第24話 地球

 進入角度良好。

 落下予想地点、アフリカ南東部。

 機体を立て直すと、大気圏へ突入する。

 無線にノイズが走り、モニターは暗転する。

 振動がコクピット内に響き渡り、この機体は大丈夫なのだろうか? と考えてしまう。

 しばらくして回復したモニターには全面に青い海を広げていた。

 ブースターを最大限にふかし、パラシュートを開く。

 減速四マッハ。

 三。


 二。


 速度を維持すると、近くの基地へ進路をとる。

 通常のAnDならガス欠で水面に叩きつけられるが、この機体、スワローは各部にバーニアを施している。つまり、通常のAnDよりも速度も、燃料もあるのだ。

「大気圏内モードへと移行。……問題なし」

『き、……か? な……、』

 俺は無線機の調子を整える。

『聞こえるか? 内藤』

「感度良好。聞こえます」

 ホッと胸を撫で下ろすような吐息。

『今、近くの基地から艦が発艦した。すぐに出会えるはずだ』

「目標点入力。進路そのまま。維持しています」

『了解。地表部隊からのコールサインを待て』

 地表にいる艦がレーザー信号でデータを送ってくる。

「こちら内藤祐二。着艦の許可を頂きたい」

『こちらしるべ。了解。着艦せよ』

「了解」

 目の前に広がってくるグレー一色の艦、その甲板に降り立つと、それだけで一杯になってしまう広さ。

 小型の巡洋艦と言った位置づけか。後方にはミサイル発射口が見受けられる。

「導、許可を感謝する」

『これより帰投する。各員、チェック』

 こんな大荷物、よく持つ気になったものだ。俺だったら怪しくて乗せないが。

『聞こえるか? スワロー。内藤』

「聞こえる。どうした?」

『このまま警戒態勢を維持、敵影に気をつけろ』

「了解」

 地球に来ても、まだ戦いは続くのか……。

 頭を抱える思いで、俺は深くため息を吐くのだった。


「まずは着艦のお礼。ありがとうございます」

 俺は深く頭を下げる。

 導の艦長・松平まつだいらは軽く敬礼をする。

「よく来てくれた。歓迎するよ」

「は。もったいなきお言葉」

「固くなりすぎるな。ボクはそういうの苦手なんだ」

「でも、艦長としての威厳もないと、部下がついて来ませんよ?」

「そうだ。その通りだ。だからこの艦では苦労している」

 コーヒーメーカーを手に、コーヒーを煎れる松平。

「君も飲むかい?」

「え。あ、はい」

 俺はあまり愛想が良くないから、これくらいの好意は受け止めるべきなのかもしれない。

「いいよね。コーヒーは。心落ち着く」

「そうですね」

「なんだ。借りてきた猫のように大人しいな。もっと軽くていいんだぞ」

「そうは言いますが……」

 こればかりはやめられない。

 俺のクセみたいなものだ。

 誰に対しても尊敬の念を持っている。

 自分と違う人生、違う思考、違う性格。そう言ったものが俺の中で息づいている。

 それはきっと勉強になる。前に進める。だから他人を見たらまずは敬う。

 それで人間関係はうまくいく。

 と思っていたが、苦笑が漏れる。

「なんだ?」

「いえ。私は……俺はうまくやれていないようなので」

「そうだな。うまくやれていれば、ボクを楽しませてくれるさ」

「どいうふうに?」

「んー。腹踊り、とか?」

 ぷっと吹き出す俺。

 そんな俺の前に差し出されたコーヒー。

「面白かったか。良かった。ぜひ飲んでくれ。ボク特性のブレンドだ」

「はい。頂きます」

 心なしか、少し軽くなった気持ちでコーヒーに口をつける。

 香ばしい香りと、ほのかな苦味、そして少々の酸味がよいアクセントになっている。

「うまい。ですね。これ……」

「だろ? ボクはこれでもコーヒーに目がなくてね。あ、たまに失敗もするんだが、今回のできはいいだ」

 そう言ってもう一口飲む松平。

「うん。うまい」

 にこりと笑う顔が良い。爽やかなイケメンと言ったところか。

 しかし、この若さで艦長とは。実年齢は20代前半だろう。

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