第6話 恋心

「今日から特別訓練を始める。ASGまであと一週間を切った。気合いを入れて挑め!」

 熊野が真剣な面持ちでそう言い、覚悟を決めた俺たちはAnDに乗り込む。

 輸送艦は隕石群のある空域に向かっている。

『しかし特別訓練か』

 ティアラの透き通った声がこだまする。

『ミーティングでも言っていただろう。無人機を相手にするって』

 愛が冷たく言い放つとティアラがトーンを上げていう。

『聞いてたよ。でも実際とは違うわけじゃん』

 ティアラの言う通り、無人機には弱点がいくつかある。

 一つは決められた作戦行動はできるが、融通がきかない。ある一定の情報量を超えると、人間の脳が勝つのだ。

 そしてもう一つ。敵と味方の区別ができないこと。決められた敵は倒せるがそれ以外の者は見逃すよう作られている。だから民間人に扮した軍を見極めることができない。

 さらにもう一つ。これが一番の弱点であるが、AnDには敵の電子機器を壊す妨害電波を出している。

 AnDのいない戦場なら無人機は活躍できるが、それ以外の場所ではほとんど役に立たないのである。

 しかし今回のような演習において、AnDの電波を最初からオフにしていれば問題なく運用できる。

 そこで今回の演習だ。

 今までの戦闘訓練から外れた知識での戦いになる。

 強い奴が勝つ。そういわれてきたが実のところ戦略が物を言うのだ。一人ひとりの力の差を埋めることができる。

 そこで戦術をいくつかのパターン化し、無人機に行わせる。その際の人間側の対応力が求められる訓練になるだろう。

 俺たちがこの暗い海に放り出されると、それぞれの位置につく。

 赤チームは俺と火月、熊野。青チームはティアラ、愛、神住。

 ASGでは三人一組のチーム戦で行われる。

 それぞれが試合開始時間になるとバーニアをふかす。

 始めは、二機が前に出て一機が後方からの援護射撃。悪くない手だ。

 前の二機が大型シールドを持っているお陰で守りは硬い。そして後ろからの精密射撃。

 これには熊野も参ってしまう。

『撃ってもあたらない』

『なに弱ごとを言ってんだよ! あてる!』

 乱暴な物言いをし火月は狙いを定める。

「俺がバックアップに回る」

『助かる』

 俺が冷静に分析をし、火月の援護に回ると熊野は苦々しく呟く。

 俺は敵機と僚機の間に滑り込ませると、火月の射線上を予測、相手からの射撃を防御する。

『狙い撃ち! ひゃほー。当たったぜ』

 余裕のある声音で火月は敵にペイント弾をヒットさせる。それは後方で狙っていたAnDである。

 俺は射撃で場を乱すとそこに熊野のAnDが横からの射撃を撃つ。左右に展開した俺たちだ。敵に勝ち目はない。

 だが一機がバーニアをふかし、俺の方へ体当たりしてくる。

 慌てて蹴りをいれるがそれでも止まらない。

 後方にいた火月にぶつかり、宙で転げる。

 俺はその背後をとり、射撃。

 敵機撃墜の文字が画面に表示される。

 隣の空域でも戦っていたティアラたちも無事に演習を終えたらしい。

 ほっと安堵の息がどこからか漏れ聞こえしてくる。

『たははは。やられちゃった』

『ティアラは無理しすぎ』

 ティアラの乾いた笑いが聞こえてくると、神住が苦笑を零す。

『でも内藤くんはこうしていたもの』

『あのね。内藤君はあの反射神経だからこなせたの』

 ティアラの判断には、ケチのつけっぱなしだ。神住もネチネチとしつこく説教をたれている。

『け。また内藤かよ。耳タコだぜ』

 ぶっきらぼうに言い放つ火月。

 ティアラは何かと俺のマネをしたがる。そう思えてならない。

 銀色の長い髪。編み込みがされており銀糸のように細い。目はエメラルドのように碧色でキラキラと輝いている。

 肌は白く新雪のようにきめ細やかで、端正な顔立ち。

 小柄な体躯。パイロットスーツのヘルメットを脱ぐと、汗が飛び、それがLED電灯の光を受けてキラキラと輝いて見えた。

 その姿が今でも頭に焼き付いている。


 一目惚れだった。

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