夜の散歩

 私は、ひとり夜に散歩する。

 夜のひんやりした空気が好きだ。青白い月が見える夜は、特に良い。

 雲に隠れた月の方を見上げながら、私はいつものコースを通って公園へと向かった。


 点滅する死にかけた外灯の下を歩く。

 外灯には蛾が群がっている。すぐ近くのベンチでは、若い男がぼんやりと月を見上げるように座っていた。


「――月は何故いつもあんなところにいるのだろう。もし、オレが月に行けたとしたら……、もし、オレが月そのものになれたとしたら……」


 ふと男の声が聞こえてくる。

 その繊細過ぎる詩人のような台詞に、私は学生時代のことを思い出す。


「そういえば今里さん元気かな……」


 園内をしばらく歩いたあと、私はふと呟いてみた。

 今里とは、私が学生時代に世話になった人物だった。


 過去を思い返して、思い出に浸っていると、闇夜の満月がその美しい姿を現した。


 それにしても銀の十字架にだけは、気をつけなくてはいけないだろう。あの犬居がああもあっさりやられるとはな。

 心の中で犬居のことを考えていると、数十メートル先を歩く女性のシルエットが視界に入ってきた。

 私は口元を緩め、気を引き締めた。

 

「こんばんは。すみません、ちょとお伺いしたいのですが……」


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