覚醒

 

 授業を終えた彼女は、挨拶をすると教室をあとにした。

 俺は教室の窓からその後ろ姿を密かに見つめていた。

 彼女は笑うと、ドラマによく出ている実力派女優に、口元から鼻にかけた部分が少しだけ似ている……ような気がした。

 そう、俺はそんな彼女に恋をしていたのだ。


 しかし、問題があった。それは……。


「水平イナヅマドロップキィーック!!!」


「ウワッフ!!!」


 俺は背中に強い衝撃を受けて、文字通り吹っ飛んだ。身体が一瞬宙に浮いた……ような気がした。


「ハーハッハッハッハッ!!!」


 振り返ると、クラスメイトの留学生が仁王立ちで笑っていた。


「バッキャロー!!  いきなり何するんだよ!  腰骨が砕けて、一生寝たきりになったらどうしてくれんだよ!!」


 悪びれた様子を微塵も見せない留学生を、俺は眼球が痛くなるほど睨みつけた。


「ふんっ」


 留学生はわざとらしく咳払いをしてから起き上がる。そして、俺に視線を合わせずに呟いた。


「……もしそうなったら、私が、一生面倒見てやるさ……」


「えっ?」


 俺はまじまじと留学生を見入ってしまった。まるで、ショウウィンドウに飾られている限定品フィギアを物色するかのように……。


 突然、留学生の青い瞳が、俺の視界の中に入ってくると、俺たちは暫くその場で見つめ合う形となった。


 脳内で、最近巷で流行っていた「Devil's Triangle」が何度も繰り返し再生される。


 この時、俺の中で何かがゆっくりとしていたことに、当人である俺はまだ気づいていなかった……。

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