第6話:ワースライム

王歴327年2月6日:南大魔境・クリスティアン視点


 いて、いたい、痛いぞ、痛いじゃないか、コツコツと痛すぎるぞ!


「うっううううう」


「さっさと起きろ、ホモサピエンス、いや、バケモノ!」


 いかん、気を失っていた!

 まずは移動だ、オークの2撃目を避けるのが何より優先される。


 なんだ、なにがどうなった?

 なんで助けようとした山猫獣人たちに囲まれているのだ?

 オークは、俺を殺そうと大こん棒を振り回していたオークはどこに行った?


「ホモサピエンスのフリをしていたバケモノ、正体を白状してもらおうか」


 さっきのとがめる声とは違う、堂々と落ち着いた声だな。


「ホモサピエンスのフリなどしていないぞ。

 俺は正真正銘のホモサピエンスだが、気を失っている間に何かあったのか?」


「ウソをつくな、このバケモノが!

 どこの世界に巨大なスライムに変化するホモサピエンスがいる。

 ワースライムなんて種族がいるなんて聞いた事もないぞ」


 ワースライムだと?

 俺がスライムに変化したとでもいうのか?!


「黙っていなさい、パオラ!

 私が話すジャマをするのではありません。

 他も者も同じです、私のジャマをする事は許しません!」


 本物の家長や族長の威厳というのはこういう事を言うのだろうな。

 身分や血筋ではなく、実力に裏打ちされた確固たる信頼と権力。

 俺の記憶がよみがえる前のクリスティアンにはなかったモノだな。


「さて、話を戻しましょう。

 貴男は気を失っている間に巨大なスライムになっていました。

 その姿で全てのオーク族を喰らったのです」


 ウゲゲゲゲゲ。

 俺がオーク族を喰らっただと?!

 広い範囲で言えば同じ人類のオーク族を喰ったなんて!

 うっおえええええ!


「げぇ、きったねぇえええええ、吐きやがった!」


「黙れて言っているでしょう、パオラ!

 混血可能な種族は同じ人族と考えているから吐いたのです。

 まだ正体ははっきりしませんが、とても健全な精神の持ち主です。

 それ相応の礼儀を持って接しなければ、一族から追放しますよ!」


「ごめんなさい、おばあ様」


「ホモサピエンスよ、まだ貴男がどこの誰かは分かりません。

 ですが、私たち家族を助けるために命をかけてくれた事は間違いありません。

 この通りお礼を言わせてもらいます、ありがとう」


 誇り高いキャット族が頭を下げてくれているのに、いつまでも吐いてられないな。


「……いえ、記憶が残っている範囲では、最初の奇襲が成功しただけです。

 それに、何か明確な理由があって助けに入ったわけではありません。

 何が原因で争っていたかは分かりませんが、オーク族とキャット族が争っていれば、オーク族の方が悪いと考えただけです」


「スライムに変化していた間の記憶がないのですか。

 ワーキャトやワータイガーは獣の姿になっている時の記憶はあると聞いています。

 だとしたら、貴男がワースライムという可能性は低い事になりますね」


「生まれてから今日まで普通のホモサピエンスとして生きてきました。

 もし本当にスライムの姿になっていたとしたら、神与スキルの影響でしょう」


「そうですか、神与スキルの影響ですか。

 見た目から判断すると、神与スキルを受けてそれほど間がないようですね?」


「はい、神与スキルのせいで弟に殺されかけました」


「色々と訳アリという事ですね。

 恩人をこのまま危険な魔境に置いておくわけにはいきません。

 私たちと一緒にキャット族の村に来ますか?」

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