモサピエンスとほとんど変わりませんでした」

「グレタ家は特殊なケースだから全く参考にならない。

　まあ、確かに、最近は子供が成人するまで妻に食糧を運ぶ男も増えている。

　だが今でも半数以上の男は子作りをするだけで育児にはまったく参加しない」

「子供が欲しい女性にとって、キャット族をホモサピエンスの女性と同じように接して、一緒に子育てする可能性の高い俺は狙い目だと言う事ですか？」

「ああ、その通りだ。

　クリスティアン殿はオーク族を狩る時の報酬をまったく受け取っていない。

　投石の狩りだけでも毎日莫大な量の食糧を確保している。

　それだけでも１０人や２０人の嫁をとっても十分養っていける。

　各部族の娘を嫁に取るのなら、今からオーク族を狩る時の報酬を要求しても誰も文句は言わないだろう」

「ちょっと考えさせてもらえますか。

　男性たちの反感を買うのは危険だと思うのです」

「分かった、引き留めろと言った連中には、クリスティアン殿が男たちの反感を恐れていると言っておこう。

　だが、それはまったく気にしなくてもいいと言っておく。

　元々結婚の贈り物１つ用意できない男に嫁はとれない。

　子育てに参加しない男は女たちから信用されていないから、結婚前に大量の贈り物を用意するのもキャット族の常識だ。

　贈り物が用意できる男は今までと変わらず子作りが可能だ」