第四章:約束のパンケーキと昔日の白の城。

04-01  夕暮れ空と白城のインターバル。

 サンセットバレーから無事に飛び立ち、高空域スカイブルーマウンテンに到達した星屑の勇者一行。スカイブルーマウンテン、その自由の象徴であるかのように見える大空とは裏腹に現在進行形で多くの思惑と因縁、陰謀が蠢く空の大海にて。スカイライダー:ローズ=ベンタバール・ミシオンと神獣:骨なるものの手によって導かれ、星の勇者の試練へと挑み多くの痛みと引き換えにこれを突破する。これによって得られたのは多くの情報と力、そしてクリスの本来の星の復活であった。

 神獣によって伝えられた、二年後この世界が魔神によって変貌するという未来。魔王グレイスの力を奪いプルガリオの姫君を奪った魔神の者、そして依然として行動し続けるものたち……。多くの意図が集約しつつある中で一行はスノーソルト山を目指す。

 魔界と直接繋がる境界の灯台を抑える結界のその向こう。吹き付けるは塩の吹雪、寒さの変わりに痛みが降り注ぐその場所を望みフレームホエールの中魔法霊馬は目を細める。パスカルと共にこの場所を訪れるのは二度目のこと、悲哀と苦渋を強いられたあの場所で、パスカルがこれ以上悲しむことがなければ良いのだけれど。


「ホエールフレームの塩害対策ヨシッッッ!! ちゃんと効いてるな、準備しといてよかったわぁ〜」

「寄るだけでもダメージが出るじゃろうに、伝えていたとはいえ無理をさせてすまないのう」

「いいっていいって、結界を越えるなんて久々だけど今回は俺の金ってわけじゃないし〜」

『おやそうなのですか? 渡航代は渡していますが、そちらまではお出ししていなかったような』

「あぁ〜、うん、実は別件に噛んでてさ。具体的にどうってわけじゃないんだけど、そのうち結界越えするかもしれないから前払いしとくわ〜みたいな感じでニコラスから金もらってたのよ、おれ。だからいつきても言いように備えてたってわけ」

「なんと、これまたすごい巡り合わせじゃのう。しかし良いのか?」

「いいんじゃね、ニコラスだし。どうせ世律議会の経費で落としてるよ」

 

「あの人苦労してるなぁ……、あ、こっちの塩害対策終わったよ。グレイス、確認してもらえる?」

「私もなのだ、これでよいのだ?」

「おう見せな、ふむ……ふむ、クリスもセルバも問題なしだぜ! にしても二人とも結構変わった術式を使ってるんだな、セルバの方はなんとなくひいお爺様が使ってたのに似てる気配がすっけどわっかんねぇし、クリスの方は表面はめっちゃ古めかしいのにコアになってるやつは見たこともねぇや」

「変わっているも何も体の作りが違うから当然なのだ、あと新式に関しては私は完全にウラシマタローだから組み直すのがめんどくさいのだ。クリスのは……単純に現代には存在してないからではないか?」

「一応未来で組まれたセットだからそうなのかもね、これでも当時からして見たら古典レベルのものなんだけど……」

「へー、セルバはともかくクリスはわざわざ古いの使ってたってことか? なんでだ?」

「いや、その……足りなかったんだ」

「何が?」

「……、知性が…………」

「あぁ……バカっぽそうだもんなお前……」

「クリス、セルバと一緒にお勉強するのだ。大丈夫なのだ、人は何歳からでも学べる」

「うぅ、やっぱりちゃんとやらなきゃだめだよなぁ。不束者ですがよろしくお願いします」

 

「うむうむ。ところでクリス、聞いてよいか? その、勇者の剣が見当たらないのだが」

「あぁあれ、壊れてたから賢者さんに頼んで再錬成中だよ。ちなみに型は鎧」

「えぇっ!?」「はぁ!?」

「月の魔力耐性って中々ないし面白いかなって……」

「あっ冗談じゃなく本気でやってるやつなのだこれ」

「いやいやいやマジで勇者の剣を炉に突っ込む奴があるか! えっマジでやってんの!?」

『やってまーす。絶賛煮付け中ですよ、いやぁ一度はやってみたいと思ってたんですよねぇ勇者の剣を素材とした装具への再錬成!』

「パスカルゥ!?」「わしだって止めたんじゃよ!! でも止めて止まったためしがないんじゃよっっっ!!」

「そっかぁ!!」「うううん、壊れていたというし仕方なかったのだろうなぁ……うううん……」

「元々扱いきれてなかったし、決戦までに完成するといいなぁ」

『そのあたりはお任せください。魔王城到達前には納品いたしますよ、その時になったら採寸させてくださいね。どうやら成長期のようですし』

「採寸は構わないけどそこはかとなく思惑が見えるのは気のせいかな……」

 

「今更じゃわい。それはそれとして成長期なのは間違いないじゃろうしのう、クリスいつの間に背が伸びたのじゃ? もうわしとほぼほぼ同じぐらいの背丈じゃのう」

「そういえば伸びてるのだ、体が成長してるというより変化のレベルなのだぞ。十歳ぐらいに見えるのだ、凛々しくなったのだ」

「ん? あぁそういえば視線高くなった気がする」

「気がついてなかったんかい」

『おやおやこれは、もしやクリス君自身がどういった種族なのか当人がご存じなかったようですね』

「え、何か違うの?」「人間で一種じゃねえんか?」

「違うぞい、あぁ本当に気がついておらんかったやつじゃな。普段あまり気にすることでもないから触れずにいたのじゃが……ちょうどいい、賢者よ」

『では僭越ながら軽く授業といきましょうか!』


『基本としてこの世界に住まう我々は肉体こそ似ていますが、命のあり方は種族によって異なります。パスカルは“ほむらの氏族“、セルバ様はエルフ族の中でも原種に近い“ライフィのタネ“。魔族のいうところの血族に近い感覚ですね、数えきれないほど多くの種族が住まうのがこの世界な訳ですが……その中でもクリス君は【かての氏族】とよばれる稀少な種なんですよ』

「氏族に種に、なぁ。人間ってぱっと見変わらないのに色々あるんだなぁ、めんどくさそ〜」

「かての氏族……、あぁそうか。クリスのような動きをする昔の仲間を見たことがあるのだ。彼と同じならあの戦い方も理解できるのだ」

「……そうなの???」

「本人が一番驚いてんだけど!? そういうの自覚があるとかそういうんじゃねえんだ」

「かての氏族そのものが謎の多い存在でのう。どこから来たのか、どう生まれたのかさえもよく分からないものがほとんどなのじゃ。セルバは昔の仲間にいたと言っておるが、そっちはどうだったのじゃ?」 

「アークたちは……マイペースなやつだったのだ、あまり自分のことも話さなかった……というか彼自身も覚えていないようだったしかての氏族は全体的にそういう気性なのかもしれないのだ」

『師団もそんな感じでしたからねぇ。それでかての氏族そのものの話ですが、簡単に言ってしまえばその体の制御を得意とするゴーレム系統の種族です。ぱっと見では分かりませんが肉体変化に長ける命の在り方が特徴で、形にこだわらないという意味ではポテンシャルの塊みたいな存在なんですよ」

「肉体変化……、あぁあれか。あれもしかしてみんなは僕が使う自刃再生魔法とか骨の形成とかできない……?」

「無理なのだ」「できる方がおかしいんだぜ」「むしろなんでできると思っとったんじゃ?」

「わぁこれがジェネレーションギャップ」

『セルバ様なら無理無理できなくはなさそうですが、基本的には独自のシステムで動いているという認識で問題ないと思いますよ』


「なるほどなぁ、かての氏族に関しては分かったぜ。けどそれでクリスの背が伸びたのとどう繋がるんだ?」

「ここまで聞いたならクリス自身のが理解できておると思うぞい」

「ん? あー、もしかしてあの試練で出てきた僕を食べたからかも」

「食ったの!?」

「うん、とどめを刺した相手の命を食べる……っていうか勝手に吸収しちゃうというか統合しちゃう癖があるんだけど、それで使えるリソースが増えて……寝てる間に再構築したのかも」

「それで体が成長した、ように見えたということなのだな。うむうむ、大きくなるのはよいことなのだ!」

「寝る子は育つということじゃな!」

「そうなのか……? えっそれで片付けていい話かなぁこれぇ……?」

「いいんじゃないかなぁ、……多分」


「ところでスノーソルトの構造とか状況とかほとんど知らないんだけど、現地見た方が早い?」

「私もなのだ、どうなのだ?」

「塩害に関しては見たほうが早いからのう、それにあそこは灯台以外はもう何もないはずじゃ」

「けどメルクは門で待ってるっていう話だったな」

『灯台を占拠するつもりでしょうが、どうでしょう。あの方を抑えるとなると相当の敵ということになりますが』

「あいつの弟じゃからのう、そう簡単に落ちるとは思えんが……」

「強い人なのか?」

『強いですよ、勇者の弟なので』

「なるほど」「うむ!」

「何か考えがあんのかも知れねえ、できれば話したいけど斬りかかってきたら殴り返してもらって構わないぜ」

「わかった、全力で殴る」

「大丈夫なのかグレイス、クリスがこういうと本気で殴ってしまうのだぞ」

「……は、話し合いはさせてくれよ!? 頼むぜ!?」

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