第28話 春からの新しい風

「あ、来年からは同じ大学に行くことになったから。よろしくね、先輩」


「え?・・・え!?」


事実とは突然降ってくる。知らなくていいものもあるし、強制的に耳に入るようなこともあり様々だが聞く側の準備などお構いなくやってくるものだった。


「え?ちょっと待ってよ、それってどういうことなの・・・?」


「言葉のまんま。私、今年の四月から海人君と同じ大学に通うことになったから、学部は違うかも知れないけどもし校内会うことになったらよろしくね」


もし、ここが外か家の中であったのなら大声をあげていることだろう。それほど、今の僕にとっては衝撃の一言であり、なぜ今それを告げるのかも分からず頭がパニックを起こしているほどだった。


「どうして今それを言うのさ!合格発表の時とかその前の人生相談的な話の時には話題にすら上げてこなかったのに!」


「ハイハイ、そんな一気にしゃべらないでよ。私が言うのを忘れていただけ、これでいいでしょ。それにもし言わなかったとしたらサプライズ的になると思ったからあえて話さないようにしたって感じ」


「そ、そんな事…」


確かに受験期間はあまり関わらないようにしていた、それは彼女の為でもあったし志望校を聞かなかったのは互いにそこまでの仲とは思ってもいなかったからだった。

彼女は、そんな僕の気持ちも知らずにサプライズを成功させたのを喜んでいる様子だった。


「まぁまぁ、そんなに怒らないで。受かったわけだしいいじゃない。とりあえずさ」


そう言われて半強制的に話は終了した。どうやら満足させるほどの反応だったのだろう、僕自身もこれ以上、話を広げたとしても気分を悪くさせる気がして口をつぐんだ。


「海人くんは、次はどういった洋服着たかったりするの?」


「そーだなぁ、とりあえず季節的にも春だし春物は着たいかな。夏は…汗もかくしメイクも落ちそうだから今のところは考えてないかも。でも、浴衣とかは着てみたいなぁ」


「あー、浴衣いいね。てかお祭りとかあるのかなぁ?ここ最近はそういった事ないじゃん?」


「屋台とかはないかもだけど花火は今年から開始されるみたいだよ、それにオシャレで浴衣を着る人とか見かけたりするし」


去年の夏は、まだ女装に出会っていなかったからどうして花火もお祭りもない日に浴衣など着ているんだろう、と思っていた。けれど今思えばアレはオシャレ・ブームといえば説明はつく。

第一、数百年前は今着ている洋服なんてものは日本にはなく、浴衣・着物だったわけだし何ら不思議な事でもない。


「浴衣とかならレンタルとかでいいね、でも私的に行きたいところがあるんだ」


「ん?それって?」


「ほら!ハロウィンだよ!あれなら普通の女装でも絶対に浮かないし、もし滅茶苦茶上手くできたのなら一躍有名人じゃん」


そうだ、日本最大級のイベントと言えるほどで若い人がこぞってコスプレをする。ここ最近は盛り上がりすぎて警察が出動したして、あまり良いものを見たりしない。しかも、この状況下だ。去年は開催されなかったが、調べたら少人数で行われたりしている。


「有名人にはなる気はないけどハロウィンのイベントは楽しみだな。何の衣装は着ようかな、、、着たいものが沢山あって迷っちゃうな」


「ちなみにどういったものが着たいの?メイド服とか?」


「それもいいんだけど、普通に制服とか着てみたいかな。あとはアニメのコスプレでしょ、メイド服もいいよね。あとは・・・」


「あー、ハイハイ。そういう系にも目覚めちゃったのね・・・」


頭を搔きつつも、それを楽しんでいるのは彼女の優しさからだろう。

立てた予定が楽しみでしょうがない、きっとすぐにその日はやってくるのだろう


好きな服を着る。

それが法に触れるような恰好であれば話は別だが、異性のものだとしてもきっと許されるはずだ。

僕は今きっと好きな方を選んでいると実感している。一確かに人の目は気になるし自分が今の姿が浮いているのではないかと冷静になってしまう時だってあるし、誰かの不快な要因になっているのではないか、なんて思う時には手が震えて心が落ち着かない。


けれど、それでも・・・


「とりあえず楽しいんだもん勝ちだよね・・・」


今は難しくてもただ楽しんでいく。


そう決めて春を迎えた


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歩みだした男の娘 Rod-ルーズ @BFTsinon

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