第3話 追放される話③

連行される日の朝、衛兵に連れられ馬車の前まで来たがそこには誰1人として見送りはいなかった。


「当然か、みんな僕がやったと思っているんだから」


パーティー内の混乱を生まないようにするため、という名目でラントとイルマ、ミルナ、アラリウル以外のメンバーは事件の真実を知らない。


つまりアラリウルが全てやったと聞かされているのだ。


アラリウルはもう絶望感すら感じない。


そんなものはもう通り過ぎて、あるのは少しの復讐心と無力感だけだった。


そんなアラリウルが衛兵達の雑な手引きで馬車に乗り込もうとした時―


「アラリウルさ〜ん、どこに行くんすかぁ? 」


アラリウルにとって1番会いたくない人物に呼び止められる。


「ラント― いいのか、こんな犯罪者の見送りになんか来て」


アラリウルは目の前にいる美形の青年ラントとの会話に、嫌味をたっぷりと含ませる。


「怖いなぁ、せっかく見送りに来てやったのに、何でそんなにキレてんすか? 」


ラントはその整った顔立ちを醜く歪ませながら微笑んだ。


「そういや、コレ見てくださいよ」


ラントは思い出したかのような素振りを見せて、ポケットから新聞紙を取り出す。


「“明星の華の幹部アラリウル、グリッド公爵の領地燃やす。それにより魔除けの結界が破壊され魔物による被害多数。アラリウルは昔から仲間にたいしても横暴な態度を取っており。 事件発覚当初は後輩であるラント・ラジカに罪を擦り付けようとしたようとした模様。 これは天罰か”って酷い書かれようですねぇ 」


白々しさ全開の演技で、ラントは悲しそうな顔をする。


「そうか、そうか、君はいいやつなんだな。 知らなかったよ」


アラリウルは軽く受け流す。


もはや世間にどう思われようとアラリウルにはどうでもよいことだった。


そんなアラリウルを見てラントは一瞬面白くなさそうな顔をした後もう一度新聞に目を向ける。


「あ、見て下さいよここ。 アラリウルさんならまだしも、ご家族についても書かれてますよ」


「!? 」


アラリウルはラントから新聞を取り上げ、記事を読む。


「“母メリル、妹ベルの血の繋がってない家族がいるようだが、その家庭環境は最悪で、召喚獣を使い家族ぐるみで様々な犯罪を犯していたようだ。 今回の犯行に関しても何やら家族が1枚噛んでいるという話も― ” ……… なんだよコレ」


アラリウルは気付かぬうちには新聞を握る手に恐ろしく力がこめていた。


「ちょっとちょっと、それ俺が買った新聞すよ」


ラントはセリフとは裏腹に高みの見物をするかのような態度でそう言った。


「お前が、僕の家族について話したのか? 」


「まぁ、否定はしないッスね 」


ラントはウインクをする。


「僕の家族は普通の一般人だ。 ここに書かれているような悪行は一切していない。 こんな嘘にまみれた記事を………… よくも、よくも!!!」


アラリウルはラントに飛び掛る― が、衛兵にすぐに取り押さえられてしまい身動きが取れなくなる。


ラントはつかみ掛かられた襟元をなおし、息を着くとタバコをくわえる。


「ずーっとこうしてやりたかたったんだ。 俺のやることなすこと一々口出してきて本当にウザかったぜ。 まぁお前がいなかったら、イルマやミルナとの間に共犯関係を成立させられなかったから感謝してるよ。お前は牢獄から俺が勇者になる様を見ておけばいいさ。安心しろ、きっと近いうちにお前の愛する家族もグリッド公爵の元へと送ってやる」


「ふざけるな! 僕の家族は関係ないだろ! 」


アラリウルは衛兵たちの腕の中でドタバタと暴れ回る。


「関係あるかないかなんて関係ない。 俺がそうしたかったからそうするんだよ♪ 」


ラントの狂気じみた笑みには何の話か分かっていない、衛兵達すらたじろいでしまう。


アラリウルはその場に膝をつき頭を地面に叩きつけ、土下座をした。


「頼む、裕福ではないのに身寄りのない僕を受け入れてくれた大切な家族なんだ。 何より僕の妹には夢がある、僕は経済的な支援しかしてやれなかったけど、これからはそれも出来なくなる。 だから、頼むから家族にだけは何もしないでくれ」


アラリウルは涙ながらにそう訴えつづけた。


しかしラントは勝ち誇った顔でアラリウルの頭を踏みつける。


「お前の家族がどうなろうがなぁ、その苦痛よりも…… お前せいで女を抱く機会を失ったり、ムカつく奴を殴れなかったりした俺の心の苦痛の方が大きいんだよ!!」


バキィという音ともにアラリウルは頭を蹴り飛ばされる。


アラリウルの頭は馬車に強く打ち付けられる。


アラリウルは薄れゆく視界の中でラントの嫌らしい微笑みだけが鮮明に見えた気がした。


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