02-02 BGM流れただけで死ぬ敵だってわかるのあるだろ、それだ。

「で、意気揚々と進んでいたわけなのじゃがなぁ~~~~~んかおかしいのう!! ハッカの森ってこんな霧深かったかの!?」

『いやぁ~~~~~わかんないですね~~~~~!!! どうしてこんなことになっているんでしょうかね~~~~!!』

 

 眠りの里への道は順調かと思いきやこれまたひどいことになっておった。森を通過する旅人の為に整備されたはずのレンガの道は軽く水没し、周囲の木々は黒く萎れておる。ハッカの風のどこへいったのやら先が見えぬほどの白い霧に、ぞわぞわと上がっていく湿度がもうやばい。馬車に乗っていたから多少はマシなものの進むたびに気持ち悪さが増しおるわ。


「なんか果物が腐ったみたいなヤバイ臭いがする……、やば、頭痛くなってきた」

「あ~これあまり意識しないほうがよいぞ。クリスくん耳を貸し、悪臭避けのイヤリングじゃ」

「助かる……あぁやっと少しマシになったな。この森、こういうことはしょっちゅうなのか?」

「記憶にある限りはないのう! 森が枯れたとかは聞いたことはあるのじゃが森が腐るのは初耳じゃぞ、なぁ賢者」

『……そうですね、少なくともここ三百年では初めて事かと思われます。おそらく里で何かあったのだとは思いますが、これは……』


 賢者はそこまで言うと何か思い当たる節があるのか考え込んでしもうた、こうなった賢者は自力で戻ってくるまで動かぬ。やつがそこまで考え込むとは嫌な予感がするのう!


「とにかく進むしかないかの、妖精たちが無事であればよいが……クリス? どうしたのじゃ」

「……、誰か呼んでる? 少し確認させてくれ」


 ふとクリスが馬車を飛び降り周囲を見渡す、その顔には焦りが見えたところでわしは霊馬に止まるよう指示を出した。どうやらただならぬ状況のようじゃ。


「誰だ? どこにいる!? 層が違うのか? ”聞こえているぞ!! どこに向かえばいい!範囲拡大、声掛け”」


 クリスの声が霧を震わせる。すると何か返事を聞いたのか、クリスは道から逸れた藪の先へと飛び込んでいきおった! この状況で一人はまずい! わしもさっさか追いかけることにした。


「クリス!? 何を聞いたんじゃ!」

「誰か倒れてるみたいなんだ! ちょっと急ぐ!」

「おおうお主ガチで動くと忍者みたいな動きするのう!? ちょ、気をつけるんじゃぞ!!」


 器用に森の隙間を縫いながら進むクリスの背を見失わないように走る、おぉさすがこどもの身体こんな無茶をしてもぜんぜん元気じゃ! すごい!

 ちょっとテンションあがりながら藪を抜けると泉のような場所に辿り着いた。泉、とはいっても周囲が水没しておるせいで泉の境界線が混ざり水も濁っておったが。その傍らに先行していたクリスが何かを抱えて座り込んでおった。


「パスカル王、これ、どうにかなるかな?」

「うむ? よくみせい、……これは、」


 クリスが腕に抱えておったのは、幼子ぐらいの大きさの妖精のようじゃった。森の空気のせいか髪が萎れて、肌もまるでカビが生えたかのように黒ずんでおる。泉に浸かっていたせいか身体が冷え切っている、わしのマントを外してくるんでやったが随分と軽かった。


「クリスくん、勇者の力をちょっと起こしてくれるかの?」

「ん、分かった」


 妖精の手を祈るように握り、クリスが身体に刻まれた勇者の力を呼び起こす。白銀のエナの輝きを、わしの王の魔力でちょっといい感じにして妖精に注ぎ込んだ。活動に必要なエナを貸し与える、何にも染まらない勇者の万能魔力にしかできない小技じゃがうまいこといったようじゃ。

 

「あ、顔色がちょっと戻った。よかった……間に合ったんだな」

「しかし油断ならんぞ。一度馬車まで連れて戻ろう、これ以上の治療は賢者の力が必要じゃ」


 よしちょっと走るかの!

 そう立ち上がった直後のことじゃった。森がざわめく、霧が渦巻く。泉の周りには鳥肌が立つほどの殺気が立ち昇り、霧の中から人影が形になっていく。黒檀色の黒い髪がさらりと揺れる、一人の青年がそこに立っている。乾いた外套に隠された剣が瞬く、一人の勇者がそこに立っている。


「──な、」


 それは、かつてのライバルの姿だった。


「サイファー? おまえ、なのか?」

「ッ!! パスカル王!! 逃げるぞ!!」

「エッ!? ちょっクリスくん!? まっ待つのじゃっ!?」

「待てない!! 動かれたら死ぬぞ!? あぁもうなんでいるんだよ!!」

「なっ、なあ!?」


 えらい焦りようというかキョドりようでクリスが腕を掴んで離さない。

 妖精を片手に抱えながらそのまま引っ張られるように突っ走るが、どうしても気になってわしは振り返った。しかしそこにはなにもいない、さっきまであれほどあった殺意も霧のように消え失せてしまっていた。

 魔法馬車の前までくるとようやくクリスが手を放した、本当に焦っていたのじゃろう肩で息をしておる。まぁわしも似たような状況なのじゃが。


「し、しぬかとおもった……心臓縮むっていきなりは……ッ!」

「ぜぇ……ぜぇ……急に走り出すからびっくりしたぞいっ、た、確かに目つき悪いがそこまで逃げることあるかの?」

「目つき悪いどころか目で殺してきそうなツラしてるだろ! あぁほんとなんとか敵視切れてよかった……足場最悪なところでアグレッサーは無理……」

「えっ、あ、あぐれっさー?」

「えっ? ……え? 今出たよな、あの、骸骨騎士みたいなの」

「骸骨?? いや、わしが見たのは友の姿じゃったよ」

「え、え、パスカル王はアグレッサーとお友達????」

「まてなんか混ざっとるぞい? 落ち着け???」

『戻ってきましたね。おかえりなさい、いかがでしたか』


 馬車前で混乱するわしらを置いていくように賢者が出てくる。そうじゃ、患者がおるんじゃった! 馬車に妖精の子をあげ広げた毛布に横たえると、賢者が『おや……』と声を零した。


「クリスが見つけたのじゃ、任せられるかの?」

『お任せください。普通の賢者ならば少々かかるところでしょうが、私は普通ではないのでこれぐらいすぐですよ』

「普通の賢者ってなんだ?」

「普通の賢者なのかもしれぬ、分からん」

『ですが処置中無防備になるのでその間よろしくお願いしますね』

「え、」

『ではここで外をご覧ください、この状況を現す言葉は?』


 おうおうおう怖いこというなとビビりながら幕を捲ると、そこには真っ赤な目がそれはもう数の子のようにうじゃうじゃと!

 

「僕知ってる、これ、四面楚歌っていうんだ」

「クリスくんは賢いのう! そうじゃな、これは確かに四面楚歌じゃ」

『正解です、では頑張ってくださいね────ッッッ!!』

「「やだ────────ッッッ!!!!!!」」


 ええいどうにかするんじゃよ────ッッッ!!

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